【2】 初日はダメダメでした
(ーーったく、女子からやたらと話しかけられるしなんなんだよ・・)
一方フローレの心配していたシルディアルはというと周りから話しかけられすぎてイライラしていた。
フローレと違いシルディアルは教室に入ったとたんクラスにいた女子数名に囲まれたのである。そして、囲まれたまではいいが、そこから好きな人がいるのか、何が好きかなど色々質問攻めされていた。
数十分間質問攻めされていたシルディアルも最初のうちはちゃんと答えていた。だが。段々とフローレ以外の女子と話すのが面倒くさくなり、結局教室を出て女子たちから逃れたのだった。
「はぁー・・フローレに会いたい・・。フローレ大丈夫か・・?」
シルディアルはもうドアの閉まっている二組の教室へと視線を向ける。心配しても意味がないのは分かってはいるが、どうしても気になってしまう。
だがこのまま女子から逃げていたリ、心配し続けてもただ時間が過ぎるだけなので、シルディアルはため息をついたあと、もう一度自分の教室へと入るのだった。
* * * *
「えぇ・・では自己紹介を始めます」
あれから三十分近くが経ち、担任の先生が教室へと入ってきて自己紹介をする流れとなった。
(あれ?この先生の顔どこかで・・)
私はじっと目を凝らし教壇の前で話し出す線背の顔を見る。だが目が悪いせいかぼやけてよく見えない。うぅ・・暗いところで本を読んだ弊害がここで来るとは・・
毎回毎回シルディアルに注意されていたのに・・。
「・・さん」
今度眼鏡でも作るべきだろうか。でも眼鏡はなぁ・・
「・・レさん」
たまにお兄様が掛けているけど、掛け始めたころ耳が痛いと言っていたのを私は覚えている。だから正直言って眼鏡は・・
「フローレさん!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
眼鏡なんかのことを考えていたせいで話しかけられていたのに気づけなかった。私は名前を呼ばれたのと同時に席から立ち上がった。
「はぁ・・では、自己紹介を」
「あ。はい」
どうやら自己紹介の番が回ってきたようだ。だが、先程と同じ誰も私と目を合わせようとしない。
(あぁ・・初日からこれじゃあ今後が不安だよ・・)
思わずため息をつくと、ギロリと教団の前に立つ担任から鋭い視線が飛んできた。早く自己紹介をしろということだろうか?
「えっと・・フローレ・ビルディーです。好きなものは・・・」
ここで言葉に詰まった。普通なら魔術と答えたいが、先程のこともある。ここは魔術を広めるために一旦言わない方がいいだろうか。だって話しかけられないままじゃ、魔術のこと広められないし・・。でも好きなものに対して嘘をつくことは・・・
「魔術です!」
できない!!だって魔術が好きなんだもん。どうしても嘘は付きたくなかった。
私は目を輝かせ周囲を見るが、先程より状況が悪化していた。自己紹介前までは目は合わずとも姿勢だけはこちらに向けてくれていたのに、姿勢すらこちらに向いていなかった。
担任を見るも目を逸らされてしまった。
「・・・次」
「はい。私は・・」
私は音もたてずに席に座り、左にある窓を見てこう思った。
(私の学園生活やばいかも・・)
と。
* * * *
「やっと寮にたどり着いたよー」
私は目の前にあるベッドへとダイブする。侍女が全て支度をしてくれたおかげで、すぐに寝ることも可能だ。本当に私の侍女って有能・・あれ?
「そう言えば私の侍女って誰?」
「もう!私をお忘れですか!?」
「そ、その声は・・!」
私はベッドから起き上がり、声のした方へ視線を向ける。そしてそこにいたのは・・
「私ですよ!お嬢様の専属侍女、ミルティアです!」
「ミ、ミル~!」
私は嬉しさのあまりミルディアに抱き着いた。だってミルは私が五歳の頃からずっと一緒にいる人だもん。ミルは私より十歳年上で確か今年で二十二歳だ。
私が魔術を学びたいと言った時、使用人たちは一線引くようになってしまったが、ミルだけは違った。ミルだけは私が魔術を学びだしても相変わらず前と変わらない態度で接してくれている。
「聞いてよミル!今日初日なのにクラスのみんなに無視されたの!」
「なんですと!?お嬢様の侍女である私が少しお話をしてきましょう・・」
「あ、それはやめて!別に嫌がらせされているわけじゃないから・・」
私はミルが本気で”お話”をしに行こうと見て慌てて止めた。さすがにこの状態のミルを外に出したら次の日には血まみれの女子生徒が教室で土下座していることだろう。
だってミルのお話は拷問に近いお話なのだから・・・。
昔間違ってミルのお酒を飲んだ使用人が次の日の朝、血まみれの状態のまま庭に転がっていたことがあった。
(あれを見ちゃったらミルのお話を実行させるわけにはいかないんだよね・・)
私は苦笑いをしてミルを見た。
「ミル、お話はしに行かなくていいから私と一緒にお喋りしましょ?」
「・・・!お、お嬢様!!」
ミルは目を輝かせて、私に抱き着いた。先程の逆である。
「じゃあ紅茶でも飲みながら女子会でもしましょうか!」
「はい!私紅茶入れますね!」
(ふぅーこれで罪のない・・あるかも?しれない女子生徒を守れた)
私は笑顔のまま紅茶を入れるミルをみてそう思うのだった。
* * * *
「はぁー結局フローレと会えなかった」
自己紹介やら書類やら色々渡されて、やっと長いHRが終わったと思い教室を出たら、もう隣の二組は空っぽだった。
フローレに会うために女子の会話も我慢したというのに・・・。
その後寮の入り口やら食堂やら回ったがフローレはどこにもいなかった。フローレがいないならもう部屋に戻ろうと思い俺は部屋へ戻った。
部屋へ戻ると従者が珈琲を入れていた。
「あぁ・・シルディアル様、お戻りでしたか・・」
「戻ったが・・なんでお前がここに居んだよ!!」
「なんでと言われましても従者ですから!」
「・・・」
確かに従者と言えば従者なのだが、目の前にいる従者は俺の同い年で今年学園に入学したロルフ・フィネットだ。こいつは今年から同級生だからということで連れてくる従者からは外したはず・・なのになぜ!?
「・・お前の従者は?」
「俺の従者は俺です」
「俺の従者は」
「俺です」
「一人二役かよ!!」
「いいえ!一人三役です!」
「どうでもいいわ!」
叫びすぎたせいで喉が渇いた。俺は珈琲の入ったたカップを手に取り飲んだ。
(ふぅーやっぱり、ロルの入れる珈琲は美味いんだよな・・)
何だかんだ文句を言ったが、俺のことを一番分かっているのはロルフなので正直言って従者枠がロルフなのは有り難かった。
それを分かってかロルフはニコニコと俺を見ている。
「はぁー。もう・・いいけどさ」
俺は頭を掻きむしってベッドへと寝っ転がった。
(あぁ・・俺の学園生活どうなっていくのだろうか)
ミルディア・レルヴィン(22)
貧乏子爵家の三女。神経が図太く、身体能力も高い。よくフローレから隠密が向いていると言われる。だが可愛いものには目がなく、部屋はウサギのぬいぐるみでいっぱい。
ロルフ・フィネット(12)
シルディアルの幼馴染であり、使用人。親の爵位は男爵。シルディアルの影響もあり、魔術に対してそこまで嫌悪感はない。いつも笑っていて、フレンドリーな性格。誰とでも仲良くできるが学力は・・。実はシルディアルよりも運動神経がいい。クラスは四組。




