10 妹の改造
旅館の地下通路からヒスターニアの教会へ。
「茜、荷物重いでしょ」
茜が持っていた大きなバッグを念動で持ち上げた。
「ありがとう、おに…、お姉ちゃん。優しいところ、変わってないね」
「そうね…」
俺はずっと茜の親代わりだったからな。歳も離れてたし。
「ここが私の借りてる部屋よ」
「ひろーい!お姫様ベッド!窓の外には…、牛?」
「ここは牧場とか農園とかやってるんだって。私も昨日来たばかりでよく知らないの」
「よし、じゃあさっそく、私の顔とか体型を改造してよ!」
「唐突ね」
「だって、お姉ちゃんボンキュっボンじゃん!ずるいよ、お姉ちゃんだけ」
「これって、ほとんど弄ってないのよ。一七五センチのときに元々Gカップだったのを、身体を一五五センチに小さくしたら胸も小さくなっちゃったからGカップに戻しただけだもの。他の体型は何も弄ってないのよ」
「くそー、異世界のお嬢様仕様なのかぁ。私もお姉ちゃんみたいに華奢で巨乳が良い!あと、顔ももうちょっと美人にして!」
「はいはい。でもそれなら、先に服をもらってきましょ。また苦しくなるわよ」
「服、もらえるの?」
「くれって言ったらいくらでも服が出てくる人がいるのよ…」
「そんな魔法もあるんだ…」
「私も知らない魔法よ…」
「あいかさーん」
「あら香ちゃん。そっちの子は…、香ちゃんそっくりね」
「えっと…、妹の茜です。日本で妹と再会してしまって、連れてきてしまいました…」
「…まあ、身内ならいいわ。今度から、色々ばらしたい人がいたら、先に相談してね」
「恵子さんがバラす了解をもらってるって…」
「ああ、その子ね。それで何の用かしら」
「この子の胸をGカップにしたいから、服が欲しくて…」
「はい、どうぞ」
今、茜が着ているトップスと同じような服が、Gカップが入りそうなバージョンになって空中に現れた。
「すごい…、ホントに服が一瞬で出てくるなんて…」
「でもね、私は服屋じゃないのよ。今度服が欲しいときは…」
空中に立体映像が現れた。地下通路の地図か。
立体プロジェクタは地球では製品化されてるけど、一般人は高くて手が出せない。これは魔法で作ってるんだろうな。光魔法か?あいかさんは、闇魔法にも光魔法にも適性があるのか。
「ここが教会から降りたところで、こっちの方に行くと聖子さん衣装屋があるわよ。衣装屋で仕事することもできるって言ったでしょ。旅館が合わなかったら他にも仕事するところはあるんだから、衣装屋の仕事も見てくるといいわ」
「あ、仕事で思い出しました。私、茜と日本の高校に通いたいんです。学歴も用意してくれるって言ってましたよね」
「ええ。いいわよ。パソコンやサーバー、紙面上の記録はすべて作ることができるけど、人の記憶は書き換えられないから、こんな子いたっけ?みたいな状況にならないように注意してね。あ、あなたは闇魔法使いなんだから認識阻害も駆使するといいわね」
「はい」
「じゃあ、聖子さんの衣装屋に行ってきたら?ここで暮らしている人には、無料で可愛い服をデザインしてくれるわよ。私と違って専門の服屋だから、凝ったものも作ってくれるわよ」
「「はい!」」
地下通路を通って聖子さんの衣装屋とやらに行ってみた。地下通路の突き当たりに、…日本のメーカーのインターホンだ。
ピンポーン。
『はーい。どなた?』
「最近救出してもらった転生者の香と申します。衣服を作ってくれるって聞きまして…」
『いいよー。どうぞー』
カチャっと鍵が開いた音がした。階段を上って一階へ。
「ようこそ」
「初めまして、香と申します」
「初めまして、茜と申します」
衣装屋…。置いてある衣装は…、和風の着物にスカート?
「私は松本聖子。六十四年前に聖女としてヒスターニアに召喚されて以来、ここでずっとコスプレ衣装屋をやってるよ。今は孫が経営してるけどね」
「「えええっ!六十四年?」」
「そうだよ。八十四歳だよ。外見変化の魔法は教わったんでしょ?その胸とか」
「は、はい…」
聖子さんは二十代に見える。八十四歳が二十歳になれるなら、ここの人たちの年齢は全く予想できないな…。
それに聖女って言ったか?またゲームっぽいな。ここには他にも俺みたいな転生者や聖子さんみたいな召喚者がいっぱいいるんだな。
「日本人かぁ。召喚者かな。双子で召喚とか、そんなケースもあるんだねー」
「あっ、えっと…」
さっき、転生者って言ってしまったけど、忘れてくれたかな?
