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エンディング

 ヨッシー公の就任式――いや、今はもうヨッシー王の戴冠式も無事に終わった。

 各国の使節たちも満足して帰っていき、塩や温泉、農作物の評判も広がり始めている。

 遺跡の村も以前とは見違えるほど活気に満ちていた。

 温泉宿には客が訪れ、孤児院では塩の商品化が続き、農地には青々とした作物が揺れている。

 振り返れば、本当に色々なことがあった。

 石化から目覚めた人々。

 ヨッシー王との出会い。

 ランケの旅立ち。

 ハクとの生活。

 塩湖の発見。

 そして、多くの仲間たち。

 しかし、ある朝。

 俺はふと思った。

「帰ろう。」

 それは誰に言われたわけでもない。

 ただ自然に出てきた言葉だった。

 その日のうちに、俺はユーコとハクを連れて王都へ向かった。

 ヨッシー王とランケに別れを告げるためである。

 王城では二人とも驚いた顔をした。

「帰る?」

 ヨッシー王が聞き返した。

「ああ。」

「まだ頼みたいことが山ほどあるのだが。」

「私もです。」

 ランケまで珍しく同意した。

「リク殿がいてくだされば、どれだけ助かることか。」

 俺は苦笑した。

「だから帰るんだよ。」

「どういう意味だ?」

 ヨッシー王が首を傾げる。

「俺はもう空っぽなんだ。」

 二人は黙った。

「人間には充電が必要なんだよ。」

 俺は窓の外を見た。

「それが一ヶ月なのか、一年なのか、十年なのかは分からない。」

 青空の向こうには、遥か彼方の森がある。

 俺が帰る場所だ。

「でも今の俺には必要なんだ。」

 ヨッシー王はしばらく考えた後、

「そうか。」

 とだけ言った。

「止めるのは野暮というものだな。」

「ありがとう。」

「ただし。」

 ヨッシー王は笑った。

「また困った時には呼ぶぞ。」

「その時は考える。」

「来る気がない返事だな。」

「ははは。」

 久しぶりに三人で笑った。

 ランケもまた深く頭を下げた。

「リク殿。」

「なんだ?」

「私は貴方に出会えて本当に良かった。」

「俺もだよ。」

「いえ。」

 ランケは首を振った。

「私は歴史を学んできました。」

 そう言って続けた。

「しかし貴方から学んだことは、どの書物にも書かれていませんでした。」

 少し照れくさかった。

 だから俺は誤魔化すように言った。

「それはたぶん、俺も失敗ばかりしているからだ。」

「ですが、その失敗を隠さないところが貴方の強さです。結局、最後まで敵いませんでした。」

 謙遜してそう言っていたが、礼について語っていた頃のランケはもういない。

 今や立派な宰相だった。


 別れの日。

 王都の門には多くの人が集まった。

 孤児院の子供たち。

 ホワイトバード。

 アベリア。

 村の仲間たち。

 みんな見送りに来ていた。

「リク様ー!」

「また来てください!」

「温泉の管理は任せてください!」

 皆が口々に叫ぶ。

 俺は手を振った。

「じゃあな。」

 するとハクが不思議そうに聞いた。

「リク。」

「ん?」

「帰ったら何する?」

 俺は少し考えた。

 そして笑った。

「何もしない。」

「何もしない?」

「そう。」

 ユーコも横で頷く。

「それ大事。」

「そうなのか?」

 ハクは首を傾げた。

 俺は空を見上げた。

 人はつい結果を求めてしまう。

 何かを成し遂げようとする。

 誰かに認められようとする。

 だが、そればかりでは疲れてしまう。

 畑も休ませなければ痩せる。

 人間も同じだ。

 だから今は休む。

 エルフの村で。

 世界樹の傍で。

 のんびりと。

 ゆっくりと。

 何もしない時間を楽しもうと思う。

 街道を歩き始める。

 前には深い森。

 木々の向こうには懐かしい故郷がある。

 風が吹いた。

 森の香りがした。

 ユーコは鼻歌を歌いながら歩き、

 ハクは楽しそうにその周りを飛び回る。

 俺はその後ろ姿を見ながら思った。

 幸せというものは、後から振り返った時に気付くものなのかもしれない。

 昔のアルバムの中で笑っていた自分が、本当は幸せだったように。

 今この瞬間も、いつか振り返れば、きっと幸せだったと思うのだろう。

 だから今は、それで十分だった。

 こうして――

 追放された荷物持ちだった俺は、世界樹の護り人として、再びエルフの村へ帰る。

 急がず。

 焦らず。

 自分の歩幅で。

 そんなスローライフが、また始まるのである。

              ― 完 ―


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