【3】 時は進む。ゆっくりと
「あれ?今日はまだルリアン来てないんだ」
私は魔術部の部室に入るなりそう言った。いつもは一番初めに来ているルリアンが今日はいなかったのだ。
(だけど、授業には出ていたような?)
私は首を傾げる。私の記憶違いかもしれないが、三時限目の体育の授業でルリアンを見かけた気がする。(※体育はたまたま二クラス合同だったため)
だが傾げたところで答えは出てこない。
…今の季節は夏。あれから少し時が経ち、私たちは文化祭準備を少しずつ進めていた。
(相変わらずクラスでは無視される。だけど魔術の授業と部活の時間は少し気が楽なんだよね‥)
と言っても魔術の授業では、私とシルディアル、ルリアン、他男子二人のみの比較的魔術に理解ある者達しかいないので楽なのは当たり前だが…。(ちなみにくるっくるした髪の女子生徒は実践の授業以来、魔術の授業には顔を出していなかった)
魔術部の方では、ルリアンの魔術が少しずつ上達してきており、このままいけば文化祭のショーには間に合うだろうと言ったところだ。
いつも早めに来て自主練をしているし、毎日部活の時間を楽しそうにしていたのにいないとは‥。
「今日なんか暗い顔してたし、なんかあったんじゃね?」
「じゃあそん時に、ルリアンに何かあったか聞くべきじゃないの?」
私はシルディアルを半目で見た。するとシルディアルは目線を泳がし始める。
(…そんなに気まずそうにするなら、最初から声を掛ければよかったのに)
シルディアルには時たまこういうことがある。
私が少しでも落ち込んでいると、教師に怒られていようが、課題が終わっていなかろうが駆け付けるのに、私以外の人間に対してはそう言うことをしないのだ。
(さすがに勘違いされるような行為はやめてほしいけど、シルディアルそこらへんの加減は上手くできるはずなんだよな‥)
それに同部活の人にくらい声かけてあげなさいよと心の中で怒っといた。
「え…。…ま、まぁ細かいことはいいじゃないか、あ、ほら!これ上手くいったんだよ!」
(↑基本的にフローレ以外興味ないのでルリアンが暗い顔していようが、天気の話をしているのと同じ感覚)
シルディアルはそう言うと、私の目の前に丸底フラスコを持って来た。
何か言い訳を始めるのかと思い丸底フラスコをどけようとしたが、それよりも前に私は丸底フラスコに入っている物体を見て動きを止めた。
「…これって…」
「そうだ!フローレが前に言っていたドラゴンのミニチュアを作ることに成功したんだ!」
シルディアルは少し興奮しながら、説明してきた。私は丸底フラスコをシルディアルから受け取ると、魔術で視力を上げた。
かなり細かいところまで再現されているそうだが、今の視力では全て見ることができない。
なのでズルだが魔術を使わせてもらった。
(おぉ‥これは凄い)
私はじっとドラゴンのミニチュアを見つめる。大きな角があり、鱗までかなり細かく再現されている。
(私がこの前なんとなく言ったことを実現してしまうとは。さすがシルディアル)
そう。この前というのは二週間ほど前のことなのだが、ショーの内容を考えているとき、主人公がドラゴンを倒せたらカッコいいよね。と何気なく言ったのだ。
(それに前世ではドラゴンを図鑑でしか見たことが無かったから少し興味があったってのもある)
主人公はシルディアルの予定なので、それを自分に当てはめて考えたのか二週間、寮の部屋に籠りっぱなしでコレを作っていたらしい。
(作るのに夢中でご飯を食べてくれないって、シルディアルの従者のロルフに泣きつかれた時はどうしようかと思ったけど‥)
その件は私がシルディアルの口にパンを突っ込むことで解決した。
まぁそう言うわけでシルディアルが二週間かけて作ったものがドラゴンのミニチュアなのである。
大きいと邪魔なので、ショーの時期に合わせて成長するように作ったとシルディアルが言っていた、
目の前にあるドラゴンのミニチュアは直径五センチほどだが数週間すると直径三メートルほどの置物になるらしい。
(素材は土‥。ここは水って言いたいところだけどシルディアルがせっかく作ってくれたものにケチつけるのもアレだし、ここは目を瞑ろう)
「シルディアル!ありがとね」
とりあえずお礼は言っておこう。なにせこんな大作を作ってくれたのだから。
「まぁな」
私が礼を述べるとシルディアルは少し嬉しそうに笑った。
「…」
そんな嬉しそうなシルディアルを見て私はシルディアルの首筋にキスを落とす。
本当ならほっぺにしてあげたかったが、身長差があり届かなかったのだ。
(…首でも問題ないよね?)
キスをし終えた後、ちらりとシルディアルを見る。シルディアルはと言うと、顔をりんごのように真っ赤にさせていた。
「…ちょっ‥!」
「‥頑張ったご褒美‥。それにいつもあんたばっかり私にキスするからね‥」
「…」
いつまでたっても顔が赤いシルディアルにこっちまで恥ずかしくなってきて、私は地面を見る。
そんな私を見て、恥ずかしさが一旦引いたのか何なのか‥。次はシルディアルが私の髪にキスをした。
「‥!なんであんたまでキスするのよ!??」
「頑張ったご褒美‥ダメか?」
犬の耳が見えてきそうな表情でシルディアルがそう言うが駄目である。
これでは永遠にキスのループが続いてしまう。
…はっもしくはそれを狙って…?
シルディアルの好きにさせてたまるかと思い私はシルディルを睨むが逆効果だったらしく、シルディアルはキスの雨を降らせてきた。
「…!!!」
これでは私の心臓が持たない‥。
シルディアルの胸部をポカポカと叩き抵抗するが、それも意味をなさず‥。結局私はシルディアルにされるがままキスをされるのであった。
ーーー今日も魔術部は平和である。
きっと。ずっと平和である。
「‥‥」
* * * *
とある一室で二人の男女は話していた。
暗い部屋にはろうそくが一本だけ立っており、部屋を照らしている。
「…お嬢様。魔術部が文化祭で行うショーの準備は順調に進んでいるようです」
「そう‥。ではこちらの計画も進んでいるの?」
「それはもちろん。もう全校生徒の半数以上は完了いたしました」
男はそう言うと女に紙束を渡した。
紙束に書いてある無いような、ここ数か月の魔術部の動向である。
部員が何時何分何をしたのかまでびっしりと書かれていた。
「‥なら魔術部がどんな凄いことをしようとも安心ね。だってもう魔術なんて…〇◇×▽」
「そ〇◇×…」
音は段々と籠って聞こえなくなる。
『あーあ。聞こえなくなっちゃった』
少女は耳に当てていた物体を外し、立ち上がる。もう役目を終えたかのように耳に当てていた物体は地面へと投げ捨てられた。
『まぁいいや。盗み聞きは今日でお終い。計画は上手くいっているようだし・・・。学園でも表立って接触してみようかな。お嬢様‥?』
少女は薄気味悪い笑みを浮かべた後、部屋を後にした。
ーーー時は少しずつ進む。




