表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
141/184

あなたが死にたいと、消えたいと泣きながら言っていても、ぼくはただ、見ていることしかできなくて…

「何者にも見向きもされないものは誰にも手を差し出されず、誰からも注目される人間にだけ、手が差し出される現実。選ばれるものと選ばれないもの。選ばれるものは昔から決まっている。だいたいこの人選ばれるだろうなっていう人が選ばれる。そしてそういう人間が成功する。選ばれないものもそう。選ばれないだろうなって思ったらやっぱり選ばれなくて、他の人間にもなぜか下に見られて、そしてやっぱり成功しない」


「…」


 なぜだろう…さっきから、どうしてか、心が弾む。ぼくの、あの、真っ暗な部屋に、あなたもいたんだと、心が弾む。同じようなことを考えている人間がいたんだと、心が弾む。一人じゃなかったんだと心が弾む。


「むかつく!そんな世の中大嫌い!こんな世界大嫌い!」


 はは…ぼくもそうだったよ、そう思ってた。


「どうあらがっても、どうすることもできなくて!泣いたって!喚いたって!誰も助けてくれなくて…死んでもきっと、腐るまで誰も気付いてくれなくて…お葬式も、誰も来てくれなくて…」


 そんなことないよ


「何のために生まれてきたのかわからなくて…もう、いっそ消えたいって思う」


 そんな、だめだよ…


「だって消えたら、死んだ後の面倒事も、両親を悲しませることも、私の変わり果てた死体も見られることもないんだから…だったらシュッて消えて、元からなかったことになりたいなって、思う…」


 それ、昔ぼくも考えていた…


「だめだよ…そんなの」


「…」


 彼女は一瞬躊躇した。それでも抑えられないように、溜まっていた想いを吐き出した。


「私、子供のころからずっと死にたいって思ってた。自分を隠す自分が嫌いで、偽って良い部分しか見せようとしない自分が嫌いで、こんな私死んじゃえって、消えてなくなっちゃえって、ずっと思ってた」


 彼女は苦しみながら喋っている。本当は言いたくない気持ちを、言葉にして出したくない気持ちを、無理に言葉に出している。言葉にしたらそれが(確信)へと変わってしまうから、うすぼんやりとした気持ちではなくなってしまうから…


「周りより劣っている自分を隠そうとして、選ばれない自分に(しょうがない)って言い訳して、周りの悪い事は、自分ではないからと見ないふりばかりをした。そんな自分がいやで嫌でイヤで、消したかった、消えたかった、死にたかった」


「くそ…」


 ぼくはずっと思っていた…。


 傷付いているあなたにいくら声を掛けても、いくら励ましても届かない。なんでぼくは猫なんだろう…。もとは人間だったのに、人間の言葉もわかるのに、この言葉は人間には「にゃー」としか聞こえない。「そんなことないよ」「大丈夫だよ」「元気出して」とあなたに言っても、あなたはいつも優しく微笑んでぼくを撫でるだけ。


 あなたが苦しんでいても、何もすることができなくて…


 あなたが泣いていても、何もすることができなくて…


 あなたが死にたいと、消えたいと泣きながら言っていても、ぼくはただ、見ていることしかできなくて…


「だったらぼくは、なんでここにいるんだ]


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