9 妹との再会
「こっちよー」
「こんにちは、恵子おばさん」
「やめてよ、茜ちゃん。恵子お姉さんでしょ」
えっ…。茜…、俺の妹だ!五年経っても分かる!俺の妹だ!
「はい。恵子おばさん」
「もう!まあいいわ。今日はもう一人新人がいるの。紹介するわ。こちら…」
「えっ…、香お兄ちゃん…」
「茜…」
「あら、知り合い?って、あなたたちそっくりねえ…。あ…、茜ちゃんって綾瀬茜よね。香ちゃんも綾瀬って言ったっけ…。偽名じゃなかったのかしら…」
茜は今の俺の顔にそっくりだ。というか、香の顔を作って少し女っぽくしたら、茜の顔にそっくりになったんだ。
茜は大きくなったなぁ。身長も、胸も。髪の毛も伸びた。ロングヘアーだ。まあ、俺の腰まである黒髪ほどではないが。
「お兄ちゃんなんて言ってすみません…。女の人でした…」
茜は俺の胸を見てそう言った。
俺は茜に兄だとバラしていいのか…。バラすにしても、お兄ちゃんと呼ばれてしまったし、ここでバラすことは俺が男だったことを恵子さんや周囲の人にバラすことになる。それは勘弁だ…。
「あの…、男の人と勘違いするなんて、失礼しました…」
ああ、また神妙な顔をして考えていたから、怖がらせたか。もう悪役令嬢じゃないんだけどな。
「あ、気にしないでください…」
「は、はい…」
「あなたたち、ホント、そっくりだわ…」
「恵子さん、茜さんと少し話をさせてください」
「へっ?いいけど…」
使ってない客室を借りた。
「あの…」
「えっと…、五年前まで八歳上の兄と二人暮らしていた綾瀬茜…、だよな…」
「そうだけど…。やっぱり香お兄ちゃんなの?」
「ああ、そうだ…」
「死んだはずなのに…」
「死んで生まれ変わったんだ」
「お兄ちゃん…、お兄ちゃーん。うわぁぁぁん…」
「茜…、一人にして済まなかった…」
茜は俺に抱きついてきた。でも、思わぬ二つの球体に阻まれて、うまく抱きつけなかった。
「お兄ちゃん…。声が女の子…。胸がある…。ってか大きい…」
「ああ…。なぜか女に生まれ変わったんだ…」
「お兄ちゃんが女の子…」
「ごめん、こんな姿で…」
「ううん、お兄ちゃんにまた会えただけでいいの」
「俺が死んだあと大変だったろ…」
「う、うん…。うぅ、うわぁぁん…」
「本当にごめん…」
俺と茜は二人暮らしだった。俺が死んだあと、十歳だった茜は親戚に引き取られたと思うが、再び泣き出してしまうほど辛かったのか…。思い出させるのも悪いから、自分から話してくれるまで待とう。
茜は泣き止んで、落ち着きを取り戻した。
「なあ、茜は旅館で仕事するのか?」
「えーっとね、私、今年、受験なの。水沢工業高校受けるの。それで、受かったらここから通わせてもらえることになったの」
「えっ、今何月だ?」
「何言ってるの?十一月だよ」
「なんだ、サイカトリーと同じなんだな」
「何それ」
「ああ、俺は異世界で生まれ変わったんだ。今まで異世界にいたんだよ」
「えー?」
「だからほらっ。魔法だって使えるんだ」
闇魔法は精神操作とかばっかりで、視覚的なエフェクトがある魔法は、周囲を暗くする魔法か、闇魔法の魔素で形成する魔法の弓矢くらいのものだ。そんな非実用的なものを見せてもしょうがないので、昨日あいかさんに教わったばかりの念動を披露。部屋の備品であるテーブルを浮かせてみた。
「ふーん」
「なんだ、驚かないんだな」
「転生、性転換、異世界と来たら、魔法があってもおかしくないよね」
「ちぇー」
「むしろどんな魔法が出てくるか予想してたくらい」
「くそー。じゃあこうしてやる!××××(サイカトリー語で胸を大きくする)!」
「えっ?ええええぇぇぇっ?」
茜は身長一五五センチで胸はCカップかな。それを今の俺と同じGカップにしてやった。
「うぅぅ、苦しい…。重い…。でも…。すごい!何これ!ってか今の異世界語?」
「くびれさせる!(日本語)」
「えっ…。ウェスト細くなった!あれ、お尻も大きくなった…。ズボン下がっちゃうじゃん…」
あれ?ウェストが細くなるだけじゃなかったのか。
「ごめんごめん」
くびれさせるを解いた。
「ねえ、ちょっと苦しいから、胸はEカップくらいがいい」
「××××(サイカトリー語で胸を大きくする)!」
Gカップサイズの胸を大きくするを解いて、Eカップサイズの胸を大きくするを唱えなおした。
「すごーい!ねえねえ、これ、いつまで持続するの?」
「俺が解かない限りいつまでも」
「寝てても続くの?」
「ああ」
「じゃあ、ずっこのサイズにしといて!」
「OK」
