あなたと会っている間だけは、美しく、可愛くありたい。あなたの前では少し背伸びをしたい、見栄を張りたい。あなたに嫌われたくないから…。
「…」
どうしよう…
昨日の夜は明日が楽しみで眠れなかったのに、朝は予定よりもだいぶ早く起きてしまった。
「ふふ」
こんな気持ちは何年ぶりだろう。明日が楽しみで夜眠れなかったのなんて何年ぶりだろう、ウキウキして早く起きたのなんて何年ぶりだろう。
こんな日が…こんな私に来るなんて。
ほんの少し前まで死にたい、消えたいと言っていた人間が、明日が楽しみで眠れなくなって、ドキドキして朝早くに目を覚ましてしまう…起きてからも、心はウキウキして口角は上がりっぱなしだ。
全ての事が楽しく、面白く感じる。
何でもないことを幸せに感じる。
あなたが今日もそこにいて、こんな私に会ってくれる。何もない私に話しかけてくれる。私の言葉に返してくれる。
シャッ
カーテンを開ける。朝の陽ざしが私の顔を照らす。
今日も晴れていていい天気だ。なんだか今日は暖かそうだな。ん?ということは昨日選んだ服で大丈夫かな?暑くないかな?
「…ふふ、まあいいか」
暑かったら脱げばいい。そして寒くなったらまた着ればいい。そうすればいい。そうやってこの世の中を生きていけばいい。
「…違うか」
待ち合わせまでまだまだ時間がある。今日もいつもの時間にあの公園で待ち合わせだ。そして電車に乗ってショッピングモールへ行く。映画を見て、ご飯を食べる。楽しみだ、楽しみだ、楽しみでしょうがない。
「よし!」
それまでにすべてを完璧にしよう!無い自信を今日だけはあるように見せかけ、一番いい姿であなたの前に現れたい。今日だけは…あなたと会っている間だけは、美しく、可愛くありたい。あなたの前では少し背伸びをしたい、見栄を張りたい。
あなたに嫌われたくないから…。
「ぉ、おはようございます」
「お、おはようございます」
私たちは12時を過ぎる15分前には公園に到着していた。
「で、では…行きますか」
「は、はい…行きましょう」
二人はぎこちなく歩いている。私は、にやけてしまいそうになる口元をキュッと結んで「ぶへへ」と吹き出してしまわないように、えらく真顔を装って歩く。自分の心臓の音がえらくうるさいのを自覚しながら。