【3】 選択授業
学園に入学してから早一週間が経過した。
(・・なのに友達が一人もできない)
私は教室の隅の方の席で縮こまり、そのことについて嘆いていた。
顔を上げ教室を見るが、大半の生徒は誰かと連んでいる。そりゃあ一人の生徒もいるけど、私とは違い声をかけても無視はされない。
ただ一人が好きと言う感じだ。
それに対し私は…。
「ね、ねぇ!今日の天気は快晴だね!」
「・・・」
こうである。肩に手を置いて話しかけても、汚物を見るような目で見られた後、手を振り払われて終わりだ。
(別に知るディアルが隣のクラスにいるしぃ?私一人でも全然大丈夫だしぃーー)
・・いや一人だと困るな。うん。
(だって一向に魔術のこと広められてないんだもん!ゼルディスのこともあるから無理やりは出来ないし)
このままでは無視されて学園を卒業してしまう。それだけは何としてでも避けなければ!!
‥あ。でも部活を作れば?でもそれにも部員が必要だし…。
「ほら、席につきなさい」
私が意気込んでいると教室に担任が入ってきた。何やら紙を大量に持っている。その紙たちを教壇の上に置くと、咳払いをし担任は話し始めた。
「明日から選択授業が始まる。皆には前もって希望を書いてもらったはずだ。その決定した紙を今から配る。希望通りになった者やならなかった者がいるだろうが、半期後に選択授業を変えることもできる。希望通りにならなかった者は半期後、希望通りの選択授業になるはずだ」
担任は説明が終わると、紙を生徒に配り始めた。私も紙を受け取り、中身を確認する。
(ま、予想通り)
私の紙には「魔術」と書かれていた。
確か選択授業は「魔術」「裁縫」「料理」「剣術」「乗馬」の五種類。剣術と乗馬は男子に人気で、裁縫と料理は女子に人気だそう。
もちろん裁縫の選択授業に男子がいることもあるし、乗馬の授業に女子がいることもある。
人気の選択授業で定員オーバーの場合、成績順で決まっていくそうで成績下位の人はおのずとは不人気の授業になってしまうらしい。
なので・・
「わ、私魔術の選択授業・・」
「これだけは嫌だったのに」
そう項垂れている生徒が二、三名。こういうこともある。
まぁ選択授業は半期の内に二回以上出席すれば単位はもらえるので、この人たちは最低限出席したら、もう魔術の授業には出席しないだろう。
(こーんな面白いものなのに)
私は魔術で水を出現させ、猫を作った。
鳴きはしないが可愛い。
だが。
(クラスでの友達が水で作った猫とか笑えないな‥)
私は苦笑いをして、そっと窓の外を見るのであった。
明日には友人ができますようにと願って‥。
* * * *
そして次の日。‥選択授業の時間がやってきた。
私は前の授業が終わるなり、筆記用具と教科書を持って魔術の授業をやる教室へと向かった。
走ると先生に怒られるので、早歩きである。
(この前廊下を全力ダッシュしたら教頭先生に見つかって一時間お説教されたんだよね‥)
授業に遅れる!と言い訳をしたが聞いてもらえず結局授業に出ることはできなかった。
これなら遅れてでも走らなければよかったと後悔したものである。
そんな後悔を思い出しつつ、私はとある教室の前で止まる。
(えっと‥確かこの教室だよね?)
私の目の前の教室の札には『実験室Ⅱ』と書かれていた。間違っていると嫌なので確認のため、私はポケットに入れておいた選択授業別を実施する場所と書かれた紙を取り出した。
魔術の欄を見れば『実験室Ⅱ』と書かれていた。間違いない。ここである。
私は深呼吸をしたのちドアを開けた。
きっと一番だろうと思ったが先客がいた。
「あ、シルディアル。もう来てたんだ」
「まぁな」
教室を見渡せば、もうすでにシルディアルが座っていたのだ。
さすが首席入学の優等生(ちなみに私は十番目だった)来るのが早い。
少し悔しいという思いを胸にしまい私はシルディアルの隣へと座る。
窓際の席だったので窓から光が差し込んでいた。春だからかポカポカとして暖かい。
そんな暖かさのおかげか悔しいなどの気持ちは忘れ、私はシルディアルに声をかけることにした。
だが特に話す話題は無いので、とりあえず魔術の選択授業を受講する人数でも聞くかと思い話を振る。
「そう言えば、シルディアルのクラスで魔術の選択授業の子って何人いた?」
「あー。確か俺入れて五人だった」
「そう。私のクラスでも、私を入れて多分四人。一学年は五組まであるから大体二十五人弱か」
想像していたよりは多かった。だが私とシルディアル以外の人間が魔術の選択授業に乗り気かと言われたら分からない。
「そんなもんか・・。まぁ俺も魔術の選択授業にしたってクラスのみんなに言ったら驚かれたし」
「え!?シルディアルみんなに無視されてないの??」
ただの暇つぶしの話題だったはずなのにとても衝撃的なことを聞いた。
「え?」
「あ」
おっと。驚きのあまり余計なことまで口走った気がする。
隣からは負のオーラがすごい。今左隣を見たくない。
「お前・・クラスメイトに無視されているのか?」
「されてないされてない!!超超超仲良いよ!」
「本当に・・?」
「本当・・ってほら!他の生徒も入ってきた!」
私は急いで話を逸らすべく、教室の後ろのドアを指さす。数人の生徒が教室へ入ってきたのだ。
だが、心なしか入ってきた生徒の顔色が暗いような?そんなにも魔術の授業を受けることが嫌なのだろうか‥。
入ってきた生徒達は壁側の席に固まるように座った。
私たちは窓側の席に座っているので、真逆の席である。
(これ、私を避けて壁側に座ってるってわけじゃないよね?)
