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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
9/35

8月3日

 午前10時30分くらいの出来事だ。

 また明日、などと約束をしてしまった俺は、いつもの公園のベンチに座り込んでいた。

 とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。


「おはようございます、お兄さん」

「おう、おはよーさん」


 いつも通りの時間に少女ちゃんも現れた。

 今日の少女ちゃんの格好は柄付きの白いTシャツにジーンズの短パンをはいて麦わら帽子。

 ボーイッシュと言えばそんな感じだが、これなら帽子をつば付きのやつにした方があっているような気もする。

 とりあえずは可愛いから何の問題もないが。


「約束通り来てくれてありがとうございます」

「暇だったしな」

「お兄さん、割と休みいっぱいあるんですしもう少し趣味とか増やしたらどうですか?」

「この暑い中わざわざ公園まで出てくるよりはそっちの方が有意義かもなあ」

「やっぱりお兄さんは趣味を増やす必要なんかこれっぽっちもありません!」

「はっはっは」

「……むぅ、お兄さんは意地悪です」

「ん、なんだって?」

「なんでもないです」


 からかうのはこれくらいにしておこう。


「ところでお兄さん、暇ですか?」

「暇っちゃあ暇だな」

「そっかー、僕もいつも通り暇だから少しお話ししてよ」

「こんなおじさんと話なんかして楽しいか?」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「話すったって話題が無いだろ」

