私も一人なんですよ。孤独なんです。はは。恋人も当たり前のようにいないし、勇逸の友達は猫のニャーさんです。ハハハハハ
私はニャーさんを抱きしめて涙を流していた。
ニャーさん…きみはそんなことを思ってくれていたんだね。そんなに私を心配してくれていたんだね。こんなどうしようもない私を…。
たしかにニャーさんは私の膝の上に乗ってきてくれたり、撫でてほしいと私に頭をこすりつけてきてくれたり、私の近くに自分から来てくれることが多かった…あの行動にはそんな想いが込められていたなんて思ってもいなかった。
でも、ニャーさん大丈夫だよ…きみの温もりはちゃんと私に伝わっていたよ。
私はそう思いながらきみの頭を優しく、優しく撫でる。
「とクロ…いや、ニャーさんは言ってました」
彼は優しい口調で、そして優しい笑顔でそう言った。
「あ、ありがとう、ございます」
私は小さな声でお礼を言った。きちんとお礼を言いたかったのに泣いているせいで思うように声が出なかった。
「どういたしまして」
彼は爽やかな笑顔でそう言った。
「…」
彼は灰色のとても綺麗な猫を見つめて大きく息を吸った。
「その子と、たくさん話をしました。そしてその子に、たくさんあなたのお話を聞きました」
それを聞いたとたん、なぜか私は顔もそして耳までも熱くなった。どうしてか、本当の自分を彼に見られた気がしたから…今さらそれが恥ずかしくなった。
「僕…ずっと一人だったんです」
「え…」
「友達も恋人もいなくて…孤独でした。昔から…何をやってもうまくいかなくて、勉強も運動もダメで、人間関係も全然」
全然そんな風には見えないのに…
「いつも人と話したいのに何を話したらいいのかわからなくて、どうやって話に入ればいいのかわからなくて…いつも隅の方で輝いている皆を見ているばかり」
彼はそう言って恥ずかしそうに笑った。
「ぜ、全然そんな風に見えないです。なんていうか明るくて、友達が多そう。全然そんな風に見えないですよ」
私がそう言うと、彼は首を振って
「本当にそうなんですよ。でも…そう言ってもらえて、すごく嬉しいかも」
と言いながら、なぜか耳を真っ赤にさせた。
「はは、ダメだ、照れちゃいますね、恥ずかしい」
そう言いながら両手で口元を隠す彼を、なんだかかわいいと思った。どうしてか頭を撫でてあげたいような気持になった。
「ふふ」
そんな彼を見ていたらふと笑みがこぼれた。そしてそれと同時に、久しぶりに自分が笑ったことに気が付いた。
「…」
そのことを彼に言おうとしたが、初対面の人にこんなこと言うべきじゃないと頭の中で考えてやめた。
「…」
そしたら、何を話せばいいのかわからなくなった…。
一度、躊躇やブレーキをかけてしまうと、それ以降も躊躇やブレーキだらけになってしまう。これは言っていいのか?初対面の人にこんなこと言っていいのか?どこまで話せばいいのか?わからなくなる…。
名前は聞いていいと思う…でも年齢は失礼かな?いつから猫と話せるんだろう?子供の頃なのかな?でも…こんなこと聞いたら失礼なのかな?
「…」
でも彼は…自分の事を話してくれた。だったら私も、話すべきなのかな?(私も一人なんですよ。孤独なんです。はは。恋人も当たり前のようにいないし、勇逸の友達は猫のニャーさんです。ハハハハハ)
言えない…こんなこと言えない…初対面の人に、こんな恥ずかしいこと言えないよ…。
(だったら、仲良くなったら言えるの?)
私の頭の中で急に討論が開始された。