ナイトメアデイ
思えばあの日もノエルと会ったときと同じくらい強い嵐だった。きっとあの時降臨するはずだった天使様はノエルだったのだろう。
「じいちゃん、僕はまだあの日の悪夢に囚われたままだ」
引き出しにしまっていた祖父の写真を眺める。
忘れていたと思っていた。
亡くなってしまった両親の代わりに祖父は私に教会のことについて教えてくれた。礼儀作法、祈りの仕方。
祖父はもういい年だったからこの街の教会の跡取りがほしかったのだろう。結界を定期的に張り直すのも我が家の使命だったから。
数年経ち、祖父も亡くなった。祖父のお葬式には兄も来た。両親のときは来なかったのに。
私はまだ子供で、勇者は魔王から人々を守るものだと聞いていた。だからあの日も勇者である兄がきっと助けに来てくれると信じていた。両親を街の人を助けてくれると思っていた。
でも勇者だってただの人間だ。
王都とこの街はかなりの距離がある。兄が来たときにはすでに街は破壊されつくされていた。
私は兄に怒った。なんで助けに来てくれなかったんだ、と。兄は何も言わなかった。
自慢の兄を私は嫌いになった。話したくも見たくもなかった。互いに唯一の家族でありながら兄とは今日に至るまであの日から一度も話していない。
一人で生きたいたほうが楽だった。結界を張り直す役目は辛かった。自分の身体が悲鳴をあげていることもわかっていた。誰かに心配されるのも嫌だった。その人のことを大切に思ってしまうから。
守りたいなにかを作りたくなかった。ただ使命を果たすのために生きていた。それが生きる意味だった。
でもノエルに出会って、日常を愛おしく思うようになってしまった。よく笑うノエルは自分の心の中にすぐに入り込んで溶けた。
ノエルがテディおばさんを助けてくれて嬉しかった。ノエルは街の人を好きになれるんだ。わざと線引している自分がくだらなく思えた。
「ノエル様……」
ノエルのせいで両親が死んだわけではない。わかっている。すべては魔王が悪いんだ。
でも。それでも。兄を許せない。ノエルを恨んでしまう。
こんな自分が一番嫌いだ。偽善者で臆病者で。ノエルを大切にしたいのに傷つけた。
罪悪感で押しつぶされて、消えてしまいたくなる。
もう夜だ。ノエルは一体どこで寝るのだろう。セシリアが面倒を見てくれているだろうか。
ため息をつくと、扉からコンコンとノックする音が聞こえた。




