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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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8月2日

 午前10時30分くらいの出来事だ。

 いつも通り、仕事につかれた俺は、帰り道、公園のベンチで座り込んでいた。

 とても暑いこの時間帯だが、ベンチは木陰となっており少しばかり快適である。


「お兄さん、おはようございます」

「あぁ、少女ちゃんはいつも元気で羨ましい限りだ」

「いえいえ、朝一番だけですよ」

「朝一番って言うには少し遅いけどな。少女ちゃんは朝方なのか」

「んー、そうですね。朝の方が調子がいいです」

「夜型の俺にはわからん感覚だ」


 若いって良いなぁ。

 俺が中学生の頃はどんな生活をしていたっけ?

 あの頃から徹夜ばっかしてたっけな。

 深夜アニメをリアルタイムで見たりしていた気もする。

 

「ところでお兄さん、暇ですか?」

「暇っちゃあ暇だな」

「そっかー、僕もいつも通り暇だから少しお話ししてよ」

「こんなおじさんと話なんかして楽しいか?」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「話すったって話題が無いだろ」

「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」

「そんな話俺は出来んぞ」

「ははは、僕もだよ」

「だったら意味ないじゃないか」

「ならさ、明日もし世界が終わるとしたらどうするかを話そうよ」

「世界が終わるか。隕石でも降ってくるのか?」

「そうだね、核戦争とか勃発しっちゃった的な?」

「あとアンゴルモア的なものも考えられるか」

「あんごるもあ? 何ですかそれ?」

「……カルチャーギャップ」


 そうかー、今の若い子はノストラダムスしらないかー。

 兄弟でも3歳違えば話が通じなくなるとかいうしなー。

 俺と少女ちゃん10歳差なんて今までまともに話せてた方が奇跡、か……。

 おじさん、泣けてくるぜ。


「ノストラダムスは置いておこう。世界が終わるとしたらだったけ」

「はい。とりあえずお兄さんが最初に行った隕石が降ってくるって事にしておきましょうか」

「オーケー、隕石な」

「隕石って砕けないんですかね?」

「砕いたところで木っ端みじんになったのが至る所に飛んでくるから危険ってことでいいじゃねぇか」

「そうですね。お兄さんは最後の日、何をしますか?」

「俺は、そうだな、リンゴの木を植えるかな」

「リンゴの木? ルターですか、渋いですね」

「おっ、少女ちゃん、アンゴルモアわかんないのにルターはわかるのか」

「明言ですし。とある本にも出てきましたし」

「もしかして感○列島か?」

「そうです、お兄さんも呼んだことあるんですか?」

「中学生だったか高校の時に流行ってたしな」

「この名言の意味は、明日の事より今日やるべきことをしっかりやろうであってますか?」

「多分あってると思う」

「お兄さん、明日滅びるとしても変わらずに今と同じ事をやるんですか?」

「そうだな、さっきの話じゃないけどさ、俺等の世代はノストラダムスの世界は終わるって予言を超えて今を生きてるからな。もしあれを信じて明日世界が終わるからって自暴自棄に犯罪にでも走ってたら大変なことになっていただろう。だから100%終わる瞬間まで俺は日常を選び抜くよ」

「かっこいいですね」

「仮定の話で今でこそ口ではこんなこと言ってるけど、多分実際にそんな場面に出くわしたらはっちゃけると思う」

「色々だいなしです」

「ははは。そういう少女ちゃんはどうなんだ?」

「僕はですね、もしも明日世界が終わるとしたら、好きな人に愛を告げます」

「おっ、なかなかロマンチストな回答だ」

「えへへ」


 何か茶化そうかと思ったが純粋な笑顔を前に何も言えない。

 可愛い。


「愛を告げた後はどうするんだ?」

「ふぇ?」

「だから、愛を告げて成功するなりなんなりした後の時間をどう過ごすかって話」

「えーっと……告白が成功したらですね……」


 ぱちくりとしているさまから察するに告白するまでしか考えてなかったようだ。

 愛を告げます、キリッがやりたかっただけかもしれない。


「恋人とキスしたり腕の中で最期を迎えるなりなんなりあるだろ?」

「キス……」


 たかだかキス程度の事を考えただけで真っ赤になるあたり初心すぎるな。

 

「少女ちゃんは初心だなぁ」

「と、年相応です」

「それはそうか」

「と、兎に角、僕は愛を告げて――」

「終幕までいちゃいちゃするのか」

「い、いちゃいちゃはしませ――いや、しないかはわかんないかもです」

「幸せな終わり方の一つかもしれないな」

「お、お兄さんは告白されたらどうしますか?」

「俺か。俺は普通に相手にもよるだろうけど多分受け入れるんじゃないかなぁ」

「……流石たらしですね」

「おいおい。最後に一人よりはなんとなく誰かと過ごしてた方がいいだろ」

「しんみり終わるのは嫌いですか?」

「それはそれで嫌いじゃない。なら少女ちゃんは最後の時、今みたいに俺と話しながら最期を迎えるのと一人でしんみり迎えるのはどっちがいい?」

「……その聞き方は卑怯だと思います……。そりゃこうしてた方が僕は良いに決まってるじゃないですか」


 決まっているのか。

 嬉しいこと言ってくれるね。

 

「俺も今は親しい女性とかいないし、最後に知らない人から告白されてその人と終えるよりは可愛い少女ちゃんとこうして話していた方が楽しいだろうな」

「っ! たらしスキルと言いますかなんと言いますか、物凄いえぐい角度で時折どぎつい一撃を放ってきますよね、お兄さん」

「ん? 何の事だ?」

「わからないなら、なんでもないですっ!」

「そうかい」

「あ、リンゴの木を植えるお兄さんが僕とのお話を最後に選んでくれるってことは、このお話はお兄さんにとって日常の一部になってるってことでいいですか? いいんですよね」

「んー、ご想像にお任せする」

「ずるいです。でも僕の考えが答えでいいってことはそういうことですね」

「どういうことだよ」 

「そういうことなんです」


 少女ちゃんと話していると時間が過ぎるのが早く感じるような気がする。

 ってことはまぁ、そういうことなんだろうな。

 決して明言はしたくはないがそういうことだ。

 時間がきたのか立ち上がった少女ちゃんにお別れを言う。


「じゃあ、お兄さん、また明日」

「おーう。一気に攻めてきたな」

「攻めてないよ、いつも通りです」

「そうかい、なら『また明日』な」

「っはい」


 少女ちゃんは嬉しそうに帰っていく。

 



 













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