最近避けられてばっかりなので疑い深くなっているのかもしれない。
(まぁ避けようが今はぼっちじゃないもんね)
少しだけ心の余裕がある私は笑顔でシルディアルを見た。
シルディアルはよくわかっていない顔で私を見ているがまぁいいだろう。
そうやってニマニマとしながら授業の開始を待っている‥。そんな時だった。
「あ、あの」
「「?」」
私がシルディアルを見つめていると一人の令嬢がシルディアルの左の席の隣に立っていた。
薄い茶色の髪に、金色の目をした可愛らしい令嬢だ。
「こ、こここここ、隣いいですか?」
「隣?まぁいいけど」
「・・!あ、ありゅがちょうございまひゅっ!」
令嬢は超かみっかみの口調でシルディアルの隣に座った。顔も耳も真っ赤だ。
まるで恋する乙女・・?そう。恋する乙女のような反応。え?まさか隣に座ったのってシルディアル目当て?
私は眉間に皺を寄せながら茶髪の令嬢を見た。令嬢は私と目が合うなら恥ずかしさそうに下を向いてしまった。
シルディアル目的なら私のことを睨むかと思っていたのだが‥。
(それに恋する乙女にしては私に敵対感がないような?)
なにものぞい?この令嬢は。
同じことをシルディアルも思っていたのか優等生モードになって令嬢に話しかけた。
「あー、えっと君は?」
「え、あ。う」
令嬢はシルディアルに話しかけるなり、あたふたとし始めた。
口はモゴモゴと動いているが何を言っているのかわからない。それにしてもこの令嬢どこかで見たことがあるような?
(そう‥。確か入学式の日に…あ)
「あ!そうだ!あなた次席の!確かルリアン・クレーシー伯爵令嬢」
「ひゃっ!えっと・・そうでふ」
私に名前を呼ばれるなり、教科書で顔を隠してしまった。そう言えばクレーシー伯爵令嬢って人見知りで有名だったような?
お茶会などに非参加的な私ですら母伝手で噂を聞いたことがある。
--ということはこの子は別に恋する乙女でもない‥。恥ずかしがり屋だが常識は持ち合わせた人だったと思う‥。(噂では)
内心ホッとしたが、それはそれでまた新たな疑問が浮上してくる。
(ん?じゃあなんでこの子は私たちに近づいたの?)
また疑わしい眼差しを私は令嬢に対して向ける。「あんた何目的で私たちに近づいたの?」そう私が聞こうとした時だった。
「わ、私。お二人のファンで・・」
そう令嬢が言ったのだ。
一瞬聞き間違いかと思いシルディアルと顔を見合わせ問う。
「「ファン?」」
「そ、そうです。だからお二人が魔術の選択授業を受けると聞いてそれで・・」
そう言い終わるとルリアンはまた下を向いてしまった。
どうやら聞き間違いだったわけではなかったらしい。
入学して約一週間友達はできず、ファンができました。
ルリアン・クレーシー(12)
極度の人見知り。今回も最初は勇気を出せたがだんだんと恥ずかしくなり話せなくなってしまった。
見た目は可愛らしく、フローレの後の癒し。
人と話さず家に篭っていたせいか頭はいい。
* * * *
ちなみにロルフが選んだ選択授業は裁縫です。剣術を第一志望にしたらしいですが、ダメで裁縫になったそうです。別に特段裁縫が得意というわけではありません。




