交わる気持ち
目覚めたくないのに目が覚めた。白い天井に知らない私を見つめる美少女。
ーーこの人……誰?
今の世の中、要を使って姿を偽る人が多い。だから、お見舞いに来た友達かもしれない。
ーーあれ…友達って居たっけ。
「おはようございます。貴方が目覚めたのは要が壊されてから三日後です。要を壊されたことは覚えていますか?」
要とは夢の空間である夢遊空間を形作るために必要なもの。
ーー要が壊された…? だから、私は目覚めたのか。
覚えていない。けれど、手が勝手に力が入ってしまう。自分は何かにイライラしている。
「いいえ、覚えていません」
「そうですか……。それも仕方がありません。貴方は要を壊されて記憶喪失になったのですから」
「記憶喪失!?」
あまりの出来事に口が走ってしまった。椅子に腰掛けている彼女は気にせずに事情を説明してくれた。
「はい。要を失ったことで記憶喪失になったのです。要はその人の行動や仕草、そして記憶を記録しているものですから」
「……そうですか」
信じられないことだったが、現に私は目覚める前までの事を思い出せずにいる。
俯いていると彼女が「すみませんでした」と謝ってきた。思わず、彼女に目線を向けると、頭を下げている。
「どうして、謝るんですか?……もしかして知り合いでしたか?」
「いいえ、初対面です。私は貴方の夢を管理していた人のパートナーのカナデと申します。パートナーだったカエデは敵の侵入を許してしまい、私は敵の侵入に気づくことさえできませんでした。夢警備隊失格です」
彼女は悪くない。頭では分かっているのだが、夢に関係している人物というだけで腹が立つ。でも彼女よりも腹が立つのは。
「それでパートナーのカエデさんは何処ですか? 貴方にだけ面倒事を押し付けているんじゃ――」
「違いますッ!!」
カナデは、はっと我に返り、もう一度謝ってから頭を上げた。
「彼女は……死にました」
「え」
「管理人は夢への出入りを許可する権限を持っているんです。私達、夢警備隊がいざって時に駆けつけられるように……。恐らく侵入者はその権限を狙うためにカエデを殺しました」
カナデの目から涙が零れ落ちている。その姿を見て、責める気が失った。
ーー死んでいる……。殺されたのなら侵入されても仕方がない。けれど、この怒りの矛先は何処に向けたらいいの……? ――そうか、元はといえば夢を壊した奴が悪い。アイツらさえ居なければ彼女のパートナーも死ななかった。
「殺人を犯してまで夢を壊すなんて。夢警備隊は今すぐアイツらを捕まえるんですよね!!」
長い間眠っていて筋肉がない手を無理やり動かして、カナデの手を両手で握った。
カナデは袖で涙を拭き取り、強い眼差しでこちらを見やり
「当然です。絶対に奴ら――夢撲滅隊の行方を追います!!」
「宜しければ私も手伝います!」
「でも、トキさん確か寝たきりで――」
「車椅子に乗ってでも手伝います。手伝わせてください!!」
ーー犯人が捕まって醜くのたうち回るざまを近くで見届けてやるッ!
「そこまで言うのでしたら止めません。よろしくお願いしますね、トキさん」
「はい、よろしくお願いします。……ところで私が起きれているということは役所で要を発行してもらっているってことですよね? それはカナデさんが?」
要がないと植物状態になる。基本的な知識だけは覚えていて本当に良かった。
「いいえ。手続きはトキさんのお母様がしました。血縁者じゃないとできないので……ただ、お母様は――」
病室の扉が開く音がした。
「トキさん! 目が覚めたんですね!」
扉の方を向くと、看護師さんがにこやかに私に呼びかけてきた。そして、看護師さんはこちらにやってくる。
「少しトキさんと話したいのですが、いいですか?」
「いいですよ。丁度、話が終わった所ですし」
カナデは椅子から立ち上がると私にメモ書きを渡してきた。
「私の電話番号。いつでも連絡してください。責任はちゃんと取りますから」
彼女が立ち去り、看護師さんからの説明が始まった。
リハビリのことや退院日の話などだ。といっても退院日は二年間も寝たきりだったせいからか、だいぶ先の話だった。
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トキと別れて、火葬場に急いで行く。
親友の葬式に出られなかったのは、凄く残念だ。しかし、親友の責任をいち早く取りたかった。彼女には未練なんか残させずに成仏してほしいから。
無事、火葬場に着くと喪服姿の同僚とカエデの家族が居た。
「カナデちゃん、待っていたわ。親友である貴方には見届けほしいから……あとこれ」
喪服姿のカエデのお母さんは私に一冊の本を渡した。
「これは……要。貰っていいんですか?」
彼女は頷いた。
「ありがとうございます、お母様」
私も喪服を創造して、身に纏った。すると、お坊さんがお経を詠み上げる。お経を詠み終わるとお坊さんは立ち去った。
いよいよ火葬炉にカエデが入れられる。でも、その前に姿を眺めたかった。
棺に近づき、顔の辺りに被さった血塗れの布をめくると、見るに堪えない姿だった。ほぼ原型をとどめていない。
凶器はハンマーだと分かったのだ。原型なんて残るはずがない。薄々分かっていたはずなのに期待せずにはいられなかった。
私は布を元に戻し、手を合わせた。
ーーカエデ安心して成仏してね。私がアイツらを皆殺しにするから。




