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25ワン目 アジトを守る者達

「防御魔法・大いなる岩の楯(ロックシールド)! 連結魔法・土人形の罠(ゴーレムトラップ)!!」


 十五メートルはあるかという巨大な岩壁がオルドラの攻撃を受けてひび割れながら倒れていく。その途中で岩が砂のように削れていき、ハニワみたいなゴーレムがオルドラを身体全体で覆いかぶさり檻をつくる。隙間から逃げようとしても、身体にのしかかる泥の重みに負けてへたり込んでいく。


「おおおおっ! でっかい岩の壁が崩れてゴーレムになったぞ!?」


「あんなこと出来るなんて、すごい!」


「目はギラッギラだけど、ナターシャの表情が険しくなったな。術者にも負担がかかる魔法なのか」


 後で詳しく本人に聞きたいところだな。もし、オレが使えるようになれば、ぐんっと魔法の幅が広がるはずだ。


「捕まえたぞ。負けを認めないと押しつぶすが、どうする?」


「ちくしょう……降参だ!」


 オルドラが潔く白旗を振ると、ゴーレムが消滅した。ナターシャは埃まみれのオルドラの手を引いて立ち上がらせながら、笑顔でオレ達を振り返る。


「どうだった? 君達の参考になりそうかな?」


「興奮した! あんた、本当に強いな。オレが魔法を覚えたら試合をしてくれよ!」


「ああ、いいとも」


 二人にいち早く駆け寄ったジュライが目を輝かせながらナターシャを見上げている。あの戦いぶりを見たら、性別なんて些細なことだと思ったのだろう。ナターシャの目は穏やかに緩む。


 二人の様子に僅かに口端を上げてオルドラがオレ達に顔を向ける。


「──それで、お前達はどう思ったんだ?」


「オルドラさんは魔法が苦手だと言っていたけど、全然そんな風には見えなかったです! 戦いながら同時に魔法を使うのは、難しそうですよね」


「特にナターシャが使ったやつな。連結魔法っていったか?あれはどういう仕組みなんだ?」


「そいつはオレも知りたいな。いつの前にあんなすごい技を完成させたんだよ?」


 汚れた服を手で叩きながら、オルドラが予想外な一言を返す。最近新しい魔法を作ったってことか。

 

 ナターシャが照れくさそうに頬を掻く。


「まだ、試作の段階だよ。魔法の基本は自分のマナを使って、詠唱することで完成する。連続で同じものを使う時も、続けて違うものを使う時もそれは同じだ。だから、二つの魔法を詠唱の中で一つのものとして組み込めないかと思ったんだ。その結果、連結魔法に辿り着いたのは偶然だけどな。魔法の形を変質させていくから集中力とコントロールが重要になる。集中力が切れると暴発したり霧散するからね」


「集中力とコントロール……オレ達もその魔法を覚えられるか?」


「本人の資質次第だ。そこいるオルドラのように、マナの量が多く大技を使うのが得意な人間には、この連結魔法は明らかに向いていない。出来ないとは言わないが、そこに時間をかけるよりも違う魔法を編み出すことをすすめるな。そして当然ながら、私にも向いていない魔法がある」


「オレの使っていた付与魔法のことだろ。あの魔法は消耗するマナの量が多いから、マナが一定以上ないヤツにはキツイ。大事なのは、自分の属性と性質をよく知って、向いている魔法を探し出すことだ」


 オレはこの機会に次々と浮かんでくる疑問を解消したくて、二人にそれを伝えてみた。


「そもそも魔法はどうやって完成する? マナと呪文を使うのはわかったけど、発動条件はそれだけじゃないだろ?」


「魔法を成功させるには三つことが必要だ。想像力・理解力・精神力。想像することで魔法の形を整え、自分の属性を知ることで魔法の方向性を探り、集中力を高めることで魔法のコントロールを強める。これが魔法を使う上でもっとも基本的なルールなんだ」


「頭が爆発しそうだぜ」


「大事なことだからね、頑張って覚えてくれ。それともう一つ教えておくよ。詠唱は自分の想像したものを言葉に出すことで認識させる役割を持っているんだ」


「ゴズバルさんも同じことを言っていました。」


「そうだったか? 難しいことをウダウダ言ってたから半分くらい忘れたわ」


「暴発したとはいえ、君はよくそれで火の魔法を使えたね!?」


「オレだからな!」


 自信満々に答えるジュライに、カナンは呆れ顔だ。やはり感覚重視の奴は理論を語るよりも実践で覚える方が性にあっているのだろう。理論型のオレは、一度頭で考えると効率がいいので、四人の話を聞きながら自分なりの答えを出してみる。


「詠唱のたとえとしてはこんな感じで合ってるか? ケーキを買いにパン屋に行ったとする。だけど、パン屋にはいろんなパンがあるから、正しく注文しないと目的のケーキは出てこない。つまり詠唱はこの注文にあたると」


「おおっ、それならわかりやすいぞ」


「面白い考え方をするね、合っているよ。次は実際に魔法を使ってみようか」


「待った。ソージは初心者だろ? マナの使い方から教えてやれよ」


「そうだったね。まずは、一番最初に身体の中にあるマナを──……」


「ワンッワンッ」


 ナターシャが説明を始めかけた時、それまで大人しくしていたダイキチが鳴いた。オレの手の甲にしめった鼻先を押しつけながら尻尾をぱたりと振る。お前を忘れたわけじゃないから、そんな訴えかける目で見るなよ。


「お前はしばらく向こうで遊んでろ。オレ達の側にいたら危ないぞ。わかったか?」


「ワフゥ」


 頷くように鳴いて、ダイキチはオレが指を差した方向に向かっていく。と思ったら、チョウチョを追いかけ出した。めちゃくちゃ楽しそうに。……やっぱり、ただのダイキチだわ。


「ふふっ、ダイキチが遊んでいるうちに始めようか」


 ナターシャの首元でリュヴァルクの紋章入りのペンダントが、オレ達のやる気を反射するようにキラリと光った。

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