第145話 挑戦
「きっとこの世界の一日は、外の世界での数分程度に過ぎないんじゃないかな……ダンジョンマスターの権能を使えば、それくらいはできるよ」
それは三人にとって、最も絶望的な事実であった。
唯一この状況を打開できる、トオルの助けが来ない。
来たとしても、それまでにこの世界でどれ程の時間が経過しているのだろうか。
下手をすれば、年単位でこの世界に閉じ込められる可能性すらあった。
「そんな……じゃったら、どうしろと言うのじゃ!? ずっとこの場所でままごとをしていろとでも言うのか!?」
「あるいは、その前に飽きてボクらが食べられるかだね。ボクとしてはこっちの可能性が高いと思うよ。なんせ子供のままごとなんていつ飽きられてもおかしくない」
「……あのお店の方が保たない可能性もあります。トオルさんは模造品である事に気づいていましたが、店員の方……アズマさんとシンシアさんは気づいていませんでした。あの二人は多分、私たちのように強い訳じゃないと思います。普通の人間に近い精神性」
「この世界の状況を一発で把握できるなんて、それこそホムラちゃんクラスの強さがないと無理だよ。ましてや自身が模造品だなんて気づいちゃったら……まぁ、普通の人間は正常な精神を保てないだろうね。そうなればあの店は実質崩壊。このままごとも強制終了だ」
恐らく、この世界の違和感に気づくのにそれ程時間は掛からないだろう。
この世界は渋谷ダンジョン下層を模しているが、それも不完全だ。
魔物の気配はないし、他の人間の姿もない。この空間自体もそれほど広さはないし、店の周囲だけ取り繕って作り上げた地形なのだ。
「仮にあの二人が気付いたとしても、ゲームのセーブデータみたいにリセットする事はできるだろうけども。これまでの記憶をなかったことにしてね。まあそれでもバエルに飽きがきたらおしまいだよ。ボク達に主導権は一切ない」
完全密室。暴力は行使不可。時間制限付きで、助けがくる望みも薄い。
イヴが最初に言った『詰み』という状況を、アルは嫌でも理解せざるを得なくなっていた。
「儂等、どうしようもないのか?」
「残念ながら、ボクも打開策が思い浮かばない。バエルの気まぐれを期待するか、三人で玉砕覚悟でこの世界の破壊を試みるか。……あるいは、修行してトオルに勝てるようになる、とか?」
「疑問系になってる辺り、はなから無理って言っとるもんじゃろ……あの怪物は、ちょっとやそっとの努力や工夫で倒せる相手じゃないのじゃ。
そもそもなんでバエルは、生きた人間をそのまま再現したんじゃぁ……」
「そこはちょっと、ボクにもわからないな。あの店そのものに何かこだわりがあるのか、そもそもどうやって過去のトオルの情報を入手したのか、謎は残ってはいるけど。多分ここで考えても結論は出ないだろうね」
「……バエルの目的は、本当にままごとをしたいだけなんでしょうか?」
二人が絶望的なやり取りを繰り広げている間、ホムラは内心である疑問を抱いていた。
あの模造品の料理。情報を集めて構築しただけの物体。
恐らくあれも、入手した『pochard』の情報から再現した物だろう。
確かに美味しい料理、しかしそれだけ。
何かが欠けている。美食に出会った時の感動が、あの料理からは得られないのだ。
しかし調理したアズマ本人は、その模造品の料理に違和感を覚えた様子はなかった。
気づけなくされているのか、それとも再現したバエル本人が気づいていないのか。
ホムラは薄々、その欠けているピースの正体に気づいてはいるが……
「バエルの目的が叶えられたら、このままごとは終了するんでしょうか」
「……。興味深い話題だけど、あまり期待しない方がいいと思うよ。バエルの望みが叶うのと、ボク達が助かるのは別の問題だ。わざわざ食べた餌を、満足したからといって吐き戻す奴がいるかい?」
「これではまるで、儂等は死ぬまで働かせられる奴隷なのじゃ……」
アルとイヴの顔からは、完全に希望が消え失せていた。
人智を超えた存在であっても、どうしようもない絶望。
「…………」
その状況下において、ホムラは。
「アルさん、イヴさん。お二人に、お願いがあります。」
「む?」
「ん?」
「私に修行をつけてくれませんか。あのトオルさんを、倒せるようになるまで」
――その黄金の眼差しから、まだ希望の光を失ってはいない。
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