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きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
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今までこんなぼくに、寄り添ってくれて、ありがとう

「夢や希望を全て食べてしまったら、その缶詰を食べてしまったのなら…また、新しいものを食べればいい。また、新しい缶詰を見つけて、食べればいい…」

 

 ぼくはあの時、あなたにこれを伝えるために、なにかをした…うまく伝えることはできなかったけど…勘違いされて怒らせてしまったけど、必死で何かをした…。


「ぁ…」


 缶詰が入っていた袋を破いて、あなたの前に新しい缶詰を差し出したんだ…。


 あなたはぼくが、猫缶を食べたいから袋を破いて、あなたに開けてとせがんだのだと勘違いしてたけど…違ったんだよ。もっとわかりやすくやればよかったって、あの時は凄く後悔した…。


「まぁ…死にたいから別にいいんだけど」


 わかりやすくやれば……


 あなたに、わかりやすく、伝えるには…


「…」


 ぼくは下を見る。


 砂…


「ぁ…ぇ」


 そうだ…。


 そうだ!そうだよ!!


「…」


 ぼくは右手で地面に文字を書いた。


 ぼくは文字を覚えている!だったらあなたに伝えられる!あなたに(いきて)と伝えられる!


            い


            き


            て


 よし!


「ニァァ、ニァァ」


 あれ…なんだろう…急に体が…


 ドテ!


 その瞬間ぼくは地面に倒れていた。


「ニャーさん!大丈夫?ねえ!大丈夫?ニャーさん!ニャーさん!」


 気付くとあなたはぼくを抱いていて心配そうな顔をしている。


「ぼくは…あなたの方が…心配だよ…」


「大丈夫!ねえ!ニャーさん!苦しいなら鳴いちゃだめだよ!」


「生きて…お願い………」


 あぁだめだ…体が、きつい…なんでだろう…なんでこんな急に…もう、目を開けているのもつらい……


「ニャーさん!ヤだよ!お願い!死なないで!」


 あぁ…あなたの声が聞こえてくる。


「なんで!なんでよ!お願い!ヤダ!」


 「ありがとう」と言いたかったのに、もう、声が出なかった…ぼくは、もうこのまま、死んでしまうのだろうか?あなたに、大切な言葉も、想いも伝えられずに、死んでしまうのだろうか…


「…」


 「ありがとう」も「生きてほしい」とも「大好きだよ、愛してる」とも伝えられずに…ぼくは死んでしまうのだろうか。


「ヤダ!やめてって言ってるじゃない!なんで!なんでやめてくれないの!」


「…」


 ぼくはあなたを、助けることができただろうか?苦しんでいるあなたを、ほんの少しでも、癒すことはできただろうか?救いになれていただろうか?真っ暗な心に、少しでも明かりを灯すことはできただろうか?ぼくの温もりは、あなたに伝わっただろうか?あなたは一人じゃないと、あなたに伝わっていただろうか?


 言葉はあなたに届かなかったけれど…ぼくがあなたを大好きだというこの大切な気持ちは、あなたに届いていただろうか?


「毎日きみに会う時間だけが楽しい時間だった!かけがえのない時間だった!幸せを感じる時間だった!」


 ぁ…


「ニャーさん私!知ってると思うけどきみが好き!大好き!世界の誰よりも大好き!一番好き!愛してる!きみに会えてよかった!」


 つぅ


 どんなに体が辛くても、死にそうな時でも、涙は出るんだと思った。溢れて止まらなくなるんだと思った。


「きみは知らなかったと思うけど!私はきみに救われてたんだよ!死にたいと思うといつもきみが頭をよぎった。そして、きみがいるからまだ生きようって!なってたんだよ!」


 どうやらぼくは、心配なんてしなくても、あなたを救えていたようだ…


「夢には毎日きみが出てきた!友達もいない、好きなこともない、真っ黒で何もない私の夢の中を、暗くて未来が見えない私の夢の中を!きみは楽しく彩ってくれた!ありがとう!ニャーさん!今まで……」


 今までこんなぼくに、寄り添ってくれて、ありがとう…


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