「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」

「そんな話俺は出来んぞ」

「ははは、僕もだよ」

「だったら意味ないじゃないか」

「ならさ、宝くじで3億円当たったらどうするかって話をしようよ」

「3億か」

「貯金する、とかはつまんないから無しね」

「なら俺は遊園地を作るかな」

「3億で足りるの?」

「おぅ、なんとなく思ってた突っ込みと違うぜ」

「?」

「まぁ、軽い冗談だ」

「冗談なんですか」

「あぁ、本の軽い冗談だ。本当はあれだな。現実的にありえないからよく想像がつかん」

「ありえないとは限んないじゃないですか」

「ありえないありえない。だって机をたたいた時にその机を手がすり抜ける確率だぞ?」

「毎年何人かはすり抜けてることになるじゃないですか」

「きっと手を粒子に分解する術を持ってる超能力者がいるんだよ」

「むぅ……、なんかひねくれすぎててつまんないです。確かお兄さんパチンコやるって言ってましたよね」

「ああ」

「パチンコで十万勝ったとしたらどうしますか」

「一気に現実味を帯びたというか、金額がちゃっちくなったな」

「これならお兄さんも文句は無いでしょ」

「そうだなー。想像できないこともないな」


 ふっふーんと胸を張る少女ちゃん。

 可愛――なんか最近これしか言ってない気がする。

 やばいな。


「十万か、どうするかな」

「最新のゲーム機を買うとかどうですか?」

「ゲーム機買っても最近やる気力がわかないんだよな」

「なら遊園地行くとかどうですか?」

「少女ちゃん行きたいの?」

「行きたいか行きたくないかで行ったら正直行きたいです」

「夏休みだし誰か誘っていけばいいだろ」

「……お兄さんはあれですね、学ばないというか」

「いや、俺の中では少女ちゃんには友達がいる設定だからな」

「設定とは何ですか設定とは! 一応ちゃんといます!」

「スマホに夢中とからしいが今ならあるアプリの影響でそこらじゅうを歩き回ってるんじゃないか? 特に中学生なんかは」

「うっ」


 何も言えずにこちらを恨みったらしい目で見ている。

 今にも『お兄さんは意地悪です』とかいいそう。


「……お兄さんは意地悪です」

「ぶっ」

「なんで笑うんですか!?」

「いやいや、俺にも少女ちゃんの事がなんとなくだがわかってきたからさ」

「なっ、僕が読みやすい性格をしているとでもいうんですか!?」

「それはどうだろうな」

「失礼です」

「まあまあ。もし十万勝ったら連れて行ってやるから機嫌なおせよ」

「言質取りましたよ。絶対連れて行ってくださいね」

「勝ったらの話だろ」

「ええ、勝ったらの話です! 十万もあれば遊園地内にある高いお店でお昼とかも奢ってくれますよね」

「それくらいなら任せとけ」

「移動手段はどうします?」

「俺のアメリカンの後ろでよければ乗せていってやるよ」

「アメリカンてバイクですか?」

「あぁ、学生の時に趣味で取った。通勤に使えないこともないけど電車の方が楽でな」

「バイクでお兄さんと二人乗り……いいですね、楽しそうです」

「400……中型のアメリカンだから二人乗りも割としやすい方だと思うぞ」

「十万買ったらとか関係なしに今度乗せてほしいです!」

「ん、機会があったらな」

「約束ですよ!」

「機会があったらな」

「楽しみにしてます。ところでお兄さんは絶叫系とかは大丈夫ですか」

「あー、もちろん全然だめだ」

「そうですか、それはよかっ――駄目なんですか!?」

「おう」

「え、バイク乗り回してるんじゃないですか!? それなのに絶叫系駄目なんですか!?」

「それとこれとは話が全然違うぞ」

「な、ならお兄さんお化け屋敷とかはどうなんですか?」

「あー、少女ちゃんが抱きつかれてもいいんだったら問題ないぞ」

「それはそれでばっちこいなんですけどもしかして遊園地嫌いですか?」


 何がばっちこいなのかは流しておこう。

 遊園地か……。

 多分無理すればジェットコースター、バイキングと何でも乗れるとは思う。

 連続でさえなければ。


「お兄さん、まさか高いところがだめだから観覧車も駄目とか言いませんよね」

「観覧車なら問題なく乗れるけど少女ちゃんはこんなおじさんと二人きりの密室に入りたいか?」

「それは……いや、お兄さんはまだおじさんて年齢じゃないでしょ」

「おーう、うまく流したな」

「にゃがしてなんかいませんよ。あ、高いところが大丈夫なら空中ブランコとかどうですか?」

「それなら大丈夫かもな」

「コーヒーカップとかは?」

「少女ちゃんが半端ない速度で回さない限りは大丈夫かと」

「……お兄さん、なんか全体的にヘタレですね」

「おじさん、歳だから。年は取りたくないもんだ」

「だからお兄さん、まだそんな歳じゃないでしょ」

「それがそうでもないんだよなぁ」

「そういえばお兄さんの正式な年齢とか聞いてませんでしたけど本当は何歳なんですか?」

「俺は実は24だぞ。そういう少女ちゃんは?」

「僕は14です」

「綺麗に十歳差か。よく本当に話ができるな」

「それは僕が精神年齢高いってことかもしれませんね」

「それはどうだろうか」

「ならお兄さんの精神年齢が低すぎるってことなんじゃ……」

「少女ちゃんはきっとすごい大人びているんだろうな」

「……うわぁ」


 テノヒラクルーはおじさん得意技の一つでもある。

 生きていく上での大事な技術だ。


「よし、話を戻そうぜ」

「……」

「十万買ったときに俺が連れて行ってあげれる遊園地はプール付きの温泉もある遊園地のつもりなんだがプールの方はどうする?」

「プールですか……むむむ」

「なんか不都合でもあるのか?」

「いや、折角あいまいにしている僕の性別が完全にばれちゃうじゃないですか」

「何言ってんの?」

「いや、だからわざわざあいまいにしている――」

「それはちょっと無理がある」

「むぅ……お兄さんなんか温泉に入る時にびっくりすればいいんです」

「びっくりしないと思うけどなぁ。混浴でもない限りはな」

「そんなに僕と入りたいんですか? 別に混浴じゃなくても一緒に入れる可能性はあるかもしれませんよ」

「少女ちゃんは……いやなんでもないわ」

「なんですか、言いかけてやめるなんて気持ち悪いじゃないすか、」

「あー、おじさんが言ったらセクハラになりそうだから言えないんだよなあ」


 俺が少女ちゃんのある部分を見つめていると少女ちゃんもその視線を追うように胸の辺りへと視線を落とす。

 すぐさま意味が理解できたのか真っ赤になってこっちを睨み付けてきた。


「お兄さんのエッチ、変態!」

「いやいや、俺は何も言ってないぞ」


 夏のこの時期、こっちの地方は湿気も多く汗をよくかき、白いTシャツでは……その、透けたりしてしまう。

 少女ちゃんのブ……何かがくっきり出てしまっている。

 いや、ただでさえ声質や三つ編みにできそうな少し長めの髪やもろもろで女の子以外の選択肢はゼロに近いのだけれども。

 これで男の娘だったら割と大したもんだと思う。

 実際はいるかもしれないが俺はあったことないしとりあえず自分の考えを信じる。


「お兄さん、聞いてますか!?」

「聞いてる聞いてる。少女ちゃんは女の子なんだろ」

「やっぱり聞いてないじゃないですか! そんなこと一言も言ってないです」

「そうだっけ」

「そうです」

「細かいことは気にしないで行こうぜ」

「僕の性別細かいことなんですか!?」

「少女ちゃんが少年君だったとしても俺は対して不都合が無いからな」

「……その扱いはちょっと嫌です」

「むしろ少年君の方が俺的には捕まる可能性が減って嬉しいかも」

「もう、普通に僕は女です! もうネタバレですけどいいです! ちゃんと女の子として扱ってくれていいですよ!」


 少女ちゃん(仮)が少女ちゃん(断定)になった。


「……そろそろ時間なので僕、帰りますね」

「気を付けて帰れよー」

「えぇ、今日も楽しかったです。また明日」

「また明日」


 また明日もこの場所で会うことをちゃっかり約束しつつ少女ちゃんと別れた。

 パチンコの話してたら久しぶりに少しやってみたくなったな。

 今日は休みで時間もあるし行ってみるか。

 でるとは思えんけど。


















 蛇足かもしれないが、なぜかわからんけれども奇跡が起きたのか最初の500円でかかって本当に十万勝っちまった。

 まさか5回転以内にきてあんなに大連荘するとは思ってなかった。

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