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きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
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嫌なことのあとに、良いことがあるなんて大きな、とても大きな間違いであったと、この時ついに確信へと変わった

数年後、男の子は中学生になった。そこでも、やっぱり、うまくいくことができなかった。というよりもうまくやる前に、同じ学校だった人間どもにあることないこと吹きこまれていた。暇という時間を有効活用するように人間は、その暇な時間を醜きことで埋めていく。醜い笑みを浮かべながら。


それから数年後、男の子は密かに夢を見つけた。それはおぼろげではあったが、テレビに出る人になりたかった。男の子は無理とはわかっていながらも、自分に対する他の人間からの拍手や歓声を夢描いた。そのために芝居というものをたくさん見て、そして練習した。自分の部屋で誰にもばれないように、密かに一生懸命練習した。何年も何年も練習した。


高校を卒業するまで、男の子に嫌なことはたくさん起きた。どうして自分ばかりと恨んだが、(嫌なことのあとには良いことがある)という言葉を何度もお経のように繰り返し、なんとか…本当にどうにか乗り越えた。


男の子は自分の夢をかなえるために、俳優の専門学校へ行った。


そして卒業と同時に、劇団に入った。


劇団の稽古場でも家でもたくさん練習した。勉強は10分もできなかったが、芝居の練習、勉強はずっとできた。楽しかったからずっとできた。


オーディションもたくさん受けた。でも何も受からなかった。合格の通知、連絡が来ないたびに(嫌なことのあとには良いことがある)という希望にしがみ付いた。


今まで良いことなんて何もなかった!


だったら今後待っているのは良い事だろう!


数年後、男はもう28歳になっていた。


男はもう夢を諦めた。


男は何年もアルバイトをしていた所で、社員にならないかと言われ、そこの本社に紹介されて面接と苦手な勉強のSPIというテストを受けた。そして数日が経ち店長から「不合格だった…」と申し訳なさそうな顔で言われた。


嫌なことがあったんだ…たくさんたくさん嫌なことがあったんだ…


男はここ数年、密かに執筆していた本を完成させた。その本のメッセージは(この世に嫌なことなんて必要ない、皆が幸せであるべきだ)というものだった。この本を書き終えたとき、男は(これほどいい小説はもう二度と書けない)と思った。それくらい良い出来だった。


その小説を、応募してみようと出した結果、その小説は一時審査を通ることもなかった。


「は?」


嫌なことのあとに、良いことがあるなんて大きな、とても大きな間違いであったと、この時ついに確信へと変わった。


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