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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第144話 もしかして:詰み


(三人称視点)




「結論。詰んだ」


「いや諦めるの早過ぎじゃろ!?」


 ホムラ、アル、イヴの三人は既に『pochard』を後にしていた。

 先ほどまで荒野のような光景が広がっていたはずなのに、今では渋谷ダンジョン下層の風景――光る鍾乳洞が広がるばかりである。

 食事を終えた三人はトオルの不興を買わない内に退店し、離れたところで作戦会議を行っている所だった。


「いや割とどうしようもないよこれ……まあ捕食者が獲物に脱出の機会なんか与えるわけないし、喰われた時点でゲームオーバーなのはしょうがないとしか言えないけど」


「いや、色々質問しとったじゃろ貴様!? なんかこう、打開策みたいなのは見つけられんかったのか?」


「情報は聞き出せたよ? それを加味して考えた結果が詰み(・・)なんだよ」


 贋物の料理とはいえ、体力を回復する効能はあったらしい。

 バエルとの戦闘で消耗した分は三人とも回復できたが、それでも彼女らの表情は浮かないものであった。


「……多分あのカエル、バエルは人間の料理に興味を持っているんだと思います」


「お、ホムラちゃんも気づいてたか。ボクも同意見だよ。じゃなきゃわざわざ腹の中で料理店なんて再現したりしない」


「あのカエルがぁ……? なんでもかんでも食べまくる奴じゃぞ? 知性の欠片も感じられんかったが」


「だからこそだよ。バエルは今、進化の途上にいるんじゃないかな。魔王種も人間も、情報を取り込んで知能を発達……進化させていくからね。君だってそうだったろう?」



 イヴの指摘に、アルは黙り込む。

 事実を指摘された事と、あのカエルがまだ進化の過程でしかないという事実に気づいたからだ。



「人間の赤子が成長と共に、様々な事に興味を持ち始めるのと同じだよ。【暴食】の名を冠するなら尚更。人間の料理に興味を持ってもおかしくはないだろうね。アルちゃんより保有情報量が多いのに知能発達が遅れているのは、人型(ひとがた)でないのが影響してるのかな」


「じゃ、じゃが、どうしてそれが儂等を監禁する事に繋がるのじゃ! お料理ごっこをしたいのなら、一人で勝手にやっていればいいじゃろう!!」


「アルちゃん。料理っていうのは、一人だけじゃ完成しないんです。それを食べてくれるお客さん(・・・・)がいなくちゃ、成り立たない。……私たちはそのお客さんの役をやらされている。そうですよね?」


「その通りだよホムラちゃん。要はボクらは、バエルのお料理ごっこというままごと(・・・・)に付き合わされているんだ」


 アルが怪訝な表情を浮かべる。

 ままごと、という言葉の意味を、彼女は知識としては知っていた。

 しかしそれだけだ。生まれた時からある程度の知能を持っていたアルは、人間と同じような成長過程をたどっていない。

 ままごと等という幼稚な遊びを経験したことも、考えたこともない。故にバエルの思考を、いまいち理解できないでいた。


「バエルが人間でいう三歳児程度の知能なら、ままごとに熱心になるのも理解できるけどね。問題はそのままごと遊びに、ボクのダンジョンマスターとしての権限を使っている事だ。遊び道具としてはいささか危険すぎる代物だ」


「そもそも盗られたのは貴様の責任じゃろうが」


「ぐうの音も出ないね。……ともかく、その危険過ぎるおもちゃを使って、バエルはとある存在を体内で構築した。お察しの通り、それが先ほどの少年トオルだ」


「私の知るトオルさんより、随分若く見えました。イヴさんは当時のトオルさんをご存知だったんですか?」


「いや。ボクが最初にトオルと出会ったのは、彼がパーティーで活動していた時期だ。お店で働き始めるよりもっと前だよ。ボクは用心棒時代のトオルを知らないし、あの店を訪れたこともない」


「パーティー……」


 以前にも聞いたが、あの荒れた時期の少年トオルにも、かつて行動を共にする仲間がいたという事か。

 気になる単語がまた出てきたが、ホムラは一旦それを思考の隅に追いやる。


 時系列としては、あの少年トオルは一度イヴと会った後という事になるだろう。その後何かがあって、パーティーを離れ『pochard』で働くことになった。

 ……その後、おそらくまた何かが起きて、店長アズマは『pochard』を閉店する事になった。そしてその技術と意思を引き継いだのが、ホムラの知る現在のトオルという訳だ。


