第123話 【暴食】
(三人称視点)
「――陽炎ッ!!」
高熱によって歪んだ空気が、ホムラの姿を覆い隠す。
直後、三百六十度あらゆる角度から、時間加速による超速射撃が襲いかかった。
(強い! わかってたつもりだけど、下層までの敵とは比べ物にならない!)
まるでレーザーのような光線の嵐から、間一髪抜け出したホムラは、そのまま上空へ向かって飛翔する。
ホムラの周囲にいるのは、まるで樹木のような姿をした怪物達だった。
捻くれた樹木がまるで人型のようになって歩き回っている。しかし顔らしき部分が見当たらず、のっぺらぼうのようで不気味だった。
樹木の姿をした魔物としてはトレントという魔物もいるが、しかし目の前の怪物はトレントではないと、ホムラは確信していた。
(火星で戦ったからわかる。多分あれらはユニークモンスター! 多分無窮を通って、深層まで迷い込んできた奴らだ!)
その特徴的な時間の揺らぎを、ホムラは前の戦いでしっかり覚えている。
統率された軍隊のような動きで、この異世界魔物共はホムラにいきなり光線の雨を浴びせてきたのだ。
「んもう、しつこいなぁ!」
空を飛び回るホムラに対し、地上から光線をありったけ撃ちまくる樹木人間。
ホムラの周囲の時間を停止させ光線を防ぐバリアにしているが、怪物らも時間操作の使い手。時間を互いに操作しあって、制御権を奪い合っているのだ。
バリアをこじ開けたレーザーが、ホムラの頬を掠めていく。
(数が多すぎるし、隙がない。これだけの数相手に、直接時間停止は使えない。
……けれど)
ホムラとて、ただ黙ってやられっぱなしでいたわけではない。
飛び回りながら、樹木人間達の様子を観察していたのだ。
(あまりにも統率がとれすぎている。きっと全体を操っている指揮官がいる)
数十という樹木人間の中から、ホムラは一つ一つ個体を観察する。
――その中で一体、攻撃のタイミングが一瞬早い個体がいる事に気づいた。
「見つけた」
直後。ホムラは焔の魔人と化した。
全身に焔を纏い、肉体の一部を焔そのものに変換。
【焔剣士】の感情によって燃え盛る焔が、時間の壁をぶち抜いて異次元の加速を実現する。
「焔上強化」
光の速さを超え、ホムラは上空から地上へと一直線に突っ込む。
隕石でも落ちたかのような、凄まじい衝撃波と爆炎が生まれる。樹木人間は地面に根を張り衝撃に備えるが、それでも一部は吹っ飛ばされた。
「…………」
衝撃波と爆炎が止んだ頃。
爆心地には、ホムラと樹木人間、その指揮官らしき個体が佇んでいた。
その捻くれた身体を剣で刺し貫かれ、内側から摂氏数万度の焔で焼かれ、その焔は時間すら焼き尽くしていた。
ボロボロと、炭化した指揮官個体が崩れていく。
それを見た生き残りの樹木人間達は、一目散に逃げ出し始めた。
「……あなただけ、攻撃が一瞬早かったんですよ。他の個体より優秀だったんですね。
だから多分、あなたが指揮官だろうと思って一点集中しました。どうやら当たりだったみたいですね」
……ホムラが掴んだこの勝利は、実際賭けに近いものであった。
もしもこの個体が指揮官でなければ、ホムラは隙だらけの状態で四方から光線を浴びる羽目になっていただろう。
超人と化してなお、一筋縄ではいかない敵。
ホムラは改めて深層という場所の危険性を理解した。
(……ここはまだ深層2階。それでもこんなに強い敵がどんどん湧いてくる。
戦うのはすごく楽しいけれど、今は他の目的もある。このペースじゃちょっとまずいかも――)
ここから奥に進めば、さらに強い敵も現れるだろう。
今の所魔王種には出くわしていないが、そろそろ現れてもおかしくない。
ホムラの現時点での実力で、この先の敵に果たして通用するだろうか?
(退くか進むか。ここらが分かれ目ですね。さて、どうしま――!?)
「ッ、敵!?」
そして悩んでいたホムラは、近づいてくる新たな影を察知した。
――それは、一言で言えば巨大なカエルだった。
毒々しい紫色の体表。ギョロリと蠢く四つの目玉。
頭部からは冠状の角が生えていて、全身からドクドクと得体の知れない粘液を分泌している。
そして特筆すべきは、その腹部。
まるで体内に銀河が広がるように、その中身が透けて見えていた。
輝く星々の代わりに、捕食した獲物らしきものが浮かんでいる。その中には先ほど戦った、樹木人間らしき残骸も漂っていた。
そしてその中に一匹、ホムラが見覚えのある存在がぷかぷかと浮かんでいることに、彼女は気づいた。
「え、アルちゃん……?」
「ゲコッ」
――深層2階の支配者。魔王種、【暴食】のバエル。
新鮮そうな餌を見つけたその魔蛙は、その全てを飲み込む舌をホムラ目掛けて伸ばした。




