(ぬ?ぬぅ)と答えてくれた。凄く嬉しい!
急に後ろから声がしたので振り向いてみると、そこにはよくわからないものがいた。
全身が透明で、でもなぜか見えていて、顔もあって体もあって、でも、顔のパーツは見つからなくて、体は人間のような形をしている。そして、この、透明さはなんだろう…水、水のような…シャボン玉のような…動けばわかるし、いるのもわかる。
「え?誰ですか?」
わたしは勇気を振り絞って話しかけた。というよりも前にいつ話しかけたか覚えていないので、とてつもなく久しぶりに話しかけた。
「ぬ?ぬぅ」
おぉ…答えてくれた。自分の言葉に反応してくれた。(ぬ?ぬぅ)と答えてくれた。凄く嬉しい!
「だ、誰と言われても、自分自身、自分が誰なのか何者なのかわからないのである」
「ほ…ほほう、ほう、ほ、ほう」
ぬ、ぬぅ以外の言葉もきちんと返してくれた!ドキドキが止まらない!テンションは上がりっぱなし!
「貴君は、自分がなんなのかわかるのか?」
こちらに質問してくれた!
「き、貴君とは、わた、わたくしのことで、ございましょうか?へ?」
しまった!興奮しすぎて、変な感じに…
「う、うぬう…そ、そうであるが…ま、またぁ、君も怒るのかね?貴君と言われて怒るのかね?」
彼はめちゃくちゃ怯えていた。怯えながらなぜか股をくねらせていた。
「え?いや、怒るだなんてそんな、わたしが貴君と言われたのが初めてだったもので」
「貴君と言われたものは皆怒る。貴君と言うといつも怒られる。貴君と言って怒らなかったのは、蛇の死体だけであった。…でもしょうがないではないか!なんとなく先に出てきてしまうのだから、君、という前に、貴君と言ってしまうのだから、貴君というワードを気に入ってしまっているのだからしょうがないではないか!」
得体のしれないものがなぜか怒っている。わたしは、初めての経験づくしで、頭はワタワタ、体はオドオド、心はバクバクしてしまっていた。
「君…貴君と言ってしまってすまない貴君」
そして誠心誠意謝ってきた。わたしはオドオドしながら
「ぃ、いぇ、そんな…貴君なんて言っていただけて、うれしいんです。嬉しいんですよわたしは。だってまるできっくんみたいではないですか」
「「「…」」」
わたしは何を言っているのだろう…。