表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/32

かつての師

あたしは未だに自分の心臓を抉りにかかる日本刀を引き抜いた。相も変わらず暴れ回り、傷つけようとするのを力業で押し留める。時折鳴る歯軋りに自分でも苛立ちながら、何とか箱の中に戻す。帰ったらまた札を新調して貰おう。

兄貴の矢も全て引き抜いて、亡骸になったそれに予備の短刀を突き刺した。あたしに対する呪詛、怨恨。それだけが刃に吸収されていく。余計なものなど要らない。殺意だけでいい。そうしたらこの大太刀と同じように、一生かけて僕として扱ってやるよ。

「ごめん。遅くなった」

全てを片し終わった後、あたしは無垢な御霊に霊力を流す。力を受けた魂は白い光を放ち、人の姿を再生させる。漸くあの時と同じ、神社で初めて会った神擬きになった。形作ったとはいえ不完全。祓われた故に半透明で、直ぐにでもこの姿は消えてしまうだろう。

彼は悲しげな目で此方を見つめている。幸い塵も無い。貴方の姿だけが鮮明に見える。

「あぁ.......。随分と変わり果てた姿で会ってしまった。君のことも傷付けてしまった」

「堕神と同化していたとはいえ..............いや同化して、人間を喰らったから、あんたはもう居られないんだ」

人から“居ない”、“去った”とされていた神様は実際にそこにいた。だが余りにも多くの思いが、そのように向いてしまったが為に、認識する事さえ難しくなった。それに堕神が目を付けた。人間の御魂よりも力が強く、かつ相手は忘れられているが故に思うように力を振るえない。格好の餌にされたのだ、彼は。

気が付くと頬が濡れていた。誰も分からなくても、あたしだけは見えていた。見えた礼に力の使い方を教えてくれた、優しい神様。でも、もう..............。

「さよなら、私の師。あんたのお陰で自分が少しだけこの世界が好きになれたよ」

最後の感謝の言葉は光の屑となって消えていった。もう跡形もない。僅かに残された思念だけが対流する。それをどうにか掻き集めて、数珠に宿す。もう何の力も持ち得ないものだ。でもだからこそ、貴方の罪も無い。

ごめんなさい。こうする事でしか、貴方を救えない。

凛がほんの少しだけ、自分の目を愛せた話。

この目が無かったら、過ぎ去りの神と出会えなかったし、救えなかった。

だから、以前の世界よりも綺麗だと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