表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書館の恋  作者: S.AKI
番外編
7/7

Happy Birthday (後)

 S駅前噴水広場。

 私たちが恋人になった場所で、今日も私はケンくんを待っている。

 手にはプレゼントを持ちながら。

「アキさん、こんにちは」

 そう言って現れた私の彼は、相変わらず真面目な笑顔で、端から見ると仏頂面に見えなくもない。

 だけど、それが実は心からの笑顔だということを知っている私は少し得した気分だ。

「こんにちは、ケンくん」

「早いですね、アキさん。もしかして待たせちゃいました?」

 現在時刻は11時50分。待ち合わせは12時。私は11時半からここに居たりする。

「う~ん、私が着いたのは20分くらい前かな。そんなに待っていないよ」

 正直にそんなふうに言うと、

「そこは嘘でも『今来たところだよ』って言うとこじゃないんですか?」

 と言われた。

「ケンくんはそういう彼女がお好みなの?」

 だから、わざとらしくそんなふうに切り返すと、

「……好きなのはアキさんだけですよ」

 なんて顔を赤くして言うもんだから、私まで赤面して思わず俯いてしまった。

「い、行きましょう!」

 恥ずかしさを誤魔化すかのように言い放つと、ケンくんは私の手をとって歩き出した。

 引っ張られるように歩きながら、やっぱりかわいいなぁ、なんてこっそり思ったりして、心の中で私は微笑んでいた。

 

 

「なんだか雰囲気の良いお店ですね」

「事前調査の賜物だね!」

 あらかじめ予約しておいた店へと移動して、まずは昼食を食べることにする。

 大通りからは少しはずれた坂の上にあるお店で、近くまでいかないとそこが喫茶店だということがわからないぐらいに主張の乏しい外装。それに反して、内装は気配りが行き届いており、レンガ造りの壁に丸テーブルがいくつか配置されて、店内の照明は薄明かり程度で非常に落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「メニューをどうぞ。本日はこちらのパスタランチがお勧めですよ」

 まだ若い、綺麗なウェイトレスのお姉さんが微笑みながら接客をしてくれる。

 ちょっと大人な感じのする店で、少しだけ入るのに勇気がいったけども、店員さんはとてもフレンドリーで、私たちみたいな一般学生でも特に気負うことなく入れるのだ。

 ……実は以前、さくらとよっちゃんと三人で来たことがあるから知ってたんだけどね。

 それにしても、今のお姉さん、綺麗だったなぁ……

「アキさん、どうしたんですか?」

「ん、いや。今の人、綺麗だったなぁ、って」

「……はぁ、相変わらずアキさんはアキさんですねぇ」

 やれやれ、と言わんばかりに首を振るケンくん。

 そんな変なこと言っただろうか……?

「なんかおかしかった?」

「いえ、アキさんってお姉さんタイプの人、好きですよね。いずみ先生然り」

「……そうかも」

「まぁいいです。別に男に見惚れてたわけじゃないので」

 少し苦笑しながら、メニューを開くケンくん。

 もしかして、ちょっと妬いてくれてたのかな?

