表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
161/184

私も一人なんですよ。孤独なんです。はは。恋人も当たり前のようにいないし、勇逸の友達は猫のニャーさんです。ハハハハハ

 私はニャーさんを抱きしめて涙を流していた。


 ニャーさん…きみはそんなことを思ってくれていたんだね。そんなに私を心配してくれていたんだね。こんなどうしようもない私を…。


たしかにニャーさんは私の膝の上に乗ってきてくれたり、撫でてほしいと私に頭をこすりつけてきてくれたり、私の近くに自分から来てくれることが多かった…あの行動にはそんな想いが込められていたなんて思ってもいなかった。


でも、ニャーさん大丈夫だよ…きみの温もりはちゃんと私に伝わっていたよ。


私はそう思いながらきみの頭を優しく、優しく撫でる。


「とクロ…いや、ニャーさんは言ってました」


 彼は優しい口調で、そして優しい笑顔でそう言った。


「あ、ありがとう、ございます」


 私は小さな声でお礼を言った。きちんとお礼を言いたかったのに泣いているせいで思うように声が出なかった。


「どういたしまして」


 彼は爽やかな笑顔でそう言った。


「…」


彼は灰色のとても綺麗な猫を見つめて大きく息を吸った。


「その子と、たくさん話をしました。そしてその子に、たくさんあなたのお話を聞きました」


 それを聞いたとたん、なぜか私は顔もそして耳までも熱くなった。どうしてか、本当の自分を彼に見られた気がしたから…今さらそれが恥ずかしくなった。


「僕…ずっと一人だったんです」


「え…」


「友達も恋人もいなくて…孤独でした。昔から…何をやってもうまくいかなくて、勉強も運動もダメで、人間関係も全然」


 全然そんな風には見えないのに…


「いつも人と話したいのに何を話したらいいのかわからなくて、どうやって話に入ればいいのかわからなくて…いつも隅の方で輝いている皆を見ているばかり」


 彼はそう言って恥ずかしそうに笑った。


「ぜ、全然そんな風に見えないです。なんていうか明るくて、友達が多そう。全然そんな風に見えないですよ」


 私がそう言うと、彼は首を振って


「本当にそうなんですよ。でも…そう言ってもらえて、すごく嬉しいかも」


 と言いながら、なぜか耳を真っ赤にさせた。


「はは、ダメだ、照れちゃいますね、恥ずかしい」


 そう言いながら両手で口元を隠す彼を、なんだかかわいいと思った。どうしてか頭を撫でてあげたいような気持になった。


「ふふ」


 そんな彼を見ていたらふと笑みがこぼれた。そしてそれと同時に、久しぶりに自分が笑ったことに気が付いた。


「…」


 そのことを彼に言おうとしたが、初対面の人にこんなこと言うべきじゃないと頭の中で考えてやめた。


「…」


 そしたら、何を話せばいいのかわからなくなった…。


 一度、躊躇やブレーキをかけてしまうと、それ以降も躊躇やブレーキだらけになってしまう。これは言っていいのか?初対面の人にこんなこと言っていいのか?どこまで話せばいいのか?わからなくなる…。


名前は聞いていいと思う…でも年齢は失礼かな?いつから猫と話せるんだろう?子供の頃なのかな?でも…こんなこと聞いたら失礼なのかな?


「…」


 でも彼は…自分の事を話してくれた。だったら私も、話すべきなのかな?(私も一人なんですよ。孤独なんです。はは。恋人も当たり前のようにいないし、勇逸の友達は猫のニャーさんです。ハハハハハ)

 言えない…こんなこと言えない…初対面の人に、こんな恥ずかしいこと言えないよ…。


(だったら、仲良くなったら言えるの?)


 私の頭の中で急に討論が開始された。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