独丸
独丸は激怒した。かの邪智暴虐の代官をのぞかねばならぬと決意した。
独丸は、村の保安官である。きょう未明独丸は村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此この栄殿の市にやって来た。独丸には父も、母も無い。女房も無い。女形の、内気なからくりと二人暮しだ。このからくりを連れ、この町の代官を倒すためにに、はるばるここにやって来たのだ。
歩いているうちに独丸は町の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきな独丸も、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。独丸は両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「お代官様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「お代官様は悪心にとらわれて居ります。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは我々の議長様を殺しました。それから賢臣の徳重様を。それで、乱がおきてから、逆らうもの全てを。」
「おどろいた。」
「野心がお強いのです。このごろは、少しでもお上と違ったことをいうものがあれば牢屋に連れていかれます。また、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、独丸は激怒した。「呆れた奴だ。生かして置けぬ。」
独丸はその夜、屋敷の門のそばで過ごした。
「独丸様、本当にこんな格好で行くんですか!?」
からくり姫子は独丸の用意した悩殺衣装が気に食わないらしい。
「しっ!静かにしろ。前からその予定だっただろうが。」
「でもしかし、実物を目にするとなると……」
「いいから早く着ろ!朝になる!」
姫子はしぶしぶ着替え始めた。
「よし。」
これで一安心。
「そこの者。何をしている。」
ではなかった。
「いやあ、この辺でね、うまい茶屋があると聞いたんですが…」
「そんなものこんなところにあるはずなかろう。ん?そこに隠れているのは誰だ!」
「いや、これは知り合いでですね」
「その背負っているものの中には何が入っている!」
「まさか貴様、よからぬことを企てているのではないだろうな!」
3人の門番から滝のように浴びせられる質問に独丸はまあまあとしか言えなくなっていた。
その時
「着替えましたよぉ」
姫子がか細い声でやってきた。
「き、貴様、なんちゅう不埒な格好だ!ひっとらえろ!」
独丸は叫んだ。
「行くぞ!撤退だ!」
姫子も叫んだ。
「この格好でですかーー!」
姫子の背からは羽が展開され、独丸が背負っていたジェットパックから火が噴きだした。
しかし、姫子の腕はすでに門番にとらえられてしまっていた。
「くそっ!」
すぐさま手に火光銃を放つ独丸。
「やられてるぞ!しっかりしろ!」
「撃ち落とせ!」
「全然効きませ……」
門番たちや騒ぎを聞きつけてやってきた侍たちが火光銃を撃ってくるが当たる前に球はある点で消えてしまう。その間にも侍たちはバタバタと撃たれていく。
「光鎧が起動されてる。撃っても無駄だ」
「くそ、こっちもやられた!」
「飛車を出せ!飛車だ!」
「助けてください~」
町中にサイレンが鳴り響く。
「姫子!あれを渡せ!」
「あ!そうですね!」
姫子の頭が開き、その中から銃が発射された。その大きな銃はきれいな放物線を描いて独丸がキャッチした。
「これで終わりだ」
それは機関式銃だった。独丸が引き金を引くと今まで以上にバタバタと人が倒れていった。そして瞬く間に姫子は解放された。
「いくぞ!」
その時、ドン!という音が鳴った。
「なんだ」
なにかとてつもないものが独丸のジェットパックに当たったようだった。ジェットパックは制御を失い、墜落していく。後ろを見ると、撃ったのは16、7歳の男のようだった。独丸はその男に見覚えがあった。
その日の夕刻、独丸は処刑台に引き出された。幸い、命は助かったようだった。
「ここで何をするつもりであったか。言え。」代官は静かに問いつめた。
「町を悪代官の手から救うのだ。」と独丸は悪びれずに答えた。
「おまえがか?」代官は、憫笑した。
「わしは平和を望んでいるのだが」
代官はいやらしそうに微笑んだ。
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどは独丸が嘲笑した。「罪の無い人を殺して、力で押さえつけて、何が平和だ。」
「だまれ、下賤の者。」代官は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな強がりでも言える。いまに磔はりつけになってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」
「ああ、自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬ覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」
「ただ?」
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までにあと半日を与えて下さい。必ず、ここへ帰って来ます。」
「貴様!」と処刑官が怒鳴った。「嘘を言うな!」
「はやく斬ってしまいましょう。」
「いや」代官が言った。
「どこへ行くつもりだ。」
「羅罵」
「ほう、なぜそんなところへ?」
「友人に貸しがある。」
「そうか。いいだろう。」
「代官様!」
「はははははは。それで?戻ってこなかったときはどうする?」
「古くからの友人がいます。彼を絞め殺してやってください。」
1人の男を指さした。
「この計画は彼とともに進めてきました。調べればわかると思いますが、私のジェットパックは彼のものです。」
「なにをふざけたことを!それならば2人まとめて殺すまで!」
「待つんだ!」代官が言った。「よかろう。もしお前が帰って来なければ奴を見せしめに殺してやろう」
「なぜです!代官様!」
「ははは。こいつは帰って来ない。つまりこいつは平気で仲間を売る裏切り者として語り継がれるだろう。それに羅罵は最近調子乗っておってな。滅ぼしてくれるなら別に構わんよ。」
日は暮れようとしていた。




