嬉しくて泣きそうな顔で笑いながら手を振った
「ありがとう…」
そう言って私は彼の腰のあたりに添えていた手を優しく外した。すると彼は
「と、突然抱きしめちゃって、申し訳ございませんでした」
と焦った顔で言った。私は一瞬どうして焦っているのかわからなくて戸惑った。でもその理由が何となくわかって、彼が可愛く見えた。
「ぁ、いえいえ、抱きしめてくれて嬉しかったです。突然だったからビックリしちゃったけど、なんだか、すごく、嬉しかった」
もっと直球に言うことができたけど、言わなかった。この言葉ですら恥ずかしくて顔を覆いたくなるのに…どうして言えようか。
「ふふ」
「え?」
「ぇ?」
あれ?私…笑ってた?
「…」
私は焦って下を見た。
「……」
たぶん私、今、ものすごく顔が赤い…。
今、私、なんだかとんでもなく恥ずかしい…。
どうしよう…よく考えたら、私、抱きしめられていたんだ、香水かけてくればよかった、もっといい匂いの化粧水使ってくればよかった、朝もお風呂に入ればよかった…どうしよう、照れて、恥ずかしくて、無限のどうしようあれしてくればよかったが続く…
「…」
私が髪の毛で両方の頬を隠しながら恐る恐る彼を見る。
「…」
彼の顔も真っ赤っかだった。
「ぶふ!」
私は吹き出していた。
「ふふ」
彼は情けなく笑った。
「あぁ恥ずかしい…あなたを見てたら、僕の顔も真っ赤になった」
「ふふ、人のせいにしないでください」
「ごめんなさい、今の僕は人のせいにしないとやっていけないみたいです…それくらい恥ずかしいってことです」
彼は情けない顔でニャーさんと灰色の綺麗な猫を交互に見た。
「…」
するとニャーさんたちはなぜか静かに離れていった。私にはどうしてか、ニャーさんたちが楽しそうな顔でニヤニヤしているように見えた。
「ぇ」
彼はあからさまに焦っていた。
「ふふ、大丈夫ですよ。公園の入り口のところであなたを待っています」
彼は腰を上げて私とニャーさん達を交互に見て、そして私を見て
「…」
あきらかに名残惜しそうな顔をした。
「ふふ」
そんな顔されるとなんだか照れてしまう。嬉しくて心が弾んでしまう。
「行かなくていいんですか?」
まだいてほしいのに、本心とは逆の事を言ってしまった。
「で…では、また」
また…っていつだろう?
「またっていつですか?」
私は口に出していた。その瞬間、どうしてか私の心臓の鼓動が速く、そして騒がしく私の中に響き始めた。
「また明日。の、またです」
それを聞いた瞬間、どうしてかまた目から涙が零れ落ちそうになった。でもその涙は温かくて、優しくて、いつもの苦しいものとは違う涙であるとわかった。
「では…また明日」
そう言って私は手を振った。
この言葉に幸せを感じながら。
嬉しくて泣きそうな顔で笑いながら手を振った。