今度は僕は人間の姿で、彼女の話を聞く!僕も、この人間の姿で、彼女と知り合いになりたい!
今日も僕は歩く。
黒い猫を連れて歩く。
いろんな公園を手あたり次第見つけて入っていく。
「ここじゃない…」
僕らがお互いの体に戻ってからもう一カ月が経った。この一カ月僕は毎日母さんに電話して、そして毎日、あの公園を探していた。あの女性を探していた。あの公園で、きっとクロを待っている君を。
「ここも違うじゃねーか!」
クロがまた怒っている。
「違うね…」
僕は愕然とする。
「じゃあ、また、電車に乗るから…」
僕はクロの前でキャリーケースの扉を開ける。
「シュン…」
クロは絶望しながら黙ってキャリーケースの中へ入ろうとしたが、「やっぱり嫌だ」と素早くベンチの上に座った。僕もクロの横に座る。
「…」
彼女が待っているのは僕じゃない。彼女が待っているのは凄く可愛い黒猫のクロだ。僕があの公園に行っても意味がない。彼女が待っているのは僕ではないのだから…。
僕のこの行動は意味があるのかもわからない。もしあの公園を見つけたとして、彼女を見つけたとして、その後どうすればいいのか僕はわからない…クロを彼女に渡すのか?渡してどうなる?渡したら彼女は幸せになるのか?それでいいのか?それだけでいいのか?
「まったく…お前は何を考えている?」
クロが僕の不安そうな顔を見て、眉間にしわを寄せながら口を開いた。
「公園を見つけて、彼女に会って、挨拶して俺を渡す…それって意味があることなのか?第一俺は彼女を知らない。彼女の話を聞いていたのは俺の体かもしれないが、その時入っていたのはお前の魂だ」
「…」
「お前が彼女の話を聞いて、彼女といて凄く楽しかったとか、少し心配になったとか、彼女といて何を感じていたかはお前の感情だ、俺じゃない。俺を巻き込むなとは言わない、でも、この出来事の本質をしっかり見てくれとは言わせてもらう」
「…」
「彼女の話を聞いていたのは俺じゃない、お前だ!」
「…そうだね、その通りだ…。そしてクロ、今のクロの話を聞いてて、また少し何かを思い出した」
「…お、おう」
「彼女に惹かれて、彼女に声を掛けたのは、どうやら僕だ」
「お前…俺の体で…」
「メグに協力してもらって猫らしさ、猫の仕草を覚えた。彼女に気付いてもらうために、かまってもらうために、友達になる為に」
「メグ…」
「そうやって頑張って彼女と友達になれたのに、全部クロに持ってかれるのはよくないことだ…あんなに頑張ったんだから僕が腑に落ちない!僕は!今度は僕は人間の姿で、彼女の話を聞く!僕も、この人間の姿で、彼女と知り合いになりたい!」
人間同士で。