表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
183/184

何が正しくて、何が正しくないのか、私達はその迷路を、人が多い方に流されながら生きている。

「あなたの年収はいくらですか?」


「○○○万円です」


「ぶふ!少ないですね。ではあなたは、貧乏で不幸!」


「あなたの年収はいくらですか?」


「○○○○万円です」


「たは!多いですね!すごいですね!あなたは凄い人です。素晴らしい!では!あなたはお金持ちで幸せ者!」



「あなたはどこの大学を出ましたか?」


「大学ではなく専門学校を出ました」


「ぁ、そうですか、はぁぃ…」


「あなたはどこの大学を出ましたか?」


「自分は高卒です」


「ぁ…わかりました」


「あなたはどこの大学を出ましたか?」


「東大です」


「す、す、すんばらしい!私が求めていたのはあなたのような人です!!」



「資格はもってますか?」


「いえなにも」


「ぁ、そうですか。じゃああなたは、何もない人間なんですね」


「いいえ」


「いいえ?いえ、そんなことありませんよ。あなたは資格を持っていないではないですか?誇れるものが何もないではないですか?ということは、あなたには何もないではないですか?」


「資格というのはそんなに大事なことですか?」


「ええもちろん。当たり前じゃないですか」


「何年も前に取って、その内容を忘れてしまっていても」


「ええもちろん!資格は視覚です!四角を持っているという事がすんばらしいのです!資格を持っていないあなたはゴミです」



「あなたの職業は?」


「会社員です」


「年収は?」


「○○○○万円です」


「す、す、すんばらしい!」


「でも、人をよく殴ります」


「私でなければそれは構いません!それもあなたの個性の一つ!どうぞご勝手に!」


「今まで業者に頼んでですが、人を何人も殺してきました」


「私でなければそれは構いません!それもあなたの個性の一つ!悲しみ多き男なのですね。今までさぞつらかったことでしょう。慰めはこの私の役目」


「こんな僕でも大丈夫ですか?」


「愛さえあればもちのロン!一生一緒にいましょう!」



「あなたの職業は?」


「会社員です」


「年収は?」


「○○○万円です」


「出世の保証あります?」


「わかりません」


「ではダメです。無理です。少し離れて」


「ごめんなさい」


「まず結論から言わせてもらうと、そのお金では私を養うことができません。子供ができたらもっとできません。私はもちろん働きません。あなたは一生仕事を辞めることができません。当たり前のことを言いますが、その収入では私は育児はできません。すべてが、全てが足りません」


「貯金はあります」


「いくら?」


「○○○万円です」


「風に吹かれたら消え去る額ですね」


「優しさと愛情ならだれにも」


「うざい消えろ」


「あなたの職業は?」


「フリーターです」


「は?じゃあいい」


「あなたの職業は?」


「無職です」


「ではさよなら」



「僕は不幸だ」


「アフリカの飢饉で苦しむ子供よりも?」


「私は貧乏です」


「アフリカの飢饉で苦しむ子供よりも?」


「いいえ」


「じゃあ違いますね。残念。」



「異議あり!裁判長!賄賂をあなたにたくさん渡しているので、とっととこの無罪の人を有罪にしてください!」


「有罪」



「人を見下せ、人を敬え、人の話は聞くな、人の話を聞け、俺になんでも聞け、何でもかんでも俺に聞くな、もっと喋って良いんだぞ、うるさい喋るな、本を読め、本など読むな、人と付き合え、付き合うな」



 何が正しくて、何が正しくないのか。


 私達はその迷路を、人が多い方に流されながら生きている。


 人には一人一人にきちんと心があって、皆その中で、人生の中で、痛みを抱え、時には迷い、他人を傷つけ、自分も傷付き、迷い、まよい、迷う。自問自答を繰り返して、何がいけなかったのか、何があっていたのか、なんであんなことをしてしまったのか、なんで手を差し出さなかったのだろう、退屈だ、会社辞めたい、バイト辞めたい、学校行きたくない、仕事していたくない、仕事を辞めれば自由だ。


「…」


 誰もが皆、目に見えない何かと戦い、時には勝ち、時には負けを繰り返しながら生きている。


 誰もが皆、不安があり、焦りがあり、孤独感があり、これでいいのかと、のたうち回りながら生きている。


 自分は特別な人間なんだと思いながら、平凡な毎日を、こんなはずではないと愚痴をこぼしながら、不満をこぼしながら生きている。


 生きている、人間は生きている。心と共に生きている。何かに憧れ、他人を羨ましく思い、自分にないものを妬み、自分を卑下し、自分にコンプレックスを抱きながら、他人にそこを突かれぬように頑張って装いながら生きている。


 ブヴォン


 ガタン ガタン


 私は電車の中にいた。


 電車の座席は満席で、座れずにつり革を持って立っている人も少しいた。


「…」


電車の前の方に目をやると黒板があり(幸せとは何でしょう?不幸とは何でしょう?)と白いチョークで書かれていて、皆はその議題を頭を抱えて悩んでいた。


「幸せとは、日々を、悩みながらでも…懸命に、生きる、こと」


 私は手を肩くらいまで小さく上げて、そして自信のない小さな声で言っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