「あの少年トオルは、料理のままごとには必要ない存在だ。様子を見る限り、彼は料理のりの字も知らないみたいだったし。……にも関わらずこうして模造品として生み出されたのは、彼がこの世界の守護者、いわゆる門番としての役割をあてがわれたからだ」


「も、門番……じゃと?」


「ボク達侵入者が、余計な事をしないように見張る役割だよ。例えばこのままごとを邪魔しないようにする、だとか」


「実際、あのトオルさんの実力は圧倒的です。私たち三人が束になっても勝てないと思います」


「同意見だね。そして同時に、ボク達が強行突破でこの世界から脱出する事を防ぐ役割でもある。つまり暴力に訴えるという選択肢は使えない。もう詰みだよ詰み」


 最後の方はイヴも投げやりになっていた。

 状況を整理していて、この絶望的な状況を改めて認識してしまったのだろう。

 ここまでくれば、流石のアルも事態の深刻さを理解し始めていた。


「じゃ、じゃが……暴力以外にも方法はあるかもしれんじゃろう? 例えば出口を探すとか」


「出口はないだろうね。さっきも二人で探してみたんでしょ? ここはバエルの作ったもう一つの世界、外界とは異なる世界だ。胃袋みたいに入口と出口がある訳じゃない。開けるも閉じるもバエルの自由自在なんだよ。そして獲物に脱出の機会を与えるなんて、普通ならあり得ない」


「……体力が全快すれば、この世界ごと焼き切って外に出られるかもと考えていました。けれどトオルさんがいる以上は……」


「無理だろうね。そもそもこの世界を壊すという事は、あの店を壊す(・・・・・・)という意味だ。彼が果たして、それを黙って見過ごしてくれるだろうかね?」



 ホムラは少年トオルの言葉を思い出す。


『創造主サマの目的がどうあれ、俺のやる事は変わらない。――敵からこの店を守る。それが用心棒として雇われた、俺の存在意義だ』


 彼は何かに思い詰めたような、強迫観念に囚われているような……そんな様子に見えた。

 過敏なお年頃とでも言うのだろうか? 少なくとも現在のトオルのような余裕は欠片も見受けられなかった。

 ……直接的でないとはいえあの状態の彼が、店に危害が及ぶ事を黙って見過ごしてくれるとは、ホムラはとても思えなかった。


「そ、そうじゃ!! そこの人間は確かあの店長と知り合いじゃったな! こうして閉じ込められている事を知れば、助けに来てくれるのではないか!?」


 話を聞いていたアルが、希望を見つけたとばかりに明るい表情を浮かべる。

 しかしそれにも、イヴは力なく首を振るだけだった。


「確かに彼は来るだろうね……ホムラちゃんに加え、ボクも帰ってこないとなれば流石に異変に気づくだろうし」


「おお! じゃあ儂らはそれまでままごとに付き合って生き延びればいいわけじゃな!! 現在軸の店長なら、あのデブガエルにも小生意気な子供店長にも勝てるじゃろ!」


「そうだね。ただ、助けにくるまでどれくらい時間が掛かるかな」


「……へ」


 アルの浮かれた表情が固まる。

 対照的に、ホムラは浮かない表情のままだ。薄々助けが期待できないことは理解していたのだろう。


「ここは外界とは異なる世界。つまり外界と時間の(・・・・・・)流れが異なる(・・・・・・)可能性がある。下層と深層の間に、時間の隔たりがあるのと同じようにね」


「外界を認識できない以上、私たちはその時間の違いを把握できませんが……多分、バエルはこの世界の時間を操作していると思います。しない理由がない」


「だろうね。時間を掛けるとトオルが助けにくるというのは、バエルも把握している筈だ。なんせボク達の情報を食べちゃったんだからね。バエルとしては、なるべくこのままごとを長引かせたいと思うのが自然だろう」




「……ま、まさか。ここは、この世界は、外より時間の(・・・・・・)流れが早い(・・・・・)のか!?」


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