それと、年齢に驚いてスルーしてしまったけど、コスプレって言ってたよな。なるほど…。着物にスカートって、そういうコスプレだったのか…。
「じゃあ、どういう体型でどういう服が欲しいのか、希望を聞こうか」
「体型からコーディネートしていくんですね…」
「まあ、ここで暮らしてる人間限定だけどね。対外的にはちょっとだけ体型が変化する下着とかしか売ってないからね」
「私、お姉ちゃんと同じ体型がいいです!」
「お姉ちゃんは薫ちゃんか。なんだかメリディちゃんの体型に似てるなあ。よし、茜ちゃん、脱いでね」
「はい!」
茜は俺の前であるにも関わらず、気にせずに脱いでしまった。ブラジャーも。いつも罪悪感に苛まれる瞬間だ。
茜は俺が男だったことを知っているというのに、今は完全に女だと思っているということだ…。でも、俺は男の本能を持ったままなんだ。男の本能を実践するものは持ち合わせていないけど。
茜…、大きくなったなぁ。背も、胸も。今Cカップなら、魔法を使わずとも、成人する頃にはDカップにはなれそうだ。
奥から別のスタッフが出てきた。人知を超えた美人だ。セディールは学園一の美女だと思っていたけど、それを遙かに超えている。
「胸を大きくする!華奢にする!くびれさせる!うーん…、ウエストを細くする!肩幅を狭める!首を細くする!二の腕を細くする!小顔にする!美顔にする!美尻にする!脚を長くする!胴を短くする!美肌にする!ムダ毛をなくす!…」
美人のスタッフさんは、闇魔法の体型変化魔法で、茜の大改造を始めた。ゲームのキャラメイクで体型パラメータをいじってるみたいだ…。あかねの身体がびよびよ伸びたり縮んだり…。
一七五センチの大人を一五五センチスケールに縮小した俺のような華奢な体型は、部分の大きさを変える魔法ではなかなかうまくいかなかった。それでもなんとか同じ体型に仕上がった。スタイルを調整する人…、これが本物のスタイリストだ…。
顔は元の面影を残したまま、すごく美人にしてくれた。
「ふう…、これでどうかしら…」
「はい、これでお姉ちゃんとそっくりです!」
「じゃあ、これをエンチャントにするわね。でも、二人とも、日本の高校に通うんだっけ?じゃあ、アクセサリとかダメよね。指輪にするけど、不可視をかけるわよ。填めると見えなくなるわよ。堅いものを指にはめてるのを忘れて、肌を傷つけないようにね」
「はい」
「薫ちゃんは何もいじらないの?あ、闇魔法使いなのかな?自分でできるかしら」
「はい」
「でも、この指輪をあげるね。お守りよ。同じくはめると消えるのよ。茜ちゃんのにもお守り効果は付いてる」
「ありがとうございます」
体型を調整してくれた美人スタッフさんは去って行った。
「よし、じゃあ次はこれ。ブラジャー。でも無重力ブラジャーがすでにかかってる?香ちゃんが魔法を使ってるのかな?」
「はい」
「なるほど。闇魔法の無重力ブラジャーは他人に使えるんだね」
「お姉ちゃん…、そんな魔法を私にかけていたのね」
「う、うん」
ああ、結局おかしな呪文がばれてしまった。
「まあいいや。その無重力ブラジャーの魔法がエンチャントされたブラだよ」
「紐なしタイプのブラですね」
「そう。シリコンで粘着させるんじゃなくて、装着って念じるだけで固定されるよ。やってみて」
「はい!なにこれ…、付けてる感じが全くない…」
「微妙に隙間を空けて、密着しないようになってるから、肌触りゼロ!夏場は換気する機能も付いてるよ」
「魔法のブラ…、すごすぎる」
「本当は無重力ブラジャーの魔法は、このブラにエンチャントして使う魔法なんだけどね、無重力ブラジャーの魔法のおかげで、重量感があるのに全く疲れないでしょ?」
「はい」
「胸が重力の影響を受けて少し垂れてはいるのに、胴の肌にくっつかないで浮くようになってるでしょ?」
「そういえば、これだけ大きな胸なら、胴にくっついて蒸れちゃいそうなのに、それがないわ」
「このブラはこの魔法を開発したメリディちゃんと私の、命の合作なのだ。さらに、過剰な揺れをイナーシャルキャンセラーが吸収してくれるんだ」
「すごい魔法なんですね…」
イナ…?なるほど…。やはり教えてもらった魔法の中で一番のチートだ…。
「あの、私にもそのブラをください」
「まだ持ってなかったか。香ちゃんはあいかちゃんに服を作ってもらったんだね。はい、どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、服を作ろうか。どんなのがいいの?」
「えっとぉ、普通に日本で生活するための普段着と、おしゃれ着を」
「あの…、私も欲しいです」
「いいわよ。双子コーデでいいの?」
「「はい」」
「声は全然似てないけど、息ぴったりね」
遺伝子的にはなんのつながりもないからな…。
「すごい…、糸が指から…」
聖子さんは、指から糸を出して、茜に纏わせるように服を紡ぎ始めた。いきなり空中に出現させるあいかさんとは違って、聖子さんは魔法の服飾師という感じだ…。でもそんな魔法は聞いたこともない…。
「はい、これだけあればいいかな」
「「ありがとうございます!」」
「その服は、ミスリルの繊維でできてるから、ほつれたり破れたりしないよ」
「はぁ」
えっ?ミスリルってエンチャントの素材として使う金属だって習ったけど…。やっぱり、ここの人たちはみんな異次元だな。
聖子さんは、異世界のファッションじゃなくて現代日本のファッションにも精通していた。六十四年の経験は伊達じゃないな…。
「そういえば香ちゃんは旅館で働くんだっけ」
「あ、はい。高校受かってからなんでまだ先ですけど」
「旅館に恵子っていたでしょ。あいつ、私と同じ八十四ババァなんだ」
「「えええぇぇっ?」」
「私よりだいぶボケてるから、なんか言われても話半分でいいよ」
「は、はぁ…」
「また服や体型で困ったら、うちに来るといいよ」
「「はい!ありがとうございました!」」
「またねー」




