あなたも、皆も、それに気付いてないだけで…それが幸せなんだ。普通であることも、幸せなんだ!
「ごめんね…っつ、ニャーさんごめんね…」
彼女が泣きながらぼくに謝っている。
「…」
ぼくがどうしてあなたに惹かれたのか、なんだか少しわかった気がした。
ぼくたちは似た者同士なんだ…
「ぼくも…ぼくもそうだったよ、死にたかった。死にたくて死にたくて仕方なかった。だから気持ちが痛いほどわかる…痛いほどわかるけど…死んじゃだめだ!なにもない…この世は何もないって、つまらないって思っているかもしれない、辛く寂しい場所だと思っているかもしれない…でもそんなことない!そんなことないんだ!ぼくは…ぼくは、メグとあなたに会って、一人じゃないって思えた。ずっと…ずっと一人だったけど、猫になって、メグに会って、あなたに会った…。あなたに会って心を躍らせ、あなたに近づいた。そしたらあなたと友達になれて、ぼくは、天にも昇るほど嬉しくて、そして幸せだった。ぼくは生まれて初めて飛び跳ねるほど喜んだ。そして生まれて初めて、幸せを実感した。そしたら…そしたら、いろんなことが幸せに思えてきた。メグがぼくに会いに来てくれること、あなたがこんなぼくに、毎日会いに来てくれること。メグと他愛もない会話をすること。あなたの楽しい話を聞くこと、あなたに撫でられること、あなたに抱かれているとき、見つめられているとき、優しい笑顔を見せてくれた時…あなたがくれたご飯を食べているとき、空が晴れているとき、暖かいとき、涼しいとき、暑いとき、寒いとき…幸せはいついかなる時でも存在して、目で見えているのに、感じているのに、それが普通になると、人はそれを感じなくなる。見えなくなる。…すると人は、不幸なことばかりが目に付くようになる。悲しくなって寂しくなって、自分の視野をもっともっと狭めてしまう。自分の事、自分の事ばかりになってしまう。転ぶことを不幸に思うよりも、元気に歩いていることに幸せを感じるべきだし、つまらない事なんて考えてないで、朝が来て、昼が来て、夜が過ぎていくことに、生きていることに幸せを実感するべきだ。嫌なことは、嫌なことはこの世にたくさんある。死ぬほどある!生きるということは嫌なことだらけだ!…でも、でもね(小さな幸せ)も負けないくらいたくさんある、たくさんあるんだよ。生きている、歩いている、元気でいる、目をつぶれば思い出すような嫌なトラウマもない、深く暗い後悔もない…焼き肉が食べたいと思ったら食べに行けて、デザートが食べたいと思ったら買えばいい。自転車に乗れて、電車に乗れて、車に乗れて、飛行機に乗れて、どこにでも行くことができる。本を読んで感激して、漫画を読んで心躍らせて、映画を見て涙を流す。テレビを見てお腹を抱えて笑って、ドラマに見入って、嫌なニュースを見て心を痛める。寝る前に歯を磨いて、自分のベッドがあって、枕があって、そして気持ちよく眠りにつく。あなたも、皆も、それに気付いてないだけで…それが幸せなんだ。普通であることも、幸せなんだ!」
そう言って彼女を見ると、彼女は「かわいい」と言ってぼくを撫でた。ぼくはその時絶望を感じた。