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僕とお兄さんのひと夏の思い出  作者: 宙兵&桔梗
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8月1日

 今日も今日とて、仕事帰りではないが、いつもの時間帯にいつもの公園へ向かう。

 約束しているわけではないが何とか会えそうな気がする。


「あ、お兄さん。やっぱり会えましたね」


 向こうも同じなのか俺を見つけ次第手を振ってきた。


「なんとなく足が向いてな」

「えへへ、僕もですよ。あ、これ、ありがとうございました」


 少女ちゃんは昨日かしたハンカチを手渡してきた。

 

「確かに返してもらった」

「昨日はアイスご馳走様でした。お兄さんは周期的に来るものだと思ってましたがもしかして用事が無くなって毎日が暇なあれになったりとかしたんですか?」

「バカいえ。そんなことはない。今までも来ようと思えばこれただけで仕事はちゃんと続いてるわ」

「なら暇じゃないんですか?」

「……いや、夕方から用事があるだけで別に今からしばらくは暇な時間だな」

「それは好都合です。ならいつも通りお話ししましょう」

「こんなおじさんなんかと話して楽しいか?」

「まだおじさんって歳でもないでしょ」

「話すったって話題が無いだろ」

「なんでもいいよー。せいじの話とかでもいいよ」

「そんな話俺は出来んぞ」

「ははは、僕もだよ」

「だったら意味ないじゃないか」

「ならさ、空耳の話をしましょう」

「空耳?」

「はい、空耳です。例えばどっかの国の指導者がおっぱいぶるんぶるんとしか聞こえないあの空耳です」

「なぜその例えを用いたのかなかなかに不思議だな」

「すいません、ついこの前見た動画が頭に強くこびりついてるのです」

「閣下が頭から離れないのか、ご愁傷さまだな」

「この際閣下の事はどうでもいいです。空耳の話をしましょう。お兄さんは何かありますか?」

「空耳か……空耳ね……」


 無いこともないが未成年ちゃんに行っていい内容かだいぶ悩むようなもんばっかある。

 あたりさわりの無いような内容を言っておくか。


「お兄さん、できればネット検索して簡単に出てくるようなものとは違うようなお兄さんの体験談でお願いします」

「それ言われると選択肢が狭くなるな。じゃあちょっと空耳とは違うけどそれっぽい話をしよう」

「楽しみです」

「あれは専門時代の話だ。テスト直前の事なんだがな、ある友人Aが隣で唐突に『あぁ、コじゃなくてエか』とか言い始めたんだ」

「確かに手書きで下手な字だと見間違えちゃうことがあるかもしれませんね」

「俺は何をいきなりと思ったが頭に詰め込む作業につかれちまって休憩がてらに聞いたんだ。そしたらな『眠かったのか書いてある字がなかなかに酷くてエリスロポエチンがエリスロポコチンにしか見えなくてなんだこれってしばらく考えてた』だってよ」

「……」

「ポコチンに頭に詰め込んでいたもの全部持っていかれたよ」

「……うわぁ」

「そこからしばらくポコチンポコチン騒いでいてな。友人Bが『おまえらチンポコチンポコうるさいよ!』とかさらに追撃仕掛けてきて大爆笑」

「えっと……中学生の時の話ですか?」

「19だったんだが今考えるとなんであんなんで大爆笑できたんだろうな。よっぽどテストに疲れていたのかもしれない。女の子がいる前にもかかわらずポコチンポコチン騒いでいたからな」

「今も同じような状況ですよ。堂々セクハラかましていることに気が付いていますか?」

「この程度じゃセクハラにはならんだろ」

「前後の文章がおかしいと僕は感じます。……ちなみにテスト自体はどうだったんですか?」

「エリスロポコチン以外の単語とか全部飛んじまったからボロボロでまた来年受けることになった」

「最低な話ですね」

「ほんとにな。でも今考えればエリスロポエチンは絶対に忘れないようになったし結果オーライと言えるかもしれない」

「それで結局、なんとかポコチンてなんですか?」

「エリスロポエチンな。腎臓で作られる造血ホルモンの事だ。血を作るのに大切で透析とかに使われるからその程度で覚えておけばいつか役立つかもしれないぞ。この事件のせいで、沢山調べて記憶に定着してるから、概要だけじゃなくて、いろいろ語ろうと思えば語れるぞ」

