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きみが待ってる公園で  作者: 柿の種
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覚えていてもしょうがない事ばかりが、覚えていたら傷付いてしまうようなことばかりが起こるから、忘れることにした

あるところに、男の子がいた。


その男の子は人間がつくりだした世界に、うまくなじむことができなかった。まぁ、わかりやすく言うと、人間同士ができて良しとするもの、勉強、運動、そして人間同士の付き合い、それらが上手でない男の子がいた。


その男の子は家では、どうしてこんなこともできないのかと怒られ、学校ではうまくできないさまを笑われ、皆に見下された。その男の子は自分の家にも学校にも居場所がなかった。


その男の子は自分の部屋で何度も泣いたが、何も改善することはなかった。泣いて、寝て、起きて、学校へ行く、学校ではいつものように嫌な目に会い、暗い気持ちで家に帰る、「勉強は?宿題はどうしたの?」「いつやるの?」「ねえいつ終わるの?」「ねえあなた、そんな問題で何分掛かってんの?」「…ねえ、ちょっと待って!あんた昨日やったとこやってみなさい!」「ねえ!昨日教えたよね!」「どうしてあんなに教えたところができてないの?」「ねえ!私がどんだけ一生懸命教えたかわかる?どんな気持ちで教えたかわかる?」「全部あなたのためにやってるの!」「朝、あなたのために朝早く起きて、あなたのために朝ごはんを作って、あなたが学校に行くのを見守って、それからあなたたちのために掃除して、洗濯物を乾かして、洗濯物をたたんで……………………」、そして男の子は今日も部屋にこもって泣く、そして寝て、起きて、学校へ行く…。


数年後、いくら泣いても何も変わらないとわかった男の子は、泣くのをやめた。


泣くのをやめる。これは強くなったのではなく、諦めたのだ。泣いても助けなど来ないし、起きる出来事は嫌なことばかり…泣くのをやめた男の子は数カ月後、いつの間にかもう泣くことができなくなっていた。


男の子の目は涙を失くし乾燥した、それでも嫌な事ばかり起こる。見下されて、物を失くされ、棘のある言葉ばかりを投げつけられる。男の子がどこかにいくとそこの空気がおかしくなった、なにもしていないのに、周りが過剰に反応して面白くもないことをしだす。


男の子はその時から(忘れること)に専念するようになった。今日起こった嫌なことを忘れ、棘のある言葉を忘れ、その時感じた暗く、二度と味わいたくない気持ちを忘れ、親に言われたよくわからない言葉も忘れた。


忘れなければやっていけなかった。


覚えていてもしょうがない事ばかりが、覚えていたら傷付いてしまうようなことばかりが起こるから、忘れることにした。すべてを忘れて、次の日もすべてを忘れて、その次の日もすべてを忘れた。

男の子の茶色く綺麗だった瞳はどんどん光を失くし、真黒く濁っていった。


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