【4】 魔術とドキドキと
そこから三人で楽しくお喋りをしていたら鐘がなった。授業開始の合図だ。だが・・。
「あれ?先生来ないね」
「・・でひゅね」
「遅刻・・?わっ!」
先生は来ないのだろうかと教室がざわめき出した頃、急に教室が眩い光で包まれた。眩しすぎて目が開けられない。
「・・うっ・・あ!」
次に目を開けた時、教壇の前にはローブを被った長身の男が立っていた。瞳の色は見えないけど、ローブからは長い黒髪が見える。
「・・これより。授業を開始する」
「「「「はい」」」」」
急に教室は静かになり、生徒たちは先生の言葉に返事をする。それもそのはず、なんとなく逆らってはいけないような感じがするからだ。
誰も先生の言葉を咎めたりしない。
もうオーラが怖いのだ。私語をしたら殺すぞ。ではないが、そんな気配がする。
(でも、念願の魔術の先生と会えるとは!!)
心の中はそれだけでいっぱいだ。
「・・私の名はカルヴァスだ。苗字はない、魔術担当の教師だ」
カルヴァス。勇者パーティーの一人、魔術師だった男。前世の時は名前すら聞いたことがなかったから、きっと私が死んだ後に生まれたのだろう。
パッと見、二十代中盤だし。
私も噂程度でしか聞いたことがないが、カルヴァスは魔王を倒した後、魔術師だったせいか英雄から引き摺り下ろされ、一部地域では魔王と手を組んでいたなんて噂もある。
(なんで英雄だった男が魔術師だったってだけで英雄から引き摺り下ろされなきゃいけないんだろう)
きっと前世で少しだけ有名だった私も悪者扱いなのだろう。そこは少し悲しい。
「この授業では、来週の月曜日。三回目の授業から実技を行う。よって杖が必要になる。各自用意しておくように。杖は学園内の購買でも売っているが、街に出て探したほうがより良いものが見つかるだろう。・・まぁ三回目の授業に出るつもりがないのなら必要ないが」
先生はそう言うとフードを深く被った。
(大丈夫ですよ先生!私とシルディアルは三回目の授業、ちゃんと出ますから!)
目を輝かせながら先生を見たがどうやら気づいていないようだ。
少し残念。
「ーーと言うことなので、今日は座学を始める。教科書五ページを開くように・・今日は魔術の基礎。魔力について教える」
ーーそこからの授業は良くも悪くも普通だった。
空気中のプレアという物質を呼吸するときに私たちは取り込み、体内にある魔力の器と共鳴することで、魔力ができる。
そして魔術の歴史、魔法陣、呪文は何故言うのかなど本当に基礎的なことを学んだ。
正直言って抜けている部分の補充ができたので満足だ。
(こんなに良い授業を週に二回も受けれるとは。神だよ!)
私は心の中で神に感謝しまくった。
* * * *
始まるとあっという間に時間は過ぎていき、終了の鐘と共に先生は消えてしまった。
ついでに言うとルリアンも。
この後は授業がないので、一緒に帰ろうと声をかけようとしたのだが、そのときにはもういなかった。
「ルリアンとお友達になりたかったな・・」
私がポツリとと言葉を溢すと、シルディアルは何を思ったのか、ローブで私を包んだ。
顔を上げればシルディアルが私を見ていた。
「な、なに?シルディアル?」
突然の行動に私の頭は理解が追いつかなかった。それに少し近いし。暑いし。なんな・・の?
チュッ
「・・えっ」
シルディアルの唇が私の唇に・・触れ・・。
脳が状況を理解すると、先程の比にならないくらい顔が真っ赤になった。
だ、だって今き、キス!!
こんな公共の場で破廉恥だわっ!
私が文句を言おうと目の前を見れば、シルディアルが宝石(?)に片付けを落としていた。
(あんな宝石持ってたっけ?)
私がそう思った数秒後。またシルディアルの顔が急接近してきた。またキスされるのかと思い目を瞑るが今度は唇に何の感触もなかった。
私はゆっくりと目を開けると、もう近くにシルディアルの顔は無かった。
「・・お前元気なかったから。それつけてろよ、似合ってっから!」
そう言い残すとシルディアルは男子寮の建物へと入っていってしまった。
それにしても似合ってる?何がだろうと思い顔やら頭やらをペタペタと触ってみる。
すると耳を触っていたとき何かに当たった。
「これは・・イヤリング?」
つけている状態じゃ見えないので、鏡を取り出して耳元を見る。鏡に映っていたのは紫色に輝いた宝石だった。アメジストだろうか。あれアメジストだっけ?
ま、まぁ名前は置いておいて。意味もあった気がするが‥。忘れてしまった。
「綺麗だなぁ」
私はそう呟く。夕日に照らされてより輝いている。
「うふふっ!」
私は何だか嬉しくなって女子寮に駆け込んだのだった。※この後寮長にめちゃくちゃ叱られた。
* * * *
「・・あぁ!もう!勢い任せにやりすぎだっての」
俺は部屋に入るなり地面に座り込んだ。正直あの行動はフローレにかっこいいって思われたくてやったもので、多分もう一度やれと言われてできるかは分からない。
(でもフローレが喜んでくれたしいっか)
学園に入学してから浮かない顔だったフローレがあんな笑顔になってくれたんだ。
それだけで嬉しい。
「そーですね、あんな人が大勢いるところでキスなんて。勢いに任せすぎですよね」
「えっ」
顔を上げればロルフがキュウリを齧りながらそう言った。・・今こいつなんて言った?
キスなんて?いや、でもローブで隠れてたはずじゃあ。
「あ、何で知ってるかですか?俺実は望遠鏡持ってまして。ちょーっと覗けば見れるんですよね〜。いやぁ、アリの行列を見ているだけでしたのにあんなものまで見れるとは。今日はいい日でした!ではっ!」
「ちょっと待てぇ!ではっ!で済むかよ!!」
「えー、でも。それ以外に何を言えば?あ、フローレ様可愛らしかったですねー!」
ブチッ
と何かが切れた音がした。そこからは俺も記憶が無いので分からないが、次の日朝、廊下で包帯を全身に巻かれたロルフがいたらしい。
・・きっと俺は無関係だ。
そう無関係だ。
シルディアルが制服の上からローブを着ている理由は、単に寒がりだからです。
フローレは逆に暑がりです。
カルヴァス(26)←見た目年齢
顔をローブで見えないようにしているため素顔を知るものは少ない。魔術担当の先生だが、まだまだ謎は多い。受講生のタレコミによると授業内容は分かりやすいが、声が小さいのこと。




