第20話 お姫様の決意表明
「さて、世間話はこのくらいにして、本題に入りましょうか」
今までのくだりは本題じゃなかったのか、瑠璃は真剣な面持ちになった。
こういう話にになった肝心な事に触れていない。
「ほ、本題も何もこれ以上話すことはないが?」
「へぇ、ここまできて白を切るつもりかしら? 私が命を狙われる理由。恭平が鎧を着て戦っていたこと。いっぱい話してもらいことがあるのだけれど?」
そのことを思い出して、頭を抱えた。
恭平は自身が話すよりよっぽど信憑性が増す彼女に説明は任せることを思いついた。
「おい、エクレール」
「魔力が少ない時は、わたしも辛いのです。あまり容易に呼ばないで下さい」
誰もいなかった場所に金髪碧眼の女性が現れる。
その女性は畳の上に正座しており、その女性を驚いたように瑠璃が眺めてきた。
瑠璃は突如現れた長い金髪の女性に戸惑っているようだった。
「えっと、どちら様ですか? っていうより。どこから現れたんですか?」
初めて聞く瑠璃の情けない声に、恭平は吹き出しそうになるが、体が痛くてうまく笑えない。
「初めまして、ラピス姫様。わたしは魔剣ライトニングの精霊、エクレールと申します」
エクレールの言葉を聞いてから数瞬の後、瑠璃が小声で恭平に話しかけてきた。
「えっと、もしかして私って馬鹿にされているのかしら?」
「全部真実だから、逃げることなく受け入れるんだ」
恭平も最初は全く理解できないことだったように、瑠璃も同様全く理解できていない様子だった。
恭平は1度死んだという経験を経ているため、納得しやすかったが、瑠璃には実感できるものが一切ない。理解できないのも無理はない。
「信じられない事も多いと思いますが、まずはこれからの話を聞いて下さい」
エクレールの神妙な面持ちに、瑠璃も表情を引き締め話に耳を傾けた。
魔法界の存在から、瑠璃の生い立ち、サンステイの現状、どうして命を狙われているのかを詳しく説明していく。
恭平にはできないきめ細やかな物言いは、確かにエクレールが適切だった。
「私が本物のお姫様で、今の女王に命を狙われているねぇ……」
疑ってかかるような瑠璃の言葉に、恭平は無理もないと納得してしまう。
「もう親族は生き残っていなくて、最後に残った王位継承権を持つ私が王女として狙われているのね」
エクレールはただ頷いた。
その様子を見た瑠璃は顎に手をやった。
「なるほど、それは困ったことになっているわね」
あっさりと受けられていた。
そんな様子に恭平は肩透かしを食らってしまう。
「おい、自分が姫である事は否定しないのか? お前にも両親いるんだろ、血が繋がってないって事になるぞ。それでいいのか」
「この青い髪と紫の瞳を見れば、本当の両親でない事くらいは見当がつくわ。さすがに魔法の国のお姫様だなんて、予想できなかったけどね」
瑠璃は瑠璃なりに本当の両親でないを理解していたようで、平然とした顔をしている。
そういう所が強いのだと、恭平は感心した。
「それでこれからどうするつもり? いつまでも刺客を追い払い続けるつもりなの?」
「それは向こうが諦めるまで追い払うしかありません。それ以外に有効な手段は存在しないでしょう」
瑠璃の問いにエクレールが答える。
現状、そうする他に手段はないと、恭平も考えていた。
剣聖シャドウという強敵が残っているが、倒しさえすればもう脅威はなくなるのではないか。
「それ以外に有効な手段があるのだけれど、話を聞いてみる気はないかしら」
瑠璃の意外な言葉に恭平とエクレールは一度お互いの顔を見ると、瑠璃に視線を戻した。
「聞かせてくれないか? その有効な手段ってのを」
「簡単な事よ。王族である私が、女王に即位すればいいだけの話よ。そうすれば刺客に狙われなくてすむでしょ」
瑠璃は立ち上がり、とんでもないことを口にした。
「「はぁぁぁッ!?」」
恭平とエクレールの声がハモった。
瑠璃は簡単に言うが、それはつまりこの世界にいられなくなるということを意味している。
女王として、魔法界で生きていくしかない。
「確かにそうすれば刺客には狙われません。ですが、それには賛同しかねます」
