8. 闇に近づく
今川は、東京に戻り次第、
押田の元に行き、真相を聞こうと思っていたが、
東京に帰るとすぐ、ロボットの発注が大量に舞い込んだため、
バーへ行く時間が取れなかった。
発注元は、
「ユニバース&ピースワールドワイドエレクトロニクスジャパン」
という新規の会社だった。
レアレースやレアメタルの海外取引を政府から
委託されているらしく、
最近、一部上昇企業入りを果たしたという。
「ようやく、我々にも、ツキがまわってきましたね。
この会社は、政府公認らしいですから、
大手を振って取引が出来ます。
今後も、政府公認の企業が増えるようですよ。
弊社もこの機会に、政府公認のお墨付きを得られるよう
働きかけた方がよろしいのでは? 」
磯屋が言った。
「その必要はない」
今川が言った。
「総裁選に立候補している生珠議員ですが、
週刊誌に過去の女性スキャンダルをすっぱ抜かれて、
女性からの支持率が低下したらしいですよ」
真浦が告げた。
「首相にも、闇献金の噂があるじゃないか?
どちらが、総裁選に勝つか、はじまってみなければわからないよ」
磯屋が言い返した。
シリウスへ行くことが出来たのは、
東京に帰ってから、2週間後の夜だった。
「折り入って、話したいこととは何だ? 」
押田が神妙な面持ちで訊ねた。
「おまえ。何か、私に隠しごとをしていないか? 」
今川が用心深く訊ねた。
「いったい、何の話だ? 」
押田が訊き返した。
「血液の違法売買をしているというのは本当か? 」
今川が訊ねた。
「おまえも受けたじゃないか?
あれは、ドロドロ血液をオゾンで洗浄する療法であって、
血液の売買ではない」
押田が目を泳がせながら言った。
「本当に、やばいことに関わっていないんだな? 」
今川が念を押した。
「あたりまえだ」
押田が鼻をふくらませると言った。
「おまえは、ウソをつくと、鼻がふくらむ」
今川が、押田をじっと見つめると言った。
「そうだよ。おまえが、
血液オゾンバイタル療法を受けたクリニックの別室で
血液の売買ビジネスをやっている」
押田が開き直った態度で言った。
「まさかと思ったが、やっていたか」
今川は肩を落とした。
「医療の進歩により、
昔なら死んでいた病気も手術すれば
完治出来るようになったが、その分、長生きする高齢者が増えた。
高齢者の手術は出血しやすいから、特に、大量の輸血用血液がいる。
ここ数年、血液の病気を患う若者が増えただろう?
そのせいで、献血は禁止になった。
人工血液だけでは足りないんだよ」
押田が訴えた。
「だからって、おまえが、違法ビジネスを
買って出ることはないだろう? 他の方法があるはずだ」
今川が言った。
「そのうち、血液の売買は、違法ではなくなるはずだ。
おまえさえ黙っていれば、当分の間は続けられる。
やばくなったら、手を引くと約束する。
だから、今回だけ見逃してくんないか? 」
押田が頭を下げた。
「法律が変わる前に、捕まったらどうするつもりだ?
客の誰かが、警察にタレこむことだってあり得る。
血液の売買から、今すぐ、手を引くんだ。そうすれば、見逃してやる」
今川が強く言い返した。
少子高齢化が深刻化したことにより、
輸血を受ける高齢者が増す一方で、
献血する若者が年々、減少傾向にある中、
血液の違法売買が行われるようになっていた。
血液を売る客の大半が、
貧困層の若者だとして、大きな社会問題となっていた。
「心配しなくても大丈夫だ。取引相手は、
政財界に太いパイプをもっていると言っていた。
警察に捕まることはまずない」
押田が言った。
「その組織というのは何て名前だ? 」
今川が、押田に詰め寄った。
「それを聞いてどうする? 」
「警察に相談する」
「おい、バカ言うなよ。勝てるはずがないだろう?
向こうの方が一枚上手なのだよ」
「ブローカーというのはどんな人なのだ? 」
今川が低い声で訊ねた。
「今から、取引相手が店に来る。
そんなに気になるのなら、自分の目で確かめるといいさ」
押田が、やぶれかぶれに言った。
しばらくして、取引相手だという強面の男、
ロシア人のウラジミール・ツゥバイコフがVIP席に座った。
「こちらは? 」
U・ツゥバイコフは、押田の隣に座る
今川を目ざとく見つけると低い声で訊ねた。
「こいつは、友人の今川空雅です。
Mr.ツゥバイコフと話がしたいというので同席させました」
押田が緊張した面持ちで、U・ツゥバイコフに今川を紹介した。
「よろしくお願いします」
今川がお辞儀した。
「吾輩に、話したいこととは何だ? 」
U・ツゥバイコフが、葉巻に火をつけると訊ねた。
「あの。これ以上、闇ビジネスに、
押田を巻き込むのをやめてもらえませんか? 」
今川が単刀直入に言った。
U・ツゥバイコフが鋭い目で今川をにらんだ。
「いったい、何の話をしているのだ? 」
U・ツゥバイコフがけげんな表情で訊ねた。
「この国では、血液の売買が違法というのは、
ご承知の上でビジネスをなさっているのですか? 」
今川が訊き返した。
「押田さん。きちんと説明してくれなきゃ困るよ。
どうやら、何か誤解されているようだ」
U・ツゥバイコフが、押田に告げた。
「す、すみません」
押田が平謝りした。
「押田には、足を洗わせます」
今川がきっぱりと告げた。
「バカな」
U・ツゥバイコフがふっと笑った。
「今川。もう、気が済んだだろう?
商談をはじめたいから、そろそろ、席を外してくれないか? 」
押田が、今川に言った。
「血液の売買はやめてください。
やめてもらえないのならば、警察に通報します」
今川が、U・ツゥバイコフに言い迫った。
「ことわる! 」
U・ツゥバイコフが、素っ気なく言うと勢い良く席を立った。




