カナデと要
要にはその人の全てが記されている。
例えば、心情・行動・仕草・記憶などだ。
自分のを見る機会はいくらでもあるが、親友のを見れるとは思わなかった。
親にとって要は一番の形見のはずだ。それを渡すだなんて。本当に良かったのかな。
今すぐにでも返したほうがいいと思うのだが、ページをめくる手が止まらない。
私達は高校からの仲だった。仲良くなったきっかけは名前が似ているからという些細なものだった。
緊張していた私にカエデが声をかけてくれたのだ。それからずっと一緒に居た。
私は体育が苦手だったのだけれど、夢警備隊で働きたいっていう夢があった。
夢を諦めようとした時、カエデが私の背中を押してくれたのだ。
ーー人生は一回しかないんだから挑戦してみてもいいんじゃない? ほら私も目指してるからさ、一緒に頑張ろうよ。そして就職したらコンビを組もう! だから……夢を諦めるなんて言わないで
この言葉があったから今私はここにいる。こんなに心強く聞こえた言葉のその内側は震えていたことを要を見て、初めて知った。
(お願い届いて。……あれ冷静に考えたら言わないほうが良かったかな……? 夢警備隊って危険な仕事だし。んー……でも夢を諦める所なんて見てられないし)
『……ありがとう、カエデ』
(笑ってる…。正解だったのかな。私がカナデを危険な仕事を目指すように仕向けたんだ。創造力を身に着けてカナデを守れるくらいに強くならないと……!)
涙が要に溢れ落ちる。
カエデはこんなに私の事を考えてくれてたなんて……。
彼女が強かったのはこの時から努力してたからなんだ……。おこがましいことに一時期、才能があって羨ましいと思ってたことが恥ずかしい。
奇襲ではなければきっと――。
「あれ。もう朝…?」
カーテンの隙間から光が入ってくる。要はまだ全て読み切れていない。
「やば。サボっちゃった」
部屋から出て、隣の部屋に入る。
隣の部屋には簡易ベッドが置かれており、タクローがそこに寝転びながらスマホを見ている。だらけているように見えるが、あれは仕事をしているのだ。管理人の。
タクローは新しい私のパートナーだ。
「ごめんなさい、タクローさん。サボってしまいました!」
頭を下げる私にタクローは手を仰ぐ。
「いいのいいの。別に怪しい人物も侵入者も出なかったわけだしさ。まあ結果論ってやつだ! それに声をかけろってカナデが言ってたのに声をかけなかった俺にも責任がある」
「で、ですが――」
「だから気にするなって。お前はカエデを失って辛いだろ。少しは休め」
私は少しでも動いていたい。その方が辛いことを忘れられるし、カエデの敵討ちに一歩近づけるから。
唇を噛むと血の味がする。
「はい。カエデに向き合う時間をもう少し作ろうと思います」
「俺が言いたいのはそういう事じゃなくてだなー」
私はタクローのベッドの隣に寝転ぶ。
「分かってます。だから今から仮眠を取ろうと思います。昼になったら起こしてください。今度は絶対に」
「……オッケー。しっかりと休みな」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
夢遊空間にはカエデの姿をした空想上の人物が居た。彼女は喋れない。それは私の創造力が未熟だから。それでも私はそれに抱きついて涙を流した。




