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第36話 剣聖ライトニング

 瑠璃との最後の会話をした後、彼女は亡くなった。

 偉大な元女王の死を国の誰もが悲しみ、涙を流した。

 こうして、名君と呼ばれたラピスラズリ元女王はその生涯を終えた。


 恭平が自室で休んでいると、エクレールが話しかけてきた。


「ラピス姫様、幸せでしたね。家族や好きな人に惜しまれて亡くなったのです。ですから、そんなに落ち込む必要はありません」


 恭平には自覚がなかったが、気落ちしていたようだった。

 剣聖ライトニングではなく、恭平というひとりの人間を知る者がいなくなっていた。


「そうだよな。瑠璃が幸せだった事は、近くにいた俺が一番知ってるじゃないか。でもな、やっぱり話し相手がいなくなるのは寂しいんだぜ」

「恭平には私がいます。暇があったら、話し相手くらいにはなってあげます。安心してください」


 エクレールも、結局は魔剣と同一化した後の恭平しか知らない。恭平という人間は瑠璃の死と共に完全に消えたのだ。


「エクレール、これからは俺の事を呼ぶときは剣聖と呼んでくれないか?」

「そうですか」

「もう、児玉 恭平を知る者はいなくなった。だから、もうその名で呼ばれたくないんだよ。これからは剣聖ライトニングそれ以外はありえない」


 こうやって瑠璃の死を振り返った恭平は、やはり瑠璃は掛替えのない親友だったことを思い知らされた。

 まるで自分の半分がなくなってしまったようだった。


「分かりました。これからも頑張ってください、剣聖ライトニング」

「当然だ。俺には瑠璃との約束があるからな。こんな事でいちいち落ち込んでいられないからな」


 瑠璃があの時、国を見守って欲しいと願ったのは、恭平のためだったのだろう。瑠璃がいなくなって、この世界とも縁が薄くなった恭平を繋ぎ止めるためだったのだ。


「まずはヒスイ姫様の教育をしましょう。やることは他にもあるのですから」

「ああ、そうだな。俺にはやるべき事がある。それを全うしないとな、死んでも死に切れん」

「そんなこと言っても、死ぬことはありませんが」

「死ぬつもりはないって事だよ。それくらい気付いてくれよ。そんなんじゃ、これから先やっていけないぜ?」


 瑠璃との別れの悲しさを吹き飛ばすように、恭平は笑った。




 サンステイの歴史にはこれ以降、剣聖ライトニングの名が常に登場する。何代経ても、剣聖ライトニングはサンステイに仕えていたという。


 他の国々にはこんな噂が広まっていた。剣聖ライトニングは何代にも渡りその姿が変わることは無く、走れば馬より早く百里を駆け、人々に英知を授けてくれる賢者だと。


 事実、サンステイはその繁栄を極め、もはや他の国の追随を許さないほど、大きな王国へと姿を変えていた。しかもそれは侵略戦争による支配ではなく、他国を吸収、合併する事で大きくなった。その事実は他国にとっては、とても信じられない事であった。


 いつの間にか、この世界で剣聖ライトニングの名を知らぬものはいなくなった。それは栄華の象徴であり、畏怖の象徴でもあった。剣聖ライトニングを英雄だと崇める人間もいれば、恐ろしい征服者だと恐れる人間もいた。


 だが、剣聖ライトニングはそのどちらでもない。

 ただひとりの親友との約束を守り、国を見守るだけの存在である。

 サンステイが存在する限り、剣聖ライトニングも同様に存在し続けるだろう。

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