この世に生まれてくるということは、皆が皆、幸せになる為に生まれてきたのだ。この世を、この地球を、楽しむために生まれてきたのだ
それから数時間、わたしたちは喋り続けた。
今まで彼が体験したこと、リスの話、蛇の話、キツネの話、アライグマの話、そして不幸にばかり見舞われる女性の話。そのかたに貴君と言ったらすごい形相で怒られて、失禁した話。そして彼が守護霊になり、愛した女の子の話。
彼はとても楽しそうに、そして時には怒りながら、ときには涙を流しながら話し続けた。わたしは今まで聞いたことのないような彼の話に、胸は高鳴り、目を見開き、彼の一言一句を聞き逃さないように彼の言葉の一つ一つに耳を傾けた。
「そこで私は思ったのである。誰かが虐げられなければいけないのか?誰かが強いものに食われなければいけないのか?誰かが痛い思いをし、誰かが優越感にひたり誰かが劣等感に蔑まれながら生きていかなければいけないのか?強いものは全てを持ち、弱いものは何も持ってはいけないのか?いやそんなことはない!この世に生まれるということは、嫌な目にあうために、痛い目に合うために生まれてきたのではない。誰かに食べられるために生まれてきたのではない。誰かに殴られるために生まれてきたのではない。そんなくだらない事のために生まれてきたのではない。この世に生まれてくるということは、皆が皆、幸せになる為に生まれてきたのだ。この世を、この地球を、楽しむために生まれてきたのだ。他の生き物たちと仲良くなるために生まれてきたのだ。誰かを愛して、子供ができ、家族になり、笑って楽しく生きるために生まれたのだ」
この地球に生まれてくる者たちは皆…天国から地獄に堕とされた者たちなのではないかと、わたしは思っていた。でも、もしかすると、その解釈は少し間違っていたのかもしれない。
「この世に不幸など必要ない、皆が幸せでなにが悪い。私は思う!皆が幸せであるべきだ!」
わたしはその時、一筋の温かいものが頬を伝って零れ落ちた。そしてそれと同時に視界が潤んで歪んで見え、温かいものがポロポロとたくさん零れていった。
「…」
わたしは涙を流していた。
あれ、おかしいな、いつも流していた涙は冷たいはずなのに、今日の涙は温かい…。
いつも涙を流しているときは、心が苦しくキュッと縮こまっていたのに、今日は心も、そして体も、温かい…。
どうしてだろう?
どうして今わたしは、笑って泣いているのだろう?
涙というものは、笑っていても…嬉しい時でも、でるものだったのか…。
「はは…」
幸せだ。