一人一人に、明るい心と、どうすることもできない黒い心があって、その心に振り回されながら生きている
「…」
私は電車の中にいる。
満員電車の中、私のスペースを何とか見つけて、私は立ちながらパソコンを打っている。
「これは何時までにオワラセナイト」
周りから声が聞こえてきた。
「…」
よく見ると周りの人たちは、私の元の会社の人たちばかりだった。
「この資料●時までに作っといて」
「は~終わった」
「じゃあ次はこの死霊、じゃなくてこの資料、◎時までに終わらせといて」
「はい!」
「っていうかさ~あの人仕事遅くない?」
「っていうかさ~あの人挨拶しなくない?」
「っていうかさ~お茶入れるのに何分掛かってるのって感じじゃない?」
「じゃあ!あの人は敵で!あの人は見方なんですね!」
「じゃあ!あの人を嫌って、あの人を好きって言っとけばいいんですね!」
「うん!そう!」
「そういうことだよ!」
「あとは本人の耳に入らないように、本人のいないところで言えばいいだけ」
「はい!わかりました!」
「そうさせていただきます!」
「あ、あの人、また怒られてますね!」
「ははははは!」
「あ、あの人、また怒ってますね!」
「ははははは!」
「じゃあ!あなたたちも私たちの味方ね!」
「ははははは!」
「毎日同じ仕事」
「もう飽きた」
「休みたい」
「しんどい」
「もう疲れた」
「なんでこんなことしてるの?」
「しらないわよ」
「かいしゃのぎょうせきのUPのためですよみなさん!」
「みなさんがすうじがみえていないようなのですうちかしました」
「へ~」
「は~」
「ふ~」
「わかりやすくいたしました。よくわかったでしょ?ということで!では!つぎからはこのようにしてください」
「ぜんぜんちがう」
「まったくちがう」
「いままでと」
「はい!でも!そういうきまりになりましたので!はい!」
「みなさまにお金をはらっていますので!はらっているのはこちらですので!お金はだいじですので!お金がだいじですので!お金がなきゃ、わたくしもそしてみなさんもくらせません、そうでしょ?…っていうか、いわれたことはとっととやれ」
電車の中にはいろんな人がいた。
好かれている人、嫌われている人、人に優しい人、厳しい人、細かい人、おおざっぱな人、人を見下す人、人に気を使う人、頭がいい人、頭が悪い人、顔がいい人、顔が悪い人、悪口ばかり言う人、悪口を言わない人、人の良い所を見る人、人の悪い所ばかり見る人、明るい人、暗い人、若い人、年をとっている人、声が大きい人、声が小さい人、背が高い人、背が小さい人、いつも元気な人、いつも元気がない人…その他、ETC,ete,イーティー、シー
その人たち一人一人に、心があった。
その心は、他の人にもそして、自分自身でも見ることができなかった。
日々、何かを思い、何かに苛立ち、何かを拠り所にして生きていた。
一人一人に、明るい心と、どうすることもできない黒い心があって、その心に振り回されながら生きている。
叩かれたら痛い…怒られたら悲しい…人に出来れば嫌われたくない
「だったら、そんなことしなければいいのに」
「人を嫌ったり、悪口を言ったりしなければいいのに」
「人に理不尽を与えなければいいのに」
そんな簡単な事なのに…どうしてそれができないんだろう?
人が集まると、たくさんいると、人間の心は、どうしてか、大きく膨大に、悪い方へと膨らんでいく。人に理不尽を投げつけて、大きな声で小さな声で笑うことができるようになる。自分ではないからと、他人だからと、あの人には心がないんだからと…自分がされたら傷付くようなことを、平気でしだす。泣いたら喜び、喚いたら怒り、反抗されたら叩きのめす。
「どうにかなりませんか?」
「無理です!無理難題!人間っていうのはそういう生き物なんで!絶対に無理です!残念ですけど」
「誰が決めたの?それが無理だと誰が決めたの?」
「………しるかよ………」