彼女はクロをめいいっぱい抱きしめて、涙を流していた
「…ぁ、あの、僕…ね、猫の言葉がわかるんです」
僕は今、どんな顔をしている…。大丈夫か?変な顔してないか?顔は赤くなってないか?
「ぇ…?」
彼女は明らかに困惑した表情を僕に向けた。
それはそうだ…急にこんなこと言ったら困惑されて、警戒されて当然だ。でも、他に何もいい方法が思い浮かばなかったから…。嘘ではあるけど、真実にとても近い嘘をつこうと僕は思った。それが僕の中で一番いい方法だと思ったから。
僕は普通の人を演じながら、大きく息を吸って彼女に話す。
「どうしてか…わかるんです。猫の言ってる言葉が。だから僕は、人間の友達よりも、猫の友達の方が多い」
「ふふ」
笑ってくれた…あなたが少しだけ安心してくれた、それだけで僕は涙が零れてしまうほど嬉しかった。
「僕が猫の言葉がちゃんとわかっているか、嘘じゃないってことを証明するよ」
まだ胸の鼓動が聞こえる、なんでため口になってるんだと頭が混乱している。僕は頭で落ち着けと何回も唱える。しかし鼓動はさっきよりもさらに大きく速くなっている。
「いつもこの公園でお話をした。あなたはいつも何かを言ってくれていた、今日起こったこと、昔の話、そして時には会社の愚痴を言って、その話をあなたを見上げながら(うん、うん)と聞いていた。あなたのお話はとても楽しかったと、こんなぼくに話してくれてとても嬉しかったと…彼、ニャーさんは言っていた」
「…ぇ…」
彼女は目と口をまん丸くさせて驚いた。その姿が愛しくて思わずまた、にやけそうになる。
「あなたが来るのを毎日待った、あなたのことが大好きだったから…。日が暮れて空が真っ暗になると、気持ちが弾んだ、もうすぐあなたに会えると気持ちが弾んだ。心臓がドキドキして、口角は上がりっぱなしだった」
「…」
彼女は少し赤い顔で、口元をクロの頭に隠しながら、肩まである綺麗な黒い髪をくしゃくしゃと触りだす。
「そんなある日、あなたは(私やっと会社を辞めれた!)と嬉しそうに言っていて、すごく嬉しそうなあなたを見てぼくも喜んだ。でも…それからどうしてか、あなたのことが心配になった。もともと心配してたけど、会社を辞めてからのあなたは、少しずつ少しずつ毎日傷付いていってるような、そんな気がした」
「…」
「あなたは不器用な人だから…どうすれば傷が治るのかも、どうすれば傷付かないですむのかも知らない。ぼくも不器用だから、あなたの傷の治し方もそれに対する対処法もわからない…だから一生懸命あなたの話を聞いた、そこになにかあなたを助けるヒントがあるかもしれないから」
「…」
「でも、見つけられなかった…。だからたくさん寄り添った。たくさんあなたに触れて、寄り添って、あなたにぼくの体温を感じてほしかった。あなたは一人ではないと教えたかったから…」
「…っ…ぅ…」
彼女はクロをめいいっぱい抱きしめて、涙を流していた。