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勇者一行は俺1人  作者: 河流
9/37

ステータス:杖の開放

#09


「杖に選ばれていない?勇者一行の魔法使いが?」


思わず、ハボックの言ったことをオウム返しする。


「もちろん。勇者一行の魔法使い様が使ったとされる杖はロッドと呼ばれる大きな杖ですからね」


ハボックはそう言って隣の棚を指さす。

そこには、俺の背丈ほどもある大きな杖が陳列されている。

そうだ、RPGの魔法使いと言えばこの大きな杖だ。


「それじゃあ、あれが魔法使いの使っていた杖なの?」


「ええ、そうです。先ほどの杖はワンドという片手杖でして、呪術や錬金術といった魔術に長けた杖です」


「つまり、魔法使いじゃなくて魔術師用の杖ってこと?」


「無論、魔法使いでも使うものはおりますが、概ねそうですね。

錬金術師、薬草師、そして先ほどの、スカーレット家のような魔術師様がお使いになられることが多いです。

ワンドは炎や雷の魔法を打ち出すようなド派手な戦闘向きじゃあないんです」


ハボックはそこまで言うと、シャルルがこちらをじっと睨んでいることに気付く。


「ん“んっ!・・・しかし、最近の魔法使いの中には剣と併せた使い方をする者もいると聞きます!確か、魔法剣士とか言いましたかな。なので今後は戦闘面での活躍も期待できるでしょう!」


ハボックは、シャルルの耳にまで届くようわざとらしく大きな声で訂正する。


「ハハハ!そうか、だから選ばれなかったのか!」


俺は1人高笑いすると、再び儀式を行うため、杖の陳列された棚の中心地に戻る。

シャルルは再び戻ってきた俺に突っかかって来る。


「あら、どうしたの?何度やっても結果は同じよ。杖に選ばれるのは〝てんせい〟の才能なんだから」


転生の才能?

ああ、天性の才能か。

天性の才能ね。それなら十二分に備えてるよ。


俺はステータスを魔法使いから錬金術師へと切り替える。

俺は再び目を閉じ、魔力を放とうとしたが、その必要は無かった。

異変に最初に気付いたのはレナートだった。


「おや・・・地震ですかな?」


棚がカタカタと揺れ、天井の隙間からパラパラとホコリが落ちてくる。

4人で天井を見つめ、揺れが収まるのを待つが、一向に静まる様子がない。


「この程度なら大したことありませんよ。さ、坊ちゃん。儀式に集中して!」


ハボックが中断された儀式を再開しようと俺に促す。

俺は頷くと、再び魔力を放出し始める。


「・・・違う。地震じゃない。この棚だけが揺れてる」


シャルルがその事に気づいた時にはすでに手遅れだった。

俺の放った魔力に反応し、杖の積まれた棚は激しく揺れ動く。

いくつもの杖が棚から飛び出し、俺の周りに集まってくる。

レナートは素早くシャルルを掴むと、離れた安全地帯に避難する。


「な、なんじゃこりゃああ!!」


逃げ遅れたハボックは頭上に落ちてくる箱の山に埋もれながら、目の前で繰り広げられる光景に絶叫する。

棚の中から箱が全て落ちると、揺れは収まり、店は静寂を取り戻す。


「参ったな。想像以上の結果だ。杖を選ばないと・・・」


俺は思わずそう呟く。

無理もないだろう。

今や俺の周りには500を超える杖が大きな群れとなって飛び回っている。

石でできた杖、大きく湾曲した杖、宝石の施された杖などその装飾は多岐に渡る。


「これは・・・。なんといっていいのやら・・・」


目の前の光景に呆然と立ち尽くすレナートをよそに、シャルルは踵を返すと出口へと歩いていく。


「・・・レナート、帰るわよ」


「し、しかし、お嬢様」


「あなたは主人をホコリまみれにさせておくの?私は早くシャワーを浴びたいの!!」


そう言ってシャルルはレナートを伴ってハボックの店を後にする。

俺は1人、空箱と杖に囲まれた中で立ち尽くす。


「どの杖が良いのか聞きたかったんだけど・・・」


すると、空き箱の中からハボックが顔を出す。

ハボックは空き箱の山から這いずり出てくると、空き箱の山に座り込む。


「ハァ、ハァ・・・どの杖を選べばいいか分からない?そういう時は私に任せてください。

・・・このセリフ、杖に選ばれた方に言うのは初めてですがね」


ハボックは飛び回る杖の群れを夢でも見ているかのように眺めながら、杖の説明をしていく。

俺は説明を聞きながら一つだけ棚に残った箱が未開封なことに気付く。

それは他の箱とは違い、箱の表面には見たことのない文字が鎖のように箱を1周する形で描かれている。


「ハボットさん、この箱にも杖が入っているんですか?」


俺はその箱を手に取ると、ハボットへと手渡す。

ハボットは箱を受け取ると、表面に描かれた文字を手でなぞり、不思議そうに首をかしげる。


「この箱は初めて見ましたな。親父の代から棚の奥底で眠っていたのか。ルーンによる封もされているし、困ったな」


ハボックは老眼鏡を取り出し、文字を眺め、他に仕掛けがないか箱をクルクルと回してみるが、箱が開く様子はない。


「古代ルーン語・・・此の形状は封印のルーンの類か?ウゥ~ム・・・」


ハボックはぶつくさと独り言を呟きながら、暫くの間、箱の開封を試みたが、大きなため息を吐くと諦めて箱を置いてしまう。


「すいません、坊ちゃん。これは売れそうにないです」


「ぼくにも見せてもらってもいいですか?」


俺はハボックから箱を受け取ると、箱の表面に描かれた文字をハボックを真似て手でなぞってみる。

すると、ステータスが頭上に表示される。


【スキル:古代ルーン語の理解】 


魔術師のスキルの発動を確認すると、俺は箱の表面の文字を解読できるようになっていた。

箱に刻まれた文字を声に出して読む。


「〝此は地を揺らすもの。鎖につながれし者。名は・・・えぇと・・・」


「なんとっ?!古代ルーン文字を読めるのですか?!」


「そうみたい。〝名は、ヴァナル・・・ガンド〟」


再びステータスが表示される。


【スキル:魔法封印の開錠術】


箱に置いていた右手から魔力が勝手に溢れ出すと、刻まれた文字に吸い込まれていく。

文字は俺の魔力が満たされていくと、淡い光を放ちながら溶けていく。


「ぼ、坊ちゃん!封印が解けていきますよっ?!」


箱に描かれた文字が消えると、箱は端から砂へと変わっていき、崩れていく。

やがて、俺の手の中には一本の杖だけが残る。


真っすぐな形状の漆黒の杖。

持ち手の部分には鎖を象った装飾と、銀色の光を放つ獣の牙のような意匠が施されている。

ハボックは青ざめた顔で杖を見つめる。


「なんだこの杖は・・・。もう、何が何だか・・・」


ハボックは困り果てたようにそう呟くと、空き箱の山に倒れこむ。

俺は漆黒の杖を握り締める。


「ハボックさん、俺この杖にするよ」


ハボックは倒れたままの状態で手をヒラヒラとあげる。

店主からOKをもらい、俺は一安心する。


「あの~・・・ハボックさん。悪いんだけど、他の武器も見ていいかな?」


ハボックは勢いよく起き上がると、泣きそうな顔で俺に縋りついた。


「坊ちゃん、勘弁してください!これ以上は心臓が持ちませんよ!!」


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