【4】 誰かの書いた台本のように
‥最近学園内がおかしい。
別に生徒が全員頭がおかしくなったというわけではない。
そういうおかしいではないのだが、何というか魔術に対する反応がおかしいのだ。
前までは無言で避けられてたという感じだったのに、今は怯えられているというか。
私の勘違いかもしれないと、シルディアルと師匠に尋ねたが、二人とも私と同じ意見だった。
(師匠が言っていた、魔術師を悪に仕立て上げた人のせいなのかな?でももう魔術は嫌われているし、今更魔術について悪評を流すとも思えない)
なら誰が?
「・・うーん。まぁこういう頭の使うことはシルディアルに頼る?でもなぁ」
最近シルディアルはシルディアルで忙しそうなのだ。
相談してシルディアルの寝る時間などが無くなってしまったら困る。
ならどうしたものか‥。
「おや?何かお困りですか?」
「へ!?」
急に知らない人に声を掛けられ、私は驚いた。急いで振り向くと、後ろに立っていたのは従者服を着た男だった。身長は170センチほど‥。
髪色は黄緑色。瞳は青。一言でこの男を言い表すならそう。無害そう、だ。
「えっと、別に私困ってなんか」
さすがに見知らぬ他人に弱みを見せるほど私も馬鹿じゃない、
これが悪い人ならば悪用されかねない。
それに…。
(この人学園の生徒じゃないしっ!)
「そうですが。なら、私のお喋りにお付き合いいただいても?」
「はぁ・・?」
おっと、いけないいけない。思わず心の声が漏れてしまった。淑女たるもの感情は表情に出さない。
ここは断ろうと、口を開こうとしたがそれよりも前に男は勝手に話し出していた。
「確かあなたは魔術部の部長で、特待生でしたよね?魔術・・嫌われているのによく学ぼうと思いましたね。公爵家の存続がかかっているのかもしれないのに」
妙に煽るような言い方をこの男はしてきた。
(ムカつくなぁ‥。なんで知らない人に魔術のこととやかく言われなきゃいけないのよ‥)
心の中で怒りを貯めながら私は男の話を静かに聞いていた。
「・・・で?何が言いたいの?」
「いえ、ただ、魔術は人を殺すものです。人を傷つけることを誰よりも嫌う貴方が学ぼうとするのが意外で」
そう男が言った瞬間、頭の中に記憶が流れ込んできた。
遠い昔の記憶が‥。
「ーーーーあ」
記憶が蘇る。
あの時、魔術で傷つけてしまった少女の記憶‥。
魔物に当てたはずが、魔物が結界を張ったため近くにいた少女に私の魔術の攻撃が当たったのだ。
そして少女は片腕を失った。
それから私は攻撃の魔術が怖くなった。
人に向けて、放たなくなった。
魔物に向けて放つのも精一杯。
私が攻撃の魔術を好まず、水の模型を作るのが好きな理由でもある。
前世の記憶の中でも忘れてしまいたかった記憶。
今まで忘れていたはずなのに、・・。
思い出してしまった。
「あっ・・っ」
胸が苦しくて、涙が出てくる。止めようとしても止められない。
魔術が嫌われていた時、泣いているのと同じだけど、それよりも何故か辛い。多分違う感情。悲しいんじゃない。怖いんだ。魔術を人に放つのが。
私は恐怖心でパニック状態となっていた。
男の存在なんて忘れて地面へとうずくまる。何も聞きたくなくて耳を塞ぐがそれでも、聞きたくない声が聞こえてくる。
(怖い。怖い…)
”魔術は怖い‥”
「ーーーロレ!ーーーフローレ!!!」
「ーーっ!」
視界の端に見慣れた髪色が映る。
いつもならシルディアルを求めて抱きついているが、今日はそれをしなかった。
だって怖かったから。
シルディアルを私が傷つけてしまう可能性があることを。
そんなこと無いと思うが、どうしてもさっきの記憶が蘇る。
私が人を傷つけた。
「私が・・人を」
「フローレ!フローレ!!」
私は涙を流し、目を閉じた。
* * * *
「あーっーもうっ!」
何でこういう時、いつも俺はフローレの近くにいられないのだろうか。
俺が見つけた時には、フローレは廊下で一人へたり込んでいた。
いつものように声をかけるが、反応はない。
流石におかしいと思い、近寄るとフローレは何かを呟きながら泣いていた。
全ては聞き取れなかったが、傷つけた。私が。などを言っていた気がする。
多分だが‥。
フローレも心配だが、最近良くないことばかりが起きている気がする。
フローレには言っていないが、魔術の選択授業を選んでいるものや、魔術部に対しての悪評が広まっているのだ。
それにこの前なんか、魔術部の部室が荒らされていた。
(この前、フローレが、何かおかしいと俺に尋ねてきたが・・)
もしかして勘づいているのだろうか。
それか勘づいてはいなかったが、今さっき悪評を聞いてしまったか、、、。
(ロルフに言って悪評は消すように頼んだが、それでも中々消すことはできない)
「フローレを守るって、ずっと前から決めてたのに・・」
俺は拳を握りしめた。
* * * *
「・・・ん」
私はゆっくりと目を開ける。見えるのは真っ白の天井だ。
(あれ?私どうなったんだっけ?)
確か倒れて、それで・・。
「フローレ・・?」
「・・シルディアル?」
寝ているせいで顔は見えないけど、この声はシルディアルだ。私はゆっくりと体を起こし、声のした方向を見る。
ドアの開閉口付近にシルディアルは立っていた。
「あっ・・」
シルディアルは急いでこちらへ向かって走ってくるが、私は思わずこう叫んだ。
「こ、来ないで!!」
寝たからと言ってあの感覚は思い出してしまう。
もう魔術を人の近くで使いたくない。
魔術は…。
人を傷つけるものなんだ。
きっと誰も笑顔になんてなれない。
そうに決まってるんだ。
私はシルディアルと目を合わさず、ずっと下を向いて布団を握った。
* * * *
同時刻。フローレの元に現れた男は誰かと会話していた。
「‥お嬢様。ターゲットは恐らくもう魔術を使うことはないでしょう」
「そう。ご苦労様。でも、彼女の婚約者のシルディアルって子も危険だわ」
そう女が言うと、手元の水晶を光らせた。
水晶に映っていたのは、どこかシルディアルに似た少年だった。
水晶の中の少年は雰囲気がフローレと似た少女と魔術を勉強しあっていた。言い争ってはいるが、その表情はとても穏やかだった。
「ふーん…。この子。そうなんだ…」
女はそう言うと水晶に布を被せた。
「そう言うことなら、この子動いてくれそうね」