「ふふ……」

 そう思うと嬉しくて、思わず顔が崩れてしまったので、それを隠すように私もメニューを見始めた。

 注文を済ませ、他愛もない会話……と言っても、相変わらず最近読んだ本の話だったりするのだけれど、そうやっているうちにランチが運ばれてくる。

 ちょっと上品な気分を味わいながら、デート気分を満喫。

 メニューのひとつひとつに感嘆の声を上げたりはしないけど、普通に「おいしいね」と言い合いながら順調に消化していく。

「ふぅ。ごちそうさま。おいしかった」

「うん、ごちそうさま」

 ケンくんと私、ほぼ同時に食べ終えて、ポットから注がれた紅茶を一口。

 漂ってくるダージリンの香りが、なんとも言えず心地よい。

「さて、そろそろいいかな……」

 そう呟いて、私は持ってきた袋から厳重にガードされた箱を取り出す。

 中に入っているのは、昨日作ったケーキだ。

「ケンくん、はい」

「ケーキ……とかですか?」

「うん、当たり。誕生日おめでとうね」

 両手を添えて、しっかりと差し出す。その手を重ねるようにして、ケンくんが受け取る。

「ありがとうございます……けど、さすがにここじゃ開けれないですね……」

 嬉しそうに受け取ってくれて、残念そうに頬をかく。

 だがしかし。

「ふっふっふ。そこらへんもばっちりだよ!」

 わざとらしく親指を立ててケンくんへと突き出したりなんかしながら。

「お店の人に話はしてあるの。だから、ここで開けて食べても大丈夫だよ。そこらへんも抜かりないんだからね!」

「そこまで用意してるとは思いませんでした……ありがとうございます」

 照れながら笑顔を向けてくれる。う、やばい、かわいい……

「じゃ、開けますね」

 大事なものを扱うかのように、包みを解いていく。うまく解けなくて、途中でビリッと包装紙の破れる音がしたりもしたけど、中身に影響がないなら特に問題はない。

 最後の包装を取り、蓋を開ける。

 そうやってゆっくりと昨日作ったあのケーキが姿を現してくる。イチゴでハートマークが描かれて、白いケーキ。

 ケンくんの表情が喜色に染まる。

「はっぴーばーすでぃ、ケンくん」

 それに合わせて、ケーキに載ったプレートの言葉をそのまま口にする私。少し得意げに。

「手作りなんだよ? どう?」

「……嬉しいです」

 言葉のテンションはそれほど高くないけれど、目を細めて、本当に嬉しそうに笑う。

 そのまましばらく、呆然とケーキを見つめるケンくん。いくら手作りとは言え、そこまで見つめられると、なんだか恥ずかしくなってくる。

「失礼します。こちらをお使いください」

 ナイスなタイミングでケーキ用のお皿と切り分けナイフを持ってくるウェイトレスのお姉さん。軽く頭を下げると、とても暖かい目で笑ってくれた。微笑ましいカップルだと思われてるんだろうなぁ、と思うと余計に恥ずかしくなったりもした。

「ほら、ケンくん。ざくっと切っちゃって。食べて食べて」

「あ、はい」

 いつまでも見つめられているのもこそばゆいので、持ってきてもらったナイフをケンくんに渡す。受け取ったケンくんは、慎重に慎重に、これでもかと言うくらい慎重に、ナイフを入れていく。

 小さなホールサイズのケーキなので、半分にしてちょうど良いくらい。半円だとケーキの形としてはあまり綺麗ではないけど、そんなことをわざわざ気にするような私たちではない。

