追放した荷物持ちの価値
「おい、食料はどうなってる!?」
迷宮都市シブヤ、地下二十一階層。
怒声を上げたのは、疾風ウルフのリーダー・カインだった。
しかし返事はない。
いつもなら。
リクが即座に、
「残り三日分あります」
「水はこっちです」
「回復草は劣化する前に使ってください」
と管理していた。
だが、今は誰も把握していない。
「……えっと、食料袋どこだ?」
「お前が持ってたんじゃねぇのか!?」
「知らねぇよ!」
空気が険悪になる。
たった一日。
それだけで、パーティは崩れ始めていた。
「くそっ!」
カインは舌打ちした。
原因は分かっている。
リクだ。
あの雑用係。
戦えない役立たず。
……そのはずだった。
だが実際に抜けてみると、異常だった。
荷物の配置が分からない。
予備武器の場所も不明。
魔石灯の交換時期も誰も覚えていない。
食料配分も滅茶苦茶。
さらに。
「おい、地図は!?」
「……リクが持ってた」
「はぁ!?」
全員の顔色が変わる。
探索ルート。
安全地帯。
魔物の縄張り。
全部、リクが記録していた。
「なんでアイツに任せてたんだよ!」
「いや、自然にそうなってただろ!」
「誰も覚えてねぇぞ!」
怒鳴り合いになる。
その時だった。
――グルルルル……。
通路奥から低い唸り声。
「っ! 魔物!」
現れたのは、
三つ目を持つ深層狼。
本来なら問題ない相手。
だが。
「フォーメーション!」
カインが叫ぶ。
しかし誰も動けない。
荷物が散乱している。
武器の位置が分からない。
連携もズレる。
その瞬間。
ズガァッ!!
「ぐああっ!?」
前衛の男が吹き飛ばされた。
「回復薬! 回復薬どこだ!?」
「し、知らねぇ!!」
混乱。
絶叫。
崩壊。
カインは初めて理解し始めていた。
今までパーティが上手く回っていた理由を。
数十分後。
ボロボロになった彼らは安全地帯へ逃げ込んでいた。
「はぁ……はぁ……」
沈黙。
重い空気。
そこで一人が呟く。
「……リクがいた時、こんなこと無かったよな」
誰も反論できない。
カインの眉が動く。
「いや……でも、あいつは弱かっただろ」
そう。
弱かった。
実際、戦闘力は低い。
だが。
「……荷物整理も」 「地図も」 「食料管理も」 「薬草の品質管理も」
全部、リクだった。
さらに。
後衛の女魔法使いが震える声で言った。
「……ねぇ」
「なんだ」
「ステータス、下がってない?」
空気が凍る。
「は?」
一人の探索者が青ざめながら呟いた。
「……まさか」
「リクのスキル……?」
思い出す。
あの地味スキル。
誰も興味を持たなかった能力。
荷物持ちだからと馬鹿にしていた少年。
カインの脳裏に、リクのステータスが蘇る。
「……嘘だろ」
喉が乾く。
つまり。
今まで自分たちは。
リクに強くしてもらっていただけだったのか。
「ふ、ふざけんな……!」
カインは拳を叩きつける。
認められるわけがない。
自分は強者だ。
選ばれた探索者だ。
荷物持ちに支えられていたなど――。