「ブラジャー買ってこなきゃ!もーう、肩こっちゃう!」
分かる。重くて困ってるのに、なんだか嬉しいみたいな。
「××××(サイカトリー語で無重力ブラジャー)!」
「えっ…。胸が軽くなった…」
「胸の揺れかたや重量感はそのままなのに、重さがなくなる魔法なんだ」
無重力ブラジャーがサイカトリー語でよかった。そんな変な呪文を唱えるのはちょっと恥ずかしい。いや胸を大きくするとかくびれさせるとかもかなり恥ずかしいが。
「でもブラは買ってくるね」
「そうだな」
「ねえ、お兄ちゃん、私と同じくらいだけど、何歳なの?」
「十五だ」
「ウソ!ねえねえ!私と一緒に水沢工業行こうよ!」
「えっ?」
「私、受験終わるまでは、ここでの仕事は免除で、受かったあとは、高校行きながら、夜と土日だけ働けばいいって言われてるんだ。それでバイト代もくれるって」
「俺は今日から試用期間で、採用されればここに住み込みで仕事させてもらうことになってるんだけど…」
「じゃあ頼んでみようよ!」
「あ、ああ。そうするかな」
「あとさ、お兄ちゃん、その格好で俺とか言ったらダメだよ」
「もちろん、他の人の前では女言葉で喋ってるよ。ってか、俺が男だったってことは、一部の人しか知らないんだ」
「じゃあ、もう女の子なんだから、私の前でも女の子のしゃべり方ね」
「これでいいかしら?」
「上出来よ、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん…。そうね。そういう設定にすればいいわね」
サイカトリー語のお嬢様言葉と日本語の女性言葉は全く違うけど、五年もお嬢様をやってきたからか、割と順応しやすかった…。そろそろ俺の中の男の心も消滅してきたかな…。なんてことはないな…。いまだに大きくした胸を見て喜んでるんだから。
「でも、お姉ちゃん、すごく小顔で華奢だよね」
「それはね、本当は一七五センチの長身を、小さくする魔法で一五五センチに小さくしているからなの」
「そんなこともできるんだぁ。落ち着いたら、私の体型も同じ感じにできるかな」
「そうね。あとでやってみましょう。顔もいじれるのよ」
「じゃあ顔も美形にしてもらおうかな」
「ふふふ、楽しみね」
「じゃあ、恵子さんのところに戻ろうか」
「そうね。一時間も話し込んじゃったわね」
「お話は終わった?」
「やっぱり五年前に死んじゃったお姉ちゃんだったんです」
「仕事の話に来たのに、一時間も話し込んでしまってごめんなさい…」
「あれ?さっきおに…」
「もう、恵子おばさんったらボケちゃって!こんなに胸の大きい女の子がお兄ちゃんなワケなじゃないですか!」
「ボケ…」
「それで、お願いがあるんですけど、お姉ちゃんも一緒に高校に行けるようにしてもらえませんか?」
「ええ?香ちゃんは何歳なの?」
「十五です」
「それは異世界人としての歳?でも姉妹で同じ十五歳じゃおかしいじゃない。ちょっと体型とか双子には見えないし…」
「それはこれからお姉ちゃんと合わせます」
「ああ、もう魔法の存在はバレてるのね。よく見たら胸が大きくなってるし」
「はい。恵子さんもその胸、大きくしてますよね」
「そういうのは聞いちゃダメよ」
「それで、話を戻すと、お姉ちゃんと一緒に高校に通いたいんです。学費は遺産があるので何とか…」
「遺産は取っておきなさい。学費は貸してあげるから、働いて返して」
「「ありがとうございます!」」
「でも、今から勉強して間に合うの?ってか、中学とか学歴は?」
「戸籍や学歴はあいかさんが作ってくれるって言ってました」
「そういえば、ここで働いてる子たちは、戸籍を作ってもらってたわね。学歴詐称もできるのね。あの子にはホントに甘い汁を吸わせてもらってるわ」
「あと、私は生前は大学受験に合格したところだったんです。だから、ちょっと勉強すれば高校受験レベルならすぐ思い出せます」
「それは頼もしいわね。分かったわ。仕事は茜ちゃんと同じで、受験に合格するまでは免除。学校に通い始めてからは、夜に少しと土日だけでいいわよ」
「ありがとうございます!」
「部屋はどうするの?茜ちゃんの部屋は用意してあるけど、おんぼろ旧館も六畳部屋だから、一緒に住むにはちょっと手狭ねえ」
「おんぼろ…。うーん、ヒスターニアの教会から二人で通ってもいいですか?ここに来るのに一分もかからないじゃないですか」
「それでもいいわよ」
「分かりました」
「じゃあ、今日は二人とももう自由よ。生活の準備でも受験勉強でもなんでもどうぞ」
「「はい!」」




