あなたが死にたいと、消えたいと泣きながら言っていても、ぼくはただ、見ていることしかできなくて…
「何者にも見向きもされないものは誰にも手を差し出されず、誰からも注目される人間にだけ、手が差し出される現実。選ばれるものと選ばれないもの。選ばれるものは昔から決まっている。だいたいこの人選ばれるだろうなっていう人が選ばれる。そしてそういう人間が成功する。選ばれないものもそう。選ばれないだろうなって思ったらやっぱり選ばれなくて、他の人間にもなぜか下に見られて、そしてやっぱり成功しない」
「…」
なぜだろう…さっきから、どうしてか、心が弾む。ぼくの、あの、真っ暗な部屋に、あなたもいたんだと、心が弾む。同じようなことを考えている人間がいたんだと、心が弾む。一人じゃなかったんだと心が弾む。
「むかつく!そんな世の中大嫌い!こんな世界大嫌い!」
はは…ぼくもそうだったよ、そう思ってた。
「どうあらがっても、どうすることもできなくて!泣いたって!喚いたって!誰も助けてくれなくて…死んでもきっと、腐るまで誰も気付いてくれなくて…お葬式も、誰も来てくれなくて…」
そんなことないよ
「何のために生まれてきたのかわからなくて…もう、いっそ消えたいって思う」
そんな、だめだよ…
「だって消えたら、死んだ後の面倒事も、両親を悲しませることも、私の変わり果てた死体も見られることもないんだから…だったらシュッて消えて、元からなかったことになりたいなって、思う…」
それ、昔ぼくも考えていた…
「だめだよ…そんなの」
「…」
彼女は一瞬躊躇した。それでも抑えられないように、溜まっていた想いを吐き出した。
「私、子供のころからずっと死にたいって思ってた。自分を隠す自分が嫌いで、偽って良い部分しか見せようとしない自分が嫌いで、こんな私死んじゃえって、消えてなくなっちゃえって、ずっと思ってた」
彼女は苦しみながら喋っている。本当は言いたくない気持ちを、言葉にして出したくない気持ちを、無理に言葉に出している。言葉にしたらそれが(確信)へと変わってしまうから、うすぼんやりとした気持ちではなくなってしまうから…
「周りより劣っている自分を隠そうとして、選ばれない自分に(しょうがない)って言い訳して、周りの悪い事は、自分ではないからと見ないふりばかりをした。そんな自分がいやで嫌でイヤで、消したかった、消えたかった、死にたかった」
「くそ…」
ぼくはずっと思っていた…。
傷付いているあなたにいくら声を掛けても、いくら励ましても届かない。なんでぼくは猫なんだろう…。もとは人間だったのに、人間の言葉もわかるのに、この言葉は人間には「にゃー」としか聞こえない。「そんなことないよ」「大丈夫だよ」「元気出して」とあなたに言っても、あなたはいつも優しく微笑んでぼくを撫でるだけ。
あなたが苦しんでいても、何もすることができなくて…
あなたが泣いていても、何もすることができなくて…
あなたが死にたいと、消えたいと泣きながら言っていても、ぼくはただ、見ていることしかできなくて…
「だったらぼくは、なんでここにいるんだ]