「僕も帰ったら少し調べてみますね」

「ま、普通に生きてる分にはほとんど関係ないけどな」

「知識は財産です」


 えっへんと胸を張る少女ちゃん。

 可愛い。


「で俺の話は終わりだ。ほとんど空耳って趣旨の話じゃなかったが許してくれ」

「一発目からなかなか変わり玉が来て少し驚きましたよ。面白かったからいいですけど」

「じゃあ少女ちゃんはなにか空耳の話があるのか?」

「僕は読書とか好きなので休み時間とか本の虫になってる方が良かったりして話自体をすることが少なかったからほとんどないです」

「友達がいないのか」

「だからいます! 読書が好きなだけなんです!」

「おお、悪かったな」

「全然悪いとか思ってなさそうな顔していますよ……」


 言い訳臭さやしどろもどろな感じが友達がいなさそうってところを強調していることを俺は少女ちゃんには告げられなかった。

 大丈夫、俺の中ではちゃんと少女ちゃんは友達がいる設定である。


「……」

「どうした」

「……もういいです。僕も空耳の話思い出したので話します」

「おう、楽しみだ」

「妙にハードルが高いのが嫌ですけど離しますね。えっとですね、物凄い暑い日の事です」

「ほうほう」

「死にそうな位暑い中友達が太陽の方を見上げてこう言ったんです。『涼しいな』と。正直気が狂ったのかと思いました」

「あれか、暑い時に涼しいと思い込めば涼しいとかそんな感じのあれか」

「いえ、違ったんです。友達的には『眩しいな』って言ったつもりらしいんです」

「あぁー」

「その場にいた涼しいなと言った友達とは別の友達も僕と同じで涼しいなって聞こえたみたいでびっくりしてました」

「そらびっくりするわな」

「えぇ、びっくりしました」

「……」

「……」

「……終わりか」

「もおっ! だからそんなに期待しないでほしかったんです!」

「いやいや、十分に面白かったぞ」

「お世辞は結構です! どうせ僕はポコチンほど秀逸なネタは持ってません!」

「ポコチンもそこまで秀逸なネタでもないぞ。まぁ、もう一個だけなら中学生に話すにはちょっとしんどいけどなかなか面白い空耳の話あるぞ」

「……下ネタですか?」

「あぁ、酷いまでの下ネタだ」

「聞かせてください」

「セクハラとか変なこと言うなよ。あれも専門生時代の話だ。どっかにみんなで遊びに行こうかって話をしていた時の話だ」

「旅行ですか……。楽しそうですね」

「そこに食いつくか。あんま遠出とかはしないのか」

「そうですね、あまりしません」

「……そうか。まぁ、その時の話なんだがどこへ何日の日程かで話していたんだ。その途中で中高とかの修学旅行は何泊何日かとか言う話になった」

「二泊三日とかですか」

「そうそう。とある私立出身のやつが俺は六泊七日だって言ったんだが、俺が聞き間違えて『おっぱぶ七日!?』とか口走っちまったんだ」

「おっぱぶ?」

「知らないなら知らないままの君でいてくれ」

「ネットサーフィンをそこそこたしなむ僕の実力を甘く見ないでください」

「なら知ってるのか?」

「……知りませんけど」

「絶対に検索するなよ」

「エッチなことなんですか?」

「ガキがいくところじゃないのは確かだな」

「へぇ……」


 少女ちゃんは何かを見透かすような瞳でこちらを見ている。

 これは後で絶対検索するやつだ。

 ま、おっぱぶ位なら検索してもそこまでやばいものは引っかからないだろう。

 中学生に卑猥な言葉をささやいた24歳男性を逮捕、とか言うことだけは勘弁だ。

 

「絶対に検索するんじゃないぞ」

「大事なことだから二回言ったんですか?」

「そうだ、大事なことだから二回言ったんだ」

「わかりました。覚えてなかったら検索しません」

「それならい――ん?」

「大事なことなんですよね、覚えてたらしっかり調べておきますよ」

「よく意味が分からんな」

「知的好奇心は大切ってことです」

「……そうか。好奇心は猫(初心な君)をも殺すという諺があってだな」

「変なルビですね」

「間違っちゃない」

「大丈夫です、僕初心じゃありませんから。それにその諺、元は『心配は猫を殺す』と言うものが変化したものですよ」

「なんだと」

「欧米のどっかの国の言い回しが時代とともに変化したものだったと思いますよ。絶対とは言えませんけど」

「よく知ってたな」

「知識は財産です。元の意味は心配しすぎるのはよくないとか、身の毒だとかいうものだったと思います。だからこの場合は心配しすぎてるお兄さんが殺されちゃうのです」

「それはなんか違くないか」

「多分あってます」

「えぇー……」

「だから僕は堂々検索するのです」

「……さいですか」


 ぼくの勝ちですとばかりに胸を張る少女ちゃん。

 俺はこれ以上なんも言うことなく諦めた。


「そろそろ、時間です。お兄さん今日もありがとうございました」

「あぁ、気を付けて帰れよ」

「ではまた」

「おーう」


 












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