「じゃ、いただきますね」

 切り分けたケーキを前に、礼儀正しく手を合わせるケンくん。

 フォークで切ってその欠片を口へと持っていく。私は少し緊張しながら、その様子をじっと見つめている。

「……! おいしいですね。これ、アキさんが一人で作ったんですか?」

 感嘆の声と共に、ひどく失礼な一言が飛んでくる。

「って、どういう意味かな?」

「あ、っと、口がすべりました。普段お菓子作りとかしないアキさんが、こんなにうまくケーキ作れるのかなぁ、と思ったりして……」

「はは、言うようになったねぇ、ケンくんも」

 呆れたように言いつつ、おそらく私の目は笑っている。

「正解正解、確かに私一人じゃないね。さくらに手伝ってもらったんだよ」

「あぁ、なるほど。さくら先輩なら、こういうの上手そうですよね」

「うん、実際すごく上手だったよ。でも……」

 少しテーブルに乗り出して、顔を近づけて口を尖らせる。

「メインで作ったのは、私なんだからね? さくらにはやり方を教わっただけだよ」

 わざとらしく拗ねたふりをしてみる。

「わかってますよ。俺の好きな人は、こんな大事なことを人に任せてしまうようなことをする人じゃありませんから」

「……!」

 どうしてこの子は、こんなセリフをいきなり言えてしまうのだろう。

 思わぬカウンターを受けて、私の顔は真っ赤だ。

 ……ついでに言うと、そんなセリフを吐いたケンくんも真っ赤だ。

「……いちいち恥ずかしくなるなら、そんなセリフ言わなきゃいいのに……」

「すみません……でも、思ったことは本当ですよ」

「はぁ……でも、ありがと」

「いえいえ、こちらこそ、本当に嬉しいです。ありがとうございます」

 そう言って、どんどんケーキを口に運んで、あっという間に一切れ食べてしまう。

 その食べっぷりを見ると、作った甲斐があるものだ。私が作った、っていう事実が、ほんの少しでも味を向上させるスパイスになってくれてれば嬉しい。

「全部食べちゃう?」

 あまりにおいしそうに食べてくれたものだからそう問うと、ケンくんは静に首を振って、愛おしそうにケーキを見つめる。

「いえ、せっかくだから残りは家に帰ってから味わいます。初めてのアキさんの手作りだから、やっぱりゆっくり噛み締めたいじゃないですか」

「……そんな大袈裟なもんじゃないよ。まったく」

 嬉しさを隠すように呆れたふりをする私。

 そんな私を横目に、ケンくんは残ったケーキを箱に戻し、丁寧にしまっていく。

 それを見つめながら、私は自分のカバンの中からもうひとつのプレゼントを取り出した。

「ケンくん」

「はい?」

「実は、もうひとつプレゼントあるんだ」

 言いながら、可愛いリボンでラッピングされた小さな袋をケンくんへと差し出す。

「これは……?」

 何だろう? と呟きながら受け取った彼は、ケーキの時のようにじっと見つめる。

「開けていいですか?」

「もちろん」

 いちいち確認しなくても良いのにな、なんて思いながら、リボンを解いていくケンくんをドキドキしながら見つめる。

 そうして、小さな袋の中から出てきたのは……

「栞、ですか」

 そう。栞。

 お手製ではないけども、昨日の夜に街を駆け回って探したもの。

 紺色の和紙に一輪の桔梗の花が彩られた美しい栞。たったそれだけのシンプルだけど、非常に落ち着いたデザインの物。

 昨日立ち寄った雑貨屋さんで見た瞬間に「これだっ!」って思った。

 物静かで、それでいてしっかり者なケンくんに似合う色と、そこに描かれた桔梗は誠実を表す花で、本当に彼に合っていて。

 何より、いつも使ってもらって、そのたびに私のことを思ってくれるとうれしいな、なんて考えたりもして。

「綺麗ですね」

「私からケンくんへのプレゼントとして、ぴったりでしょう?」

「……はい!」

 満面の笑みで頷くケンくん。

「アキさん、花言葉知ってて桔梗の柄にしたんですか?」

 そして、赤くなりながらそんなことを言う。

「え?」

 もちろん私は知っている。

「花言葉は『誠実』でしょ?」

「あ、はい。でも、それ以外にもあるんですよ」

「え、そうなの?」

「……はい」

 それは知らなかった。確かに花言葉っていくつも持つものが多い。

 それにしても、私の反応に少し残念そうなのは何故だろう?

 しかし、そんなふうに言われると気になるのは当然のことで。

「教えて欲しいなぁ」

 私がそういうと、最近頻繁に見せるようになってきた、少しだけ拗ねた顔をする。

「じゃぁ言いますよ」

 やれやれと言わんばかりの態度で。

 なんだか呆れられてるような声で。

「桔梗の花言葉は『変わらぬ愛』です。確かアキさんが以前読んだ本にも出てきてたはずですよ?」

「へぇ、そうなんだ……すっかり忘れちゃってたよ。『変わらぬ愛』かぁ……えっ!?」

 変わらぬ愛!?

「そんなにびっくりすることですか?」

「い、いや、ちょっと思ったよりもストレートな花言葉だなぁ、って」

「……嫌ですか?」

 あぁ、もう! なんでそこでおねだりするような目で私を見るの、ケンくん!

