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きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
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一人でどうにかなると思ってた…。誰かに頼っても、どうせ助けてくれないと思ってた、助けられないと思ってた

 僕は今、きっと真っ赤な顔をしている。そして異様に鼻をすすっている。息を大きく吸うけど、吸う息が震えてるのがわかる。だとしたら、僕が声を発したらその声は震えちゃうなと、僕はよくわからない心配をした。


「ごめん…っ…ごめんなさい…ごめんなさい…」


 案の定声は震えていた、それが少し恥ずかしかった。でも、こんなにも頼れる家族を持ちながら、一人で全てを抱え込んでいた自分自身を凄く傲慢でとても、とても恥ずかしいと思った。


「一人で…一人でどうにかなると思ってた…。誰かに頼っても、どうせ助けてくれないと思ってた、助けられないと思ってた。話したところで解決できる問題じゃなかったから…。そうやって口をへの字にしていたら、誰も僕に寄ってこなかった…そして自分から話しに行く勇気もない僕は、話す引き出しも少ない僕は、話して場の空気が悪くなるのを恐れた僕は、一人になった。話さなくなると、皆の事を少し蔑むようになった。(なんてくだらないことを話しているんだ)(ここは稽古場だぞ)(真面目にやれ)一人を寂しく思う気持ちがいつの間にか(不安)になり、そうしてそれは(ストレスや苛立ち)に変わり、それを心の中で八つ当たりすることしかできなかった。皆と話していれば、皆をきちんと知っていれば理解していれば、ささいな会話を…日常の当たり前の会話に対してあんなに馬鹿みたいなこと思うことはなかったのに。一人は寂しくて不安だから苛立ってしまっていた。そしたらそんな負の感情は、当たり前のように皆に悟られて、ますます話にいけなくなった。歩み寄れなくなった。そしたらどんどん焦っちゃって、余裕がなくなっちゃって、自分の視野がどんどんどんどん狭くなって…僕は…大切な母さんと父さんも見えないほど…何も見えなくなって…僕の視野には(芝居)という文字だけしか見えなくなってた。今の現状に対しても、今までの事に対しても…(報われる)という事しか…考えられなくなっていた。そんなことを思いながらやる芝居は惨めだった。でも、誰にも相談しなかった。相談しても真実を言われる…僕はその真実が何かを知っている…そして、それが直せないから困っているんじゃないかと…きっと苛立ってしまう。だから一人で抱え込んだ。そしたら同じところを、同じ箱の中を永遠に考えることしかできなかった。箱の中にはもう何もなかった」


「……」


「誰かに相談していれば変われたのに、良くなれたのに、自分の傲慢さを惨めに、惨めに惨めに思う。自分は真面目だと、頭の中は芝居しかないと馬鹿のように言っていながら、僕は…僕はその芝居を…自分で、潰していたんだ」


「そんなことないわよ」


「いやそんなことあるんだって!だって僕は馬鹿だから!何の才能もないんだから!何もない人間だから!バイト先の店長に社員にならないかといわれて、面接を受けてテストを受けたら不採用だと通知が来て、受けるオーディション受けるオーディション全て落っこちた。そしたらもう受けてる最中に、これもう今回も落ちたなっていうのが、わかるようになってきた。そしたら何も受からない気になってきて……もぅ…すべてが嫌になって、嫌になって…死にたくなった」


「…」


「もぅなんだか、全ての事に力が入らなくなって、バイトを辞めた…劇団を辞めた、芝居を辞めた、そしたら…何もすることがなくなって、何にもない自分を目の当たりにして…寂しくなった。寂しくて寂しくて仕方がなくなった。母さんと父さんと話したくなった…でも、電話を掛ける勇気がなかった。電話をして何を話せばいいのか、今の現状は言うべきなのか、どこまで頼って良いのか、わからなくて、不安になって…頭が真っ白になって…人に頼ったことのない僕は、電話を床に下ろしてしまった」


「バカね…助けてあげたのに。頼ってくれれば、いくらでも助けてあげたのに…話を聞いてあげたのに」


「そうだよね…その通りだ…」


 僕はそう言いながら、どうしてか急に夜の公園と一人の女性が頭に浮かんだ。


「話せば楽になったのに…どうして僕はそれをしなかったんだろう…」


 月がきれいな夜…ベンチに座り、顔が暗くてよく見えないが、清潔で身なりの良い女性を、僕は見上げながら喋っている…。


「でも、もう大丈夫よ」


「え?どうして?」


「これからは大丈夫。だってあなたは、逃げ道を作れたんだから。一人で抱え込む必要がもうなくなったのよ。これからは何かあれば、いえ…何かあるたびに…何もなくても電話してきなさい」


「何もなくても?」


「電話をするのに理由なんていらないのよ。何かがなければ電話しちゃ駄目って思われても困るし…」


「わかった。何かがあっても、何もなくても電話するよ」


「うん、わかった。じゃあ、いつでも電話してね、電話待って…ぁ…そうよ、そうだあなた、きちんとカーテンを開けて、たまには窓も開けて換気しておきなさいね。昼間からカーテンなんてしてたって何にも意味ないのよ…おかげで凄い心配したんだから…」


 そう聞いてカーテンを見ると、確かにカーテンは閉まっていた。



「ぉ…母さんはエスパーなの?」


「ふふ、そうよ。あなたの事なら何でも知ってるんだから」


 そう言っている母さんはきっと、誇らしげな顔をしていた。


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