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きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
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この時間を至福の時と言わずしていつ言うか

 ぼくは、毎日少しずつ弱っていくあなたを心配していた。あなたは気づいていないけど、毎日少しずつ痩せていき、最近ではクマも少し濃くなってきた。


 あなたは気付いてないかもしれないけど、ぼくはあなたが心配だ。心配で心配でたまらない。


 あなたのことが好きだから。好きで好きでたまらないから。


           

 その日は不思議な夜だった。


 今日の彼女はどこかに行ったのか、不思議なにおいを漂わせ、おしゃれな服を着て、メイクもしていた。


 そんな彼女の姿が、かわいくて、愛しくて、たまらなかった。


 彼女がぼくに猫缶をくれた。


 ぼくはそれをガツガツ食べた。


 そんなぼくを彼女は優しい瞳で見つめている。


「…」


 クワン!


 ぼくが食べ終わって「ごちそうさま」と彼女に言うと、彼女はなぜかまた猫缶を開けてくれた。


 ぼくは途中でお腹がいっぱいになり、少し残した。


 そしていつものようにあなたの膝に乗る。


「美味しかった?残った奴はまた後で食べてね」


 彼女はそう言いながらぼくの頭を撫でる。


「…」


 この時間を至福の時と言わずしていつ言うか、と思うほどの最高の時間をぼくは送っていた。


 ここまではいつものような時間が流れていた。毎日ぼくたちがこの公園で過ごす幸福な時間。でも…今日はどこか違っていた。


「今日ね、久しぶりにショッピングに行ってきたの。凄く、物凄く大きなショッピングモールでね、なんでもあるの!凄く楽しかった…すごくすごく、たのしかった…」


 あなたがいつものように、ぼくに話しかけてくれる。ぼくはあなたの話を聞くのが大好きだ。


「いっぱい、すごくいっぱい、人がいて、みんなだれかときてて、幸せそうで、楽しそうで、笑ってて…わたしは、それをただながめてた。ポツンとひとりぼっちのわたしは、後悔しながら、ただながめてた」


 え?


 ぼくが彼女の顔を見ると、彼女はボーっと斜め前の地面を見ながら少しうつろな表情をしながら話していた…。


「人間関係をおろそかにしてきた自分を、責めつづけた。孤独になって、何もなくなって、寂しくなった。寂しくなって、このままじゃいけないと思って、どうにかしなきゃと思った。でも…どうすることもできなかった。私にはいざという時に連絡する相手も、遊びに誘えるような友達も…いなかった。連絡帳には、何人もいるのに、LINEにも、何人もいるのに…誘おうとすると、よくわからなくなる」


 彼女は泣きそうな表情で、言葉を紡ぎだしている。普段は絶対に言わないような言葉を、自分の奥深くに隠していたであろう言葉を。


「この人に連絡して、変に思われたらどうしよう、この人とどこかに行っても、私の話力で盛り上げることはできないんじゃないか、会って気まずくなったらどうしよう、っ、会って…今度は、会ってくれなかったらどうしよう、この人といてもつまらないとか思われたらどうしよう。団体でも、私だけ話の輪に入れなかったらどうしよう、後ろを幽霊のようについていくだけになったらどうしよう、トイレに行って帰ってきたとき(つかあいつ、なんで来たの?)とか言われてたらどうしよう…どうしようが連鎖して、なんにもできなくなる…。バカなのはわかってる、こんなこと起こらないとも思う…けど、起こりそうだとも思ってしまう自分もいる」


「…」


 彼女の心の痛みがどうしてかひしひしと伝わってきて、心が苦しくなる。あなたはいつもそんなことを考えていたんだね…そう思うと同時に、苦しんでいるあなたに、泣いているあなたに、何もできないでいる自分を憎く思う。


「あなたは一人じゃないよ…」


 そう言っても、彼女には「ニャー」としか聞こえない…泣いているあなたを優しく抱き寄せて、「ぼくがいるじゃないか」と頭を撫でることもできない。それはぼくが猫だから…そんな無力な自分を殺したくなる。


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