「どうして?」
「先代女王……ラピス姫のお母上との約束があります。魔法界のことを知らず、この世界で幸せになって欲しい。と」
エクレールの反対に瑠璃は眉根を顰めるが、決意したようにエクレールを真正面に捉えた。
そんな瑠璃に対して、エクレールは嘆息を漏らした。
「女王になるためには国民が納得する方法で、女王代理をその座から引き摺り下ろす必要があります。そんな方法は……」
瑠璃の決意に対して、エクレールは難色を示す。
エクレールにとっては好ましくない方向へ話が進んでいるためだ。
「私が魔法を覚えて、魔法勝負で女王代理に勝てば誰も文句は言わないと思うわ。それに、私は王族の魔力も引き継いでいるから才能はあるんでしょ」
「魔法上位であるサンステイなら、王権の交代もできるでしょう」
「なら!」
乗り出す瑠璃をなだめるように、エクレールは彼女の肩に手を置いた。
「女王代理に勝つのは無理です。秘める魔力量が違うとはいえ、相手は百戦錬磨の魔術の持ち主。焼き付け刃では到底勝ち目はありません」
2人の会話についていけない恭平を残して、女性2人が勝手に盛り上がっている。
自分は加われないと諦めている恭平はことの顛末を見守るしかなかった。
「なら、その場しのぎではない魔法を私に教えてください。必ず物にします」
「断ります。先ほど言いましたが、先代女王との約束があります。教えるわけにはまいりません」
エクレールは頑なに瑠璃の意見に反対する。
先代の女王との約束を今まで守ってきた身としてはそれは当然のことだった。
瑠璃は少し息を吐くと、そんなエクレールを強く睨みつけた。
「なら、貴女はこのまま何もせず死ねと? このままでは共倒れなのは火を見るより明らかでしょう?」
エクレールは数度、恭平に視線を向けたが、渋々という様子で口を開いた。
「……不本意ながら、その通りです。気は進みませんが――ラピス姫様。このエクレールが必ずや、一人前の魔法使いにしてさしあげます」
ついにエクレールが折れる形でこの場は収束しつつある。
そんな中、恭平が口をはさんできた。
「瑠璃、これから自分がしようとしている事、本当にわかっているのか?」
「恭平? 当然わかっているわ。自分で言い出したことだもの」
「女王なんかに即位したら、もうこっちの世界で暮らす事はできなくなるぞ。いいのかそれで」
「わかってるわ。お父さんにお母さんは私によくしてくれたから、2人には悪いと思う。でも、国民が私が女王になることを望むのならそれでいいわ。それに、刺客に殺されるのを待つだけなんて私の性に合ってないしね」
何度も恭平に突っかかるほど、瑠璃は諦めが悪い。
そのことを理解している恭平は言葉につまるが、それでも聞いておかなくてはならないことがあった。
「自分が、向こうのお姫様だから気にしてるわけじゃないよな。本当の母親の敵を討ちたいなんて思っているわけでもないよな」
「そんなこと考えてもいないわ。こんなこと言うと薄情だって思われるかもしれないけど、先代の女王が無能だったからクーデターが起こったのよ。女王の政権は倒れるべくして倒れた。ただそれだけなの。私は樋山 瑠璃という1人の人間として、女王になろうと決意しただけ」
恭平が心配することは何もなかった。
やや早急過ぎるが、恭平より数段頭がいい瑠璃が導き出した答えなのだから、間違っていないのだろう。
「まだ向こう側には剣聖シャドウがいるし、まだまだお前に向けて刺客が来るだろ。なら、俺がお前の行く道を切り開いてやるよ。剣聖ライトニングが、お前の味方についてやるよ」
恭平の言葉に、瑠璃がフフンと鼻を鳴らした。
「当然でしょ。もう頭数に入ってるんだから、命の限り頑張りなさい。それには今は休んで体調を万全にしなさいね」
瑠璃はそう言うと、恭平を横たわらせた。
恭平を見下ろすように乗り出すと、ポロリを言葉を漏らした。
「で? 剣聖ライトニングって何? 厨二病?」
そのことを伝えていなかったことに、恭平とエクレールは頭を抱えた。
こうして、瑠璃を女王にするべく、恭平たちは動き出した。




