私はそれを幸せに感じた
「あの、さっきから私…が、ずっと気になってたんですけど…」
私は間違っていない。絶対に。
「え?な、なに?」
私の言葉を聞いた瞬間、あなたの身体が固まった。
「…今日、私、ちょっと香水付けすぎちゃって…に、匂いきつく、な、いですかね?」
「ん?」
あなたはとんでもなく(ん?)という顔をした。でも私の顔は緊張でこわばっている。
「このいい匂い?」
「ぃ、ぃい匂いかは、わからないですけど…はぃ」
「ぇ、すごくいい匂い、ぃや、香り、ですかね…いや、いつも、いい匂い、あ、いや、良き香りに包まれているなと、思ってましたよ」
私は今、顔が熱い。という事はきっと、顔は真っ赤になっている。そしてそんな私の顔を見てあなたは(んあ!)という顔をし、あなたの顔も赤くなった。
「あぁ、はは、香水、の香り、ですよね!全然、きつくないです。むしろ、良い香りです。余計なこと言ってごめんなさい」
「ぶふ!」
「はは、もうやだ、恥ずかしい…」
あなたはそう言いながら顔を両手で覆った。
「ぅ、嬉しいです。よかった言って。そ、そんな答えが返ってくるとは思ってもいなかったけど」
私は白線の内側で、白線を見ながら言った。
「ははは、ですよね」
あなたは黄色い点字ブロックを見ながら言った。
私はあなたをちらと見て、さっき考えていたことを口にした。
「ご飯、どうします?」
「え?…あ、ご飯…」
あなたの顔には(え?ご飯?…あ!そういえばどうしよう!)という文字がデカデカと書かれていた。そして私を見て
「食べましょう!」
と言った。
「食べましょう!」
私もあなたの顔を見ながら言った。そして思いっきり二人で笑った。
私たちは電車に乗っている。平日のお昼の電車は空いていて、二人で並んで座った。端が座られていたので真ん中にドンと座った。
「…」
「……」
ガタンガタンと電車は揺れて走っている。
私とあなたは景色を見ている。
「…」
一瞬、あなたの顔をちらと見た。そしたらどうしてか凄く恥ずかしくなって、首をグニャンと回して、肩が凝ってたから首を回しただけですよ、という風を装った。
「今日、暖かくてよかったですね」
「はい」
「天気が良くてよかった」
「ふふ、うん、はい」
「僕、空が好きです」
「ふふ、知ってます」
「言いましたよね」
「はい」
「空を見てると、心が落ち着きます。空は僕らに最高の景色を作りだしてくれたり、心を明るくさせてくれたり、日向ぼっこさせてくれたりします」
「日向ぼっこは気持ちいです」
「うん」
「気持ちよくて、眠りたくなってしまうほど」
「うんうん」
暖かい日差しが電車に乗ってる私たちを優しく包み込む。
「…」
「……」
「…眠たいですか?」
あなたは少し心配そうな声で私に言った。
「…」
私はその声を聞いてどうしてか、もっとあなたを心配させたくなった。
「…はい」
あなたは目を大きくさせて、あからさまに少しがっかりした。私はそれを薄目で見て、にやけてしまうほど嬉しかった。
「ふふ、おやすみなさい」
「おやすみなさい…」
私はそれを幸せに感じた。