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きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
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この時間がずっと続けばいいと思う…

「ぇ」


 その瞬間、彼が私を抱きしめた。


 私は頭が真っ白になってパニックになって、顔が真っ赤になって熱くなって、ニャーさんがビックリして離れていって、私はそれ以上にビックリして、心臓がドンドコ騒ぎ出した。


「…」


 でも、それと同時に、嬉しかった…。


 抱きしめられた瞬間、本当に久しぶりに人の体温を感じた。冷たく氷のようになっていた私の心を、彼が優しく包みこんでくれたような気がして、私はどうしてかその瞬間、大きな大きな声で泣きだしそうになった。


「…っ…」


 でも恥ずかしいから我慢した。私も彼の腰のところに手を回して、大きな声ではなく小さな声で泣いた。


「…」


 人間は温かいんだ。


 体も、そして心も。


 誰もいないと思っていた所で助けてと手を差し出したら、彼が私を引っ張って抱きしめてくれた…なんだかそんな気がした。


 彼に抱きしめられていると、心が温かくなってほっとする。落ち着いて安心してそのまま眠りたくなる。


 この時間がずっと続けばいいと思う…


「…」


 大丈夫かな?これは夢じゃないかな?


 目が覚めて、また、一人の寂しい世界になったらどうしよう…


 あの…救いのない、悲しい世界に戻ったらどうしよう…


 そんなのやだな、ぜったいやだ…


 ギュッ


 私は少し強く彼を抱きしめた。


 それと同時に彼の心臓の音が聞こえてくる。


 ドクンドクンと少し速く脈打っているように感じる。


 私のはどんな感じに聞こえているのだろう?


 すごく速くドンドコいってるのかな?


 なんだか少し恥ずかしい…


 恥ずかしくて体を離したくなるけど、だけど私の本能が(まだこのままでいたい)と言っている。


 まだ離れたくないと言っている。 


 甘えることを、人に頼ることをいつの間にか忘れてしまった私が、まだこのままでいたいと甘えている。


「…」


 甘えている私はおろかだろうか…


 甘えている私は惨めだろうか…


 人に頼っている私は惨めでおろかだろうか…


「…」


 いやそんなことない…


 それは普通の事だよ。


「人に頼ることはおろかな事じゃない…人に甘えることは惨めなことじゃない…人間はそうやって生きていく。人と人とが寄り添いながら、言葉と言葉を交わしながら、大事な日々を生きている」


 私は口に出していた、その言葉をあやふやなものにしたくなかったから、言葉に出して確信にしたかったから。


「人は一人では生きていけない…それは食べ物がどうとか、電気がどうとかそういうものではなくて…人は一人じゃ寂しいから、苦しいから…人の人生は一人で過ごすには長すぎるから」


 私はさっきから彼に、思ったことを口にしている。その思ったことは相手を傷付ける言葉ではなく、相手を妙に持ち上げる言葉でもない。もしも相手を傷付ける言葉が浮かべば言わなければいい、泣かせてしまう言葉なら言わなければいい、その言葉は相手のためになるなどと傲慢な言葉を思いながら言わなければいい。相手を傷付ける言葉もあるけれど、相手を傷付けない言葉もある…。


「ありがとう…」


 彼が私に優しい声でぽつりと言った。


「話してくれてありがとう」


 そう言って私の頭を、まるで猫を撫でるように優しく撫でてくれた。


「…」


 この世には優しい言葉がある。


 優しい行動がある。


 皆はその言葉を、もっと使えばいい。


 もっと優しい行動をとればいい。


 それだけでこの世はもっと幸せになれる。


 優しくなれる…。


「ありがとう…私の話を聞いてくれてありがとう」


 でも…それは難しい事なのかもしれない


 私が今までどれほど、人に、動物に、生きている者に優しくできていたのだろうか…どれだけ苦しんでいる人に手を差し伸ばしてこなかったんだろうか…電車で目の前に立っている老人にすら、席を譲らなかったこともある…そんな言葉が、そんな記憶が私の頭をよぎる。そんな私が何を言ってるんだと私が私を責めている。


 でも…でもそれに気付けたのなら変えていこう。


 私自身を変えていこう。


 私はそう思った。


 それは普通の人からしたら小さなことかもしれない…普通の人間は知っていることなのかもしれない、でも、私にとっては大きな、とても大きな気付きだ!とっても大きな一歩だ!


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