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きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
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もともとなにも持たない人間は、個性が弱い人間は、人に認められることのない不器用な人間は、なにをやってもうまくいかない

 それからあなたは話し続けた。今まで思っていたこと、不安や不満でパンパンになった心の重荷を、少しずつ吐き出すように喋り続けた。


「ねぇ、ニャーさん。私、きみが人間ならよかったって、いつも思うんだよ。きみが人間だったら…最高だなって。この公園で、猫も、猫もいいけど、猫もすんごくいいけど…たまには、人間と喋りたい…喋った後に、(そうだね)って言葉が欲しいときもある…」


 ぼくは視線を逸らす。本音はいつでも怖いものだ、恐ろしいものだ。触れてほしくない的をしっかり射貫いてしまうから…。


「ふふ、ごめんね、いいんだよ気にしなくて、だって私、きみと話してるときが一番楽しいんだもん」


そう言ってあなたはかがんで、ぼくの顔を両手で優しく掴む。


「でも…たまに寂しくなる。もう私に構ってくれる人間はいないんだと思うと、泣きたくなる、死にたくなる。胸のあたりがキュって苦しくなって、気が狂いそうになる。世の中に、こういう(孤独)という名の苦しみはたぶん、山のようにあると思う。溢れるほどあると思う。でも、テレビを見ても雑誌を見ても、本を読んでも…こんな物語はどこにもなくて、映し出されるのは才色兼備、容姿端麗な人気者たちばかりで、雑誌を見ても選ばれた人しか出てなくて、成功した話しか載ってなくて、本を読んでも…現実とはどこかかけ離れた物語ばかりが目についてしまう。それは当たり前の事なんだけど、物語っていうのはそういうものなんだけど…だけど、そうなんだけど(置いていくな!!)って思う!孤独な人間を、夢破れた人間を、選ばれなかった人間を、皆は見ないふりをしている。絶対にそう!そこにスポットを当ててもつまらないし、終わりが見えない、そんなことはわかってる!でも!でもさあ!そんな人間はどうしたらいいの?なににしがみ付けばいいの?何を見ればいいの?」


「…」


 努力をしても…努力に努力を重ねても…何も手に入れることができなかった…。もともとなにも持たない人間は、個性が弱い人間は、人に認められることのない不器用な人間は、なにをやってもうまくいかない。きぼうがないからきぼうをつくって、くらやみはいやだからとひかりをともした。それでもたにんは、そんなきぼうをも、ひかりをも、みとめることなくけしていく。じゃあすきなものなどみつけなければよかったと、きぼうなどみなければよかったと、ひかりなどともさなければよかったと、ふてくされながらそいつをやめる。そしてきぼうもひかりもなくなった、なにもないまっくろなじぶんにもどっていく。そしてなにもないまっくらなへやで…きがつくとまた、そいつのれんしゅうをしている…もう、どこにもひろうしないのに、できないのに…またれんしゅうをしている…それが、みじめで、みじめでみじめで…また、きぼうをみてしまうじぶんがみじめで、あきらめきれずにいるじぶんがみじめで…でも…またちょうせんしても、みとめられるほどのさいのうなんてなくて、じつりょくなんてなくて、ひとをみりょうできるようなものもなくて…こびをうるさいのうもなくて、あいきょうなんてなくて、すべてにぶきようで…ぶきようなさいのうはたくさんもっているのにと…じぶんでじぶんをはなでわらう。まっくろなじぶんをはなでわらう。まっくらなへやをはなでわらう。そいつのれんしゅうをしているときだけひかりがともるこのへやをはなでわらう。はっきょうしそうになりながらそれらをおさえてはなでわらう。


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