第119話 来訪と訪問
先日ダンジョン協会本部に呼び出された時に、理事の士道大元さんと、配信コラボと暗躍する厄災の存在について話をした。
前者の話はともかく、後者については俺の予想より日本政府の動きが鈍かった。
もしかして結構洗脳が広範囲に広がってたのかな? 無窮への入り口がある、渋谷ダンジョンを擁する国だ。その辺は入念に動きを鈍らせてたのかもしれないが。
「というわけで勝手に倒しちゃったという次第です。地上の動きを待ってるのも性に合わないので」
「えぇ……」
止まり木亭の店内。テーブルに座る俺の前で、シドウさんがなんか困惑の表情を浮かべていた。
探索者協会の偉い人……いや、政府とも繋がりがあるのかな?
ともかく、それなりの立場だけあって事情は把握していたらしい。それでも改めて詳しく説明するとこんなリアクションをされてしまったが。
「……いえ、失礼しました。世界規模の危機であっても、貴方にとっては大した脅威ではないという事ですね。我々の尺度で測る事自体が誤りでした」
「まあ思ったよりは強かったし、この世界の人類じゃ太刀打ちできなかったかもね。俺も居候先の世界がなくなるのは困るし、これくらいは働かせてもらいますとも」
……そんな感じで世間話をしている俺とシドウさんだが。
もちろん、自力でシドウさんが来店した訳ではない。この世界の人類にはまだそんな力はない。
今回の約束の為に、俺が直接送迎をしたのだ。そしてこの場にはもう一人、シドウさんの他に来客が居る。
「…………」
「どうぞ、お水です」
「おや、これはどうも」
シラユキちゃんの用意したお冷を、爽やかな笑みで受け取るこの青年。
名前を真仮秋人。日本で十人しかいない、Sランク探索者の一人だという。
てっきり俺は、クライさんが護衛としてくるものだと思っていたが……
彼は俺とシドウさんの会話には参加せず、隣でじっと俺の事を見つめていた。
……Sランク探索者といえば。
ホムラちゃん、今頃何してるんだろうか? 無事でいてくれるといいのだが。
◆
(三人称視点)
――渋谷ダンジョン。深層1階
そこは、草木が一本たりとも生えていない、辺り一面の荒野であった。
「ここが、深層……確かに、時間の流れがこれまでとは違いますね」
ホムラアカリは、この世界線の人類で初めて、この深層に足跡を残した。
歴史に残る紛れもない偉業。しかし当の本人は浮かれる様子もなく、周囲を油断なく警戒していた。
「障害物が何もない……敵に見つかったら、戦闘は避けられないですね。敵の強さもまだ分かりませんし、慎重に攻略したい所ですが」
しかし、状況がそれを許さない。
一つは環境。地上と時間の流れが異なるという特異な環境が、ホムラを戒める。
奥に進むほど時間のズレは大きくなると、ホムラはトオルから聞いている。まだ1階とはいえ、時間を掛けすぎると地上で数ヶ月という時間が経過してしまうかもしれない。
そして、もう一つの理由。
(……あの、もう一人のトオルさんが言ってた事)
先日対峙した厄災のトオルではない。
『止まり木亭』に客として訪れた(?)、ケモナーのトオルの事である。
(いずれくる大厄災を防ぐためには、魔王種の協力が必要……あのトオルさんはそう言っていました。
火星の悪いトオルさんは居なくなりましたが、私はまだこの世界に、大厄災の種が残っているような気がしてしょうがないんです)
それは探索者としての、ホムラの直感といえるものであった。
これまで何度も自身の命を救ってくれた直感を、ホムラは誰よりも信頼している。そしてそれは、ホムラが超人と化した事でより一層研ぎ澄まされていた。
恐らくこれは、料理人のトオルも気づいていない潜在的な危機。
ケモナーのトオルから話を聞いたホムラだからこそ、抱いた危機感であった。
(もし私の直感が正しければ、あまり時間は残されていない……
だからこの深層で、少しでも多くの魔王種と接触を図る)
そう、それこそがホムラの今回の探索の目的。
魔王種との接触。この深層で大乱戦を繰り広げている彼らに、接触して友好関係を持ちかけること。
無論、危険性は承知の上だ。マモンの様に、人類に悪意を持つ魔王種もいる。
しかしホムラは己の直感を信じ、リスクを飲んで即座に行動することを選んだ。
「できれば、知り合いのアルちゃんやレヴィちゃんに出会いたい所ですが……
確か、領土争いに負けたって言ってましたね。なら今はあてもなく彷徨ってたりして……?」
そうなると見つけ出すのは困難だ。ゆっくり探索している暇などない。
背中から炎の柱を噴射し、ロケットの様に深層の空を飛翔する。
一抹の不安を抱きながらも、ホムラはダンジョンの奥深くへと進んでいった。