 まったく、本当に愛しいんだから、この彼氏は……

「嫌なわけないじゃない……変わらないよ。私やケンくんが、ちゃんと自分である限り、絶対に変わらない」

 半分やけくそ状態で私は言葉を紡ぐ。

「この先、ケンくんが誠実さを失ってしまったり、私が今みたいに自分を好きでいられなくなったりして、どちらかが相手のことを嫌になってしまうこともあるかもしれない。だけども、私たちが私たちである限りは、ケンくんを愛する気持ちは変わらないよ。一生そばにいたいな、って……私は思ってるよ」

 自分で言ってて、まるでプロポーズみたいだな、って思う。

 今日は神様の赤絵の具の大放出セールなのかもしれない。

 私もケンくんもこれ以上ないほどに真っ赤だ。

「俺も……俺もです。アキさんとずっと一緒にいたいです」

 真っ赤な顔を上げて、精一杯私の瞳をまっすぐに見つめて、そう言ってくれる。

 あまりにも一生懸命だから、おかげ様で逆に私には余裕が出てきた。

「ふふ、ありがとう。じゃぁ、そろそろ敬語をやめにしないかなぁ? 先輩後輩の前に、私はケンくんの彼女なんだよ? それとも、この先ずっと……それこそ結婚しても敬語で話す?」

 わざと意地悪っぽく言葉にしてみる。

「え、あ。そうですね……」

「ほら、また敬語」

「あ……」

「あははは」

 そんなケンくんがおかしくて、ついに私は吹き出してしまった。

「ちょっとずつでいいよ。急に敬語やめられたら、きっとそれはそれで私も戸惑うと思うし」

「そうですね……そうだね」

「無理してるね?」

「そりゃあ……」

「あはははは」

「笑わないでくださいよ……」

 そんなふうに言いながら、ケンくんも笑う。

 机の上に桔梗の栞。

 お互いに変わらぬ愛を思いながら、幸せな時間は過ぎていくのだった。

 

 

 

 S駅前噴水広場。

「今日は本当にありがとうございます」

「ううん、私も楽しかったよ」

 時刻は夜の21時。

 明日も大学の講義があることを考えると、結構な時間。

「栞、大事にしますね」

「うん、でもいっぱい使ってやってね」

「言われなくても、いっぱい使うことくらいわかってるでしょう?」

「間違いないね」

 微笑み合う私たち。

 今日一日、いっぱいケンくんと一緒にいた。

 本当に楽しくて、本当に幸せだった。

「じゃぁ、また明日」

「あ、ちょっと待って」

 駅の改札へと歩き出したケンくんを呼び止める。

「はい?」

「今日の誕生日プレゼント、嬉しかった?」

 そんなことを聴くと、

「当然。俺は幸せ者ですね」

 と、溶けるように笑ってくれた。

 だから、私は……

「じゃぁ、ご褒美が欲しいな」

 ゆっくり目を閉じて、顔を近づける。

「アキさん……!?」

「……」

 また赤面してるんだろうな、なんて思いつつ、目を閉じているせいでそれが見えないのが少し残念だ。

「……」

 しばらくして、優しく肩に手を置いて引き寄せられる。

 そしてゆっくり近づく彼の息遣い。

「ん」

 暖かい唇の温度。

 それは一瞬だったはずだけど、とっても長く感じられて。

 自然とゆっくり離れて目を開ける。

「愛してるよ」

 思わずそんな言葉が私の口からこぼれ落ちた。

「俺も愛してる」

 優しく微笑んでくれて。

 それがどうしようもなく嬉しくて、その時の私はきっと今日一番の笑顔だったと思う。

 

 

 

 ねぇ、さくら。

 恋ってすごいね。

 私、今すごく幸せだよ。

 この幸せがずっと続くように、これからも頑張るよ。

 だからケンくん。

 いつまでも、そばにいてね。

なんか思ったよりもべた甘になってしまいました。

こんなに甘くするつもりなかったのになぁ(笑)

自分の中で、ケンくんはかなり甘い性格のようです。そして何気にべたぼれ。


ほっこりしてもらえたら嬉しいです。

読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