楽しくて仕方がない時間…この大切な時間をもっとあなたと過ごしたいと、心の底から思った
「ぁ、あの!公園ではなく、今度、いえ、明日でも、どこかデートに行きませんか?」
あなたの隣でニャーさんを撫でていたら、何の脈絡もなく、突然あなたにデートのお誘いをされた。私は驚いて目がまん丸になり、急に胸がドキドキして、頭が混乱して脳みその思考回路がショートして、頭と耳の穴と鼻の穴と口から煙が出そうになった。
なんなの!こんなに突然なの?こんなに何の脈絡もないものなの?「ニャーさ~ん、メグちゃ~ん、か~わいい!」って言った20秒後くらいにこんな言葉出るものなの?なんなの?のんの?メンズのんの?スゴクビックリ!へん、しん…いや、変事、返事…言葉を返さなきゃ、早く!速く!こんな機械、いや、こんな機会、ないんだから!生きてて全然、滅多に、いや下手すりゃ今後一生ないんだから!やっとお誘いをされたんだから!私が勇気を出して言わなかったから言ってくれたんだから!勇気を出してこんな私を誘ってくれたんだから!
「ぁ、はい。いいですよ。喜んで」
義家田!じゃなくて!よし言えた!
「ぬわ!」
「ぬわ?」
ぬわって言われた!ショック…
「はっ…よかった…」
「ぇ」
「よかった…やった…なんだか突然言えた…でも、何の脈絡もなく突然、言ってしまった…」
「ぶふ!」
私は吹き出していた。
「確かに、突然すぎて驚きましたけど、でも、なんでしょう、そういう言葉って、言うタイミング…って全然わからないですよね」
私もここ最近、ずっとそうだったから…ものすごくわかってしまう。大事な言葉は、今よりもまた新しい所へと踏み出そうとする大事な言葉は、言葉に出すのに、本当に勇気が必要で…その言葉によって、全てが良い方向へと動き出すときもあれば、全てが悪い方向へと動き出すときもあるから…。
あなたとの今の関係を、この落ち着けて楽しくて仕方がないあなたとの関係を、私はここ最近、もう一歩、新たに踏み出したくて…あなたと、新たに踏み出したくて、仕方がなかった。でも、その言葉で、その言葉を聞いた時のあなたの反応で、全てわかるのがわかっていたから…私は、何度もあなたの困った顔を想像してしまって、大事な言葉を、喉の奥に隠してしまっていた。
「で、デ、デートに誘ってくれて、私、とても、ぅ、う、嬉しかったです」
うわ!気持ち悪くなってしまった、噛みに噛んでしまった。嬉しかったとあなたに優しく伝えたかったのに、大事な言葉というのは、いつものどうでもいい話のようにスッと声に乗ってくれない。
「…」
「……」
私はニャーさんだけを一点に見ながら、赤い顔して無心で撫でる。
「ど、ど、どこ行きますか?」
あなたのどことなく焦った声が聞こえてくる。
「え、え、映画とかはどうでしょう?」
私のどことなく焦った声も聞こえてくる。
「映画ですか!い、い、良いですね」
「ですよね!な、な、なにか見たいものありますか?」
あなたは斜め前にいるメグちゃんを無心で見た。
「……ぁ、あっ、あったような……」
「なかったような?」
「…はぃ」
「なにやってるか、わからなかったような?」
「はぃ…」
「ぶふ!」
「ははは…情けない」
「いえいえ、実は私もです。私も今、どんな映画やってるのか知りません」
「ずるい…僕だけかっこ悪い感じになった」
楽しくて仕方がない時間…この大切な時間をもっとあなたと過ごしたいと、心の底から思った。