ひゃん!
キャリーケースに、眉間にしわを寄せたクロを入れて、電車に乗って家に帰る。今日も公園を見つけられなかった…彼女を見つけられなかったと焦りを感じながら。
「もう、この電車とやらに乗ってる時間が日に日にどんどんどんどん長く感じるぞ…」
公園も最初は近場から探していたが、もう、電車を乗り換えてまで遠くを探している。最近ではこの途方もなさすぎる行動に僕たちは何とも言えない絶望感と不安感に襲われていた。
「クロ…」
僕は周りに人が少ないのを確認して、小声でクロに話しかける。
「本当に、あの公園に着いたらわかるのか?」
「いや、断言はできないが、わかると、思う」
「思う?」
「いや、お前…この話はもう昨日もしたし一昨日もしたしその前の日もその前の日もした。俺は最初から断言などしてない。あの公園も、死のうとしてて意識がもうろうとしていたから、はっきり言って全然覚えていない。でも、見ればきっと思い出す、その自信はある」
クロがキャリーバックの隙間から僕の目を見て言う。
「そうだよね…毎日ごめん…なんだか不安なんだよ。どこに行っても、あの公園はない気がして…物語でよく見る、別の世界の話でしたとかだったらどうしようとか、実はこの前のところがそうでしたとかだったら…、余計な事ばかりが頭をよぎる…」
僕はそう言いながら頭を抱え込む。
「森を抜けた先にある小さな公園。人は一人もいない静かな公園。そこはなぜか車の音も聞こえてこない。だけどどこか居心地がよくて心が癒される不思議な公園」
クロが優しく僕に言う。
「大丈夫、きっと見つかるさ」
「ありがとう…」
「じゃあ、帰りは猫缶買って帰ろうな」
「うん」
僕は自分の最寄り駅について、駅の近くのスーパーで猫缶を買う。そしてそれと同時にゾルゾルとキャリーケースが揺れる。
スーパーを出て少し歩くと車通りも人通りも少なくなる。
「クロ今日もありがとうね」
僕はそう言ってクロをキャリーケースから出す。
「ひゃん!」
クロはキャリーケースの中と外の温度差に、いつものように驚いた。
「う~寒い寒い…中は温かいが窮屈でイヤだし…外は解放されて気持ちいが寒くてイヤだし…」
「わがままだな」
「だったらお前がキャリーケースに入って一日行動しろ。そうすれば気持ちがわかる」
クロはそう言って「あ~寒い寒い」と体を震わせた。
僕は家に向かってただ歩く。クロに先導されながら。そして大きな、斜めの壁のような階段の前でお互い立ち止まる。
「でた…」
「最難関だ」
クロは息を大きく吸ってピョンピョンと階段を駆け上がっていく。
「早く来い!上れば意外と大したことないんだこいつ」
クロはいつもそう言うが、それはクロが猫だからだ。人間と猫の運動能力は全然違うのだ。僕は大きく息を吸い込んでどっしりどっしりと、しっかり手すりを握りながら階段を上がる。するとその瞬間、僕の斜め上のところでガサガサと植物が揺れ、綺麗で美しい灰色の毛並みの、エメラルドグリーンの目をした猫が出てきた。
「…」
私はメグっていうの?あなたは?
ぼくはクロだよ。
猫の姿をした人間のあなたも大嫌い!
んえ?
あんたはイノシシか何かなの?
クロ…あんたはバカなの?
はぃ…
クロ…大丈夫よ。マイナスに考えるんじゃなくてプラスに考えなさい。マイナスに考えたってなにも意味なんてないんだから
甘えられるときに…甘える相手がいるときに…たくさん甘えとかないと後悔いちゃうわよ
「メグ?」
「……………………クロ?」
僕は頷き「そうだよ」と言った。
「今は違うけどね…」