00:「魔族の女の子に転生させちゃいました」
温かい光に包まれて、僕は静かに目を瞑った。
そこに苦しみなんてものは微塵もない。あるのは安らぎ。温かく僕を包み込む慈悲の光のみだ。
僕は勇者“だった”。数えきれない人々に希望を託されて、数え切れない人々の希望を背負った光の剣で、魔王の討伐に向かった。
でも、負けた。僕が世界を想う力より、魔王が世界を手中に収めようとする野望の力の方が強かったのだ。一対一で剣を交わらせたのだが、圧倒的な力に押されて結局斬られた。
後悔はしていない、僕は全力で戦ったのだから。伝説の武器防具、鍛練で鍛えた戦闘力。全ての力を以てしてもダメだった。でも、全力を出したのだから、後悔する理由なんて全く無い。
「勇者様――」
高く澄み切った声が、僕のことを呼んだ。今まで一度も聞いた事の無かったような、綺麗で惚れ惚れする声。
これが神様の声なのかな。そしてそれが聞こえてこの不思議な場所にいる僕は、死んでしまったのかな。
「私はこの世界の女神。貴方は魔王を討つ事が出来ず、死んでしまいました」
ああ、やっぱり。ならここは天国だろうか。この温かい心地よさがある光が、地獄だとは到底思えないし。
「貴方に魔王を倒せと、無責任に職務を押し付けたのは私です。申し訳ありませんでした」
罪悪感の籠った、少し泣きそうになった声で、女神は僕に謝罪をした。そういえば、僕が魔王を倒すために旅立ったのは、女神のような人から「魔王を倒せ」と言われる夢を見たからだ。
これがその時の女神なのだろう。まあ、今周りは黄金の光だけで、人らしい姿は何処にも無いのだが。だが、確かに声はその時の女神そっくりだ。
「せめてもの償いとして、私は貴方を蘇らせたいのです。勇者や魔王とは全く関係ない、普通の人間として」
女神の発言に、僕ははっと顔を上げた。もう一度人生がやり直せるんだ。まだ暫く眠ることはできなくなるが、真っ当な人間として一から人生がやり直せる。僕だって一度は普通の人間として生きたいし。
僕はすぐに頷いた。確かに天国にも行きたいけど、その前に普通の人生を一度くらい体験したって罰は当たらないだろう。
「分かりました」と言った後、女神は呪文らしき言葉を呟き始めた。僕達が使っていたことじゃでは表せない発音だが、歌のように綺麗で整った旋律が、光に満ちた空間に流れる。
「あ」
余りに心地よく綺麗な旋律で思わず眠ってしまいそうになったのだが、女神の思わず何かをやらかしてしまったという感じの声で、現実に引きもどされた。
「どうかしましたか?」
何故か背筋に悪感が走ったんですけど。物凄くいやな予感がするんですけど。恐る恐る何が起きたのか女神に聞いてみた。女神は暫く黙ったきりになり、その場の空気が重くしーんとしたものになるが、暫く経ってその重い口を開いた。
「間違って、魔族の女の子に転生させちゃいました」
女神の言葉が頭の中で何回も再生させられた。間違って、魔族の女の子に転生させちゃいました、間違って、魔族の女の子に転生させちゃいました……。
頭の中でそれを整理する。魔族とは僕達人間の敵で、魔王に支配されている種族。僕が倒そうとした種族だ。女の子はそのまま、女性という事だろう。転生も、生まれ変わらせてあげようという話が上がっていたから、そのままの意味だろう。
頭の中が真っ白になる、何も考えられなくなる。そのままの状態で暫く硬直状態が続き、やっと何かを考えられるようになって。
「ええええーっ!?」
叫べるだけ叫んだ。もう咆哮と間違えられてもおかしくないほど叫んだ。自分の耳が痛くなるほど叫んだ。
魔族の女の子って、魔族の女の子って。やばいパニック状態だどうしよう! 敵である魔族になるだけでなく、女になってしまうなんて!
「そ、それは今から止められないんですか!?」
「無理ですよ!? もうあと数十秒で貴方は晴れて魔族の少女に転生ですよ!」
正直女神もパニック状態なのか、どうしようどうしようという呟きが思いきり聞こえてくる。
というか数十秒って早すぎでしょ。心の準備を付けるような時間も与えてくれないのか。というかそれ以前に何で自分でやったことを取り消すことができないんだ。この女神。
「こうなったら、最後に言いたい事を言ってから転生してやります!」
「ええ、どうぞ!」
最早パニック状態を軽く通り越していて、僕も女神も壊れている。もうこうなったらどうにでもなれってんだ!
「いってきます」
「いってらっしゃい」
その言葉を最後に、僕の意識はブラックアウトした。
初めまして、mentalと申します。まあこれの前にもう一作品投稿してますから、見たことある人もいるかもしれませんが。
最初に言っておきますが、この小説はノリとアドリブで書いてます。なんかもうどうにでもなっちゃえ! って感じです。
ノリって大事だと思うんですよ。やっぱり小説っていうのは勢いがなくちゃいけませんよね。まあこれは少々飛躍的過ぎだとは思いますが(汗
修正で、主人公の心情描写を少し増やしてみました。