異邦の料理人
どこそこの意味があろうとも
つまるところ
料理人てえのは
お互い大差ないもんさ。
無精髭にざっくらばんに頭をまとめ上げた夕日の模様をあしらった着物を着た人懐こそうな男がにこやかに和楽へと足を運んだ。今日は常連もなく家族もまたいない。店主であるレイしか居らず、レイは穏やかにその客を迎えた。
「店主、おすすめを頼む」
「承知致しました」
男の穏やかな表情を見ながらレイは静かにシーランド一を自称する馴染みの鍛冶屋が鍛え上げた包丁を取り出しこの街近海でとれた色とりどりの魚をまないたへと導く。
「………よく私が刺身と清酒が好きとわかったね」
男の前に出されたのは色とりどりの刺身と甘口の清酒。
元は地球産の米を特殊な条件下で発芽させそれを精製して清酒として作っていたが、地球産よりもこちらの世界の方が酒の深みと味がよくこちらの方の米へと切り替えた。だが米で精製する酒よりも麦で精製する酒の方が主流なので米で造る酒というのは珍しい。
「………まさかこちらで呑めるとは思わなかったな」
しょうゆとわさびをつけながら男は笑う。
「お客さんは東方の国の出身のようですので清酒と刺身に思い入れがあるかなと思いお出ししました、甘口の清酒は僕の好みですね」
「辛口も確かによいが口当たりがまろやかだから私はこちらの方が好きだね」
目の前の客はただ黙しながら刺身を平らげると
「………よい店だ」
清酒をのみきりにこりと笑う。
「店主………一つだけよいかね?」
客はにこりと微笑む。
「君にとって料理人とは何者かな?」
「それは共に笑顔でいられる存在ですよ、コウシロウ殿下」
レイの言葉に男は肩を竦める。
「やれやれどうやら私の正体は見破られていたようだね」
「諸国の料理を楽しみ………御自身も名のある料理人………極東の国倭国の将軍………コウシロウ=ヤナギ殿下」
「こちらの先代に聞かされてきてみれば中々の料理人だね」
コウシロウはにこやかに笑う。
「ふふ、よい出会いをした………ありがとう、レイ君、君とはまた会う事にしよう」
満足げに言うと料金を支払い店を後にした。
「………余りの来訪、少し面倒な予感がしますね」
レイは肩を竦める。
「父上………レイ殿は如何でしたか!!」
美しく可愛らしい溌剌とした桃色の着物をきた少女がコウシロウに声をかける。
「シグレが懸想するのもわかる男だな、婿に欲しい」
「だから言いましたのに、父上はお会いにならればと」
「父としてはやはり気になるものだ、それに覚えているか定かではあるまい?」
「例えそうだとしてもシグレの命を救ったあの方を私はお慕い申しておりますわ」
「ふふ、愛娘のために私もまた人肌脱ごうか」
シーランドの生鮮市場の中でにこりとコウシロウは笑った。
「………一国の主が僕に会いにねえ」
「そいつは女難の相じゃな!」
「シンさんいきなりですか」
カウンターにはいつもの好々爺神のシンがいた。
「まあお主は色んな苦難も笑って乗り越えれるよ、それに料理もうまいしな」
「褒めても何もでないですよ?」
「ふふ、まあかけつけ一杯、今日は芋焼酎がいいかの」
「はいはい、貴方には恩がありますしね」
「不手際の間違いじゃろ」
シンは笑いながら焼酎を受け取り笑